新リスク分類で日本での全生存率などの予後をチェック
前立腺がんの新リスク分類とその評価 予後良好な中間リスク群ではPSA監視療法も
前立腺がんのリスク分類は、監視療法などの適応拡大に伴い、新しい前立腺がんのグレーディング(評価)システムを利用した分類が更新され続けられている。先ごろ米国で新しいリスク分類の改訂版が公表されたが、日本においてこの新しい分類を用いた集学的な治療成績の検討を行った研究結果が、昨年(2016年)10月横浜で開かれた日本癌治療学会で報告された。その内容を紹介する。
新たな前立腺がんのリスク分類
前立腺がんのリスク分類は、複数の要素を組み合わせて決められる。世界的に広く利用されているのが、全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織 NCCN(National Comprehensive Cancer Network;全米総合がん情報ネットワーク)が作成したガイドラインに沿ったものだ。
リスクは大きく3つの要素から推測される。まず、病変部についてのTNM分類がある。Tは「がんが前立腺の中にとどまっているか:原発腫瘍・深達度」を表し、Nは「リンパ節転移の有無」、Mは「遠隔転移の有無」を表す。それにPSA(前立腺特異抗原)の値、針生検で得た複数の病変部の組織を顕微鏡で見て悪性度を決めるグリーソンスコア(GS)が組み合わされる。
中間リスクを2つに分ける
「今回のNCCN前立腺がんガイドラインの改訂(2016年第3版)で特徴的なのは、中間リスクを予後良好中間リスクと予後不良中間リスクに分ける案が加わったこと」と話す国立病院機構東京医療センター放射線科医長の萬篤憲さんは、そのリスク分類に日本の症例を当てはめて予後を調べる研究を行った。これまで、長期の治療成績がリスク別で報告されることが日本では少なかったからだ。
まず、NCCNの新しいリスク分類について説明すると(表1)、超低リスクがT1c、GS6以下、PSA <10ng>
中間リスクは、T2b-T2c または GS7または PSA 10-20ng/mLとし、さらにGSが3+4で陽性コア率<50%かつ危険因子は1つであるものを「予後良好中間リスク」、GSが4+3のケースは「予後不良中間リスク」とする。
高リスクは、T3aまたは GS 8-10 または PSA >20 ng/mL。超高リスクは、T3b-T4、GS 8-10、複数の危険因子を持つ。
※ ※ ※ ※
GSの「3+4」「4+3」とは、針生検においてはがん細胞の悪性度を1~5の値で評価するが、その際に最も多い悪性度の細胞の値と次に多い悪性度の値を足してスコア化する内訳を示したもの。3+4とは最も多い悪性度が3で、次に多いのが4という意味となる。合計で6以下は性質のおとなしいがん、7は前立腺がんの中で最も多いパターンで、中くらいの悪性度とされている。
7年間の全生存率などを検討
萬さんは、新しいリスク分類を用いて、従来の治療成績を各種エンドポイント(評価項目)について検討を行った。
2002年から2011年までに萬さんの勤める国立病院機構東京医療センターで放射線治療を行った限局性前立腺がん患者1,974人を対象とした。内訳は、小線源985人、外照射194人、併用療法795人だった。
861人(44%)に内分泌療法(LH-RTアゴニスト)が併用された。再発に対する救済治療として内分泌療法、手術、再照射、観察が行われた。
対象を新しいリスク分類に沿って分類すると、超低リスク91人、低リスク520人、予後良好中間リスク469人、予後不良中間リスク552人、高リスク209人、超高リスク133人となった。
「約半分51.8%が中間リスクで、超低リスクが4.6%、低リスク26.3%、高リスク10.6%、超高リスクが6.7%でした」(図2)
エンドポイントは、7年経過時点の全生存率(OS)、前立腺がん特異的死亡率、転移率(去勢抵抗性を含む)、生化学的(PSA)再発率とした。
結果は、7年全生存率を超低リスク、低リスク、予後良好中間リスク、予後不良中間リスク、高リスク、超高リスクの順に列挙すると、96%、94%、95%、92%、89%、75%だった。そして前立腺がん特異的死亡率は、それぞれ0%、1%、1%、1%、3%、12%。転移率は同0%、1%、1%、4%、8%、25%。生化学的再発率は同1%、3%、7%、9%、18%、52%だった(表3)。
研究報告は「7年の治療成績は、全生存率、がん死亡率、転移率において、超低リスク、低リスク、予後良好中間リスクまでは良好な結果であり、きめ細かな監視療法の適応になる可能性がある。PSA再発率については、すべてのリスク群の間に明らかな差がみられる。NCCNの新しいリスク分類は、日本人に対しても適用可能で、長期にわたる予後調査が重要」と締めくくっている。
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