前立腺がん特集/前立腺がんの基礎知識

編集●「がんサポート」編集部
発行:2016年1月
更新:2019年7月

  

人口の高齢化とともに、前立腺がんの罹患数が増加している。国立がん研究センターがん対策情報センターの2015年のがん統計予測では、部位別の罹患数で前立腺が女性乳房を抜いて第4位となっている(2014年のがん統計予測では第5位)。

また男性においては、胃および肺を抜いて首位になると予測されている。早期の段階で治療を行えば治癒が期待できる前立腺がん、最低限知っておきたい基礎知識をまとめた。

前立腺がんの特徴

❶黄色人種には少なかったが、近年日本でも増加している

❷家族・親族に患者がいるとなりやすく、発症年齢も早い(40歳代~50歳代)

❸がんの中では比較的穏やかで、進行がゆっくりの場合が多い

❹早期発見すれば治る。また、早期がんなら治療の選択肢がたくさんあり、病状と患者の希望で選べる。新しい治療法も次々出てきている

❺ホルモン療法が非常に有効。進行がんでもこの治療が効くため、進行が遅く経過が長いことが多い

❻転移する場所で最も多いのは骨(骨転移)

前立腺とは

■前立腺の位置と構造

前立腺は男性生殖器の一部で、膀胱の真下にあり、尿道を取り囲むような形で存在している。重さ約15gのクルミほどの大きさの器官で、前立腺液を分泌。前立腺液は精液の成分の約30%を占め、精子に活性を与える働きをするほか、前立腺は射精時の収縮や尿の排泄などにも関わりがあるとされている。

検査法

血中に増えるPSA(前立腺特異抗原)が検査と診断に有効。直腸に指を入れ、前立腺の状態を探る「直腸診」、肛門から直腸に超音波を発する棒状の器具(プローブ)を入れて行う「経直腸的超音波検査」なども行う。がんが疑われたら、さらに針生検を行う。針生検とは、直腸にプローブを入れて超音波画像を見ながら、麻酔をして肛門や会陰部から針を刺し、前立腺の組織を採る検査で、10~12カ所程度、組織を採取する。最近はMRI(磁気共鳴画像法)が進歩し、小さいがんが発見できるようになったため、針生検の前にMRI検査を行う施設も増えた。

病期分類

がんと診断がついたら、病期診断を行う。通常、行われるのはMRI及びCT検査と骨に転移がないかを見る骨シンチグラフィ検査。病期は主に、国際対がん連合で使われているTNM分類を使う。Tは最初にできたがん(原発巣)の大きさ、Nは隣接するリンパ節に転移があるかどうか、Mはほかの臓器への転移(遠隔転移)があるかどうかを表す。

■前立腺がんのTNM分類

PSAとは

PSAは「前立腺がん」のみならず全ての「前立腺」の細胞が作る物質で、精液中に高濃度で存在する。がんになると前立腺の組織が壊れ、この物質が血中に漏れるので、血中にPSAが増えるとがんの疑いがあると考える。健康なときに、前立腺がんがないかをチェックするためにも使われるが、治療後に再発・転移がないかチェックするためにも使われる。注意が必要なのは、治療法により「再発の可能性あり」の数値が違う点。手術では前立腺を全摘するので、PSAを作る源となる前立腺の細胞がなくなり、0.2といった微量でも再発とみなす。

他方、放射線治療ではがんが消えても正常の前立腺細胞は残っているため、PSAもゼロにはならない。この場合PSAが0.2なら、治っている可能性もある。PSAをよく理解し、PSA値を判断することが大切。

グリソンスコアとは

■グリソンスコア

顕微鏡でがん細胞を観察し、その形態から悪性度(1~5)を判断。異型細胞の占める割合が最も多いものの評価をプライマリーパターン、次に多いものの評価をセカンダリーパターンと呼び、両者の和をグリソンスコア[GS](2~10)と言う。通常はプライマリーパターンとセカンダリーパターンの両方を4+3のように表記するが、両者の和のみを示す場合もある

グリソンスコアとは、前立腺がんの診断に使われる組織学的悪性度、つまりがんの顔つきを調べる指標のことを指す。生検で採った組織の顕微鏡像を見て、最も面積の多い病巣と次に面積の多い病巣を数字に表す。1(最もおとなしく見える組織)~5(最も悪性度が高く見える組織)の5段階評価になるが、1や2は針生検で採ったわずかな細胞では判断しにくいため、3~5を使って評価するのが一般的。3+3、3+4、4+3、4+4、4+5、5+4、5+5の7種類、つまり、評価の数値としては6~10になる。6はおとなしく、7は中間、8~10は悪性度が高いと判断。

治療法

早期前立腺がんの患者については、T因子(原発巣の大きさ)、PSA値、グリソンスコアの3つを用いてリスク分類を行う。リスク分類には「低リスク」「中リスク」「高リスク」の3種類があり、それに合わせて下記の図のような治療法を選択する。

■進行別治療法

「治療の効果」や「副作用」、「合併症」、「治療費」、「治療にかかる期間」などの内容を十分に理解したうえで、最良の治療法を選択する

疫学

■部位別の罹患数

男性では、前立腺がんは胃がんに次いで2番目に多い。

■部位別のがん罹患数(2011年)

資料:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター

■部位別の罹患数~年齢による変化

男性では、40歳以上で消化器系がん(胃・大腸・肝臓)の罹患が多くを占めるが、70歳以上では、その割合は減少し、前立腺がんと肺がんの割合が増加している。

■予測がん罹患数(2015年) ※上位10位までを掲載

・2015年の予測罹患数は約98万2,100例(男性56万300例、女性42万1,800例)
・2014年のがん統計予測(88万2,200例)と比較すると、男女計で約10万例増加
・大腸、肺、胃、前立腺、乳房(女性)の順にがん罹患数が多い
・部位別の順位を2014年のがん統計予測(胃、肺、大腸、女性乳房、前立腺の順)と比較すると、大腸が胃を抜いて第1位に、前立腺が女性乳房を抜いて第4位になった
資料:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター

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