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脂質で増殖する前立腺がんには脂質の過剰摂取に注意! 前立腺がんに欠かせない食生活改善。予防、再発・転移防止にも効果

監修●堀江重郎 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授/医学部泌尿器科学講座教授
取材・文●半沢裕子
(2019年1月)

  
「脂質の少ない昔ながらの和食を食べていれば前立腺がんになりにくいし、なっても進行しにくいと思います」と語る堀江重郎さん

日本において近年急増し、2015年、2016年の国立がん研究センターのがん統計において男性の罹患率第1位に躍り出た前立腺がん。その一方、進行が緩やかで死亡率の低いがんとしても知られている。そんな前立腺がんは食事を中心とした生活改善で発症を予防できるだけでなく、前立腺がんになってしまっても再発や転移を抑えられる可能性が高いという。

では、どんなものを食べればいいのか、どんなものは食べないほうがいいのか。前立腺がん予防に早くから取り組んできた順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授の堀江重郎さんに聞いた。

食事の欧米化、とくに脂肪の過剰摂取が前立腺がん増加の原因

前立腺がんは腫瘍マーカー・PSA(前立腺特異抗原)の普及などにより、早期に発見されやすく、早期であれば生存率がほぼ100%のがん。症状によっては手術や放射線治療などの積極的治療を行わずに10年、15年と経過観察を行い、病状が動き始めたところで治療を開始する「アクティブ・サーベイランス」(積極的監視療法)が選択されることも少なくない。

かつては高齢者が罹るがんとされていたが、2000年代に入って50代からの発症も増え、さらに最近は40代で罹る人も増えてきている。患者数は1995年と比較して2020年には6倍にも達すると予想されている。

その大きな理由と考えられているのが、日本人の食生活の欧米化だ。とりわけ、脂質の摂り過ぎはメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)はじめ、さまざまな病気の原因とされているが、前立腺がんの増加にも強く関係していると考えられている。実際、前立腺がんが多い国として挙げられるのはアメリカ、北欧、オーストリアなど、肉食中心で乳製品や脂肪を多く摂取する食習慣の国々だ。

日本でも脂質の摂り過ぎは問題視されており、昨年(2018年)1月には厚生労働省がホームページに「脂質のとりすぎに注意」という警告を掲載している(図1)。

■図1 脂肪エネルギー比率分布(20歳以上)
出典:平成28年国民健康・栄養調査結果(厚生労働省)を元に農林水産省が作成

これによると「総脂質からの摂取エネルギー」が「総摂取エネルギー」に占める割合(脂肪エネルギ―比率)の目標量は男女とも20%以上30%未満とされているが、平成28年(2016年)国民健康・栄養調査の結果(厚生労働省)によれば、脂肪エネルギー比率が30%を超えている人の割合は、20歳以上の男性で約30%、女性で約40%という結果が示されている。また、近年の年次推移を見ても、男女ともに30%以上の人の割合が確実に増えているのだ。

コレステロールなどの脂質で増殖する前立腺がん

では、脂質の多い食生活はなぜ前立腺がんによくないのだろうか。

帝京大学で日本初のメンズヘルス外来を開設し、現在は日本Men's Health医学会の理事長も務める堀江重郎さんは説明する。

「前立腺は体内の臓器の中でコレステロールの含有量が一番多いのです。前立腺自体もコレステロールを産生しているし、体中のコレステロールが集まってくるところでもあります。つまり、体内の脂質の吸い取り紙のような臓器ですが、前立腺がんはまさにこの脂質を利用して増殖するタイプのがんなのです」

ご存知のようにコレステロールは脂質の一種で、細胞膜やホルモン、胆汁酸の材料となる重要な物質。しかし長い間、悪玉コレステロール(LDL)、善玉コレステロール(HDL)という呼び名で呼び分けられ、悪玉コレステロールが増えると動脈硬化や心筋梗塞を引き起こすとされてきた。

ただし、2015年には、血中コレステロール濃度と食物によるコレステロール摂取量に明らかな相関が証明できなかったとの理由で、まず米国が、そして日本の厚労省がコレステロール摂取制限を撤廃している。

しかし、脂質を摂り過ぎればメタボリック症候群はじめ、さまざまな病気を引き起こすのは間違いない。中でも、前立腺がんにとって脂質はまさに増殖するための栄養なのだ。

前立腺がんの発症予防にも、転移・再発予防にもなる食生活の改善

ということは、脂質を減らすと前立腺がんの予防になりますか?

「もちろんです。予防には1次予防、2次予防、3次予防があり、1次予防は病気にかかる前に備えること、2次予防はがんで言えば治療後に悪くならないよう防ぐこと、そして、3次予防は、転移・再発して進行がんになった場合でも症状が進まないよう抑えることですが、前立腺がんの場合、そのすべてに対して食事の改善は効果があります」

これは患者にとって朗報だ。まして、基本的に進行の遅いがんだから、症例によってはがんと共存して天寿を全(まっと)うできる可能性も低くないということだ。堀江さんは言う。

「アメリカのクリントン元大統領の主治医だった医師にディーン・オーニッシュ(Dean Ornish)という人がいます。この人は心筋梗塞で亡くなるアメリカ人が多いことに対し、食事と運動とストレス・マネジメントでこれを改善することを提唱しました。ディーンさんは前立腺がんについても興味深い臨床研究を行っています。

比較的悪性度の低い、または病巣の小さい前立腺がんの患者さんに生検を行う際、どんな遺伝子が発現しているか調べておき、食事の改善を行い、運動とカウンセリングを行いました。食事はいわゆる地中海式ダイエットといわれるもので、肉を減らして魚を摂り、野菜をたくさん食べる。オリーブ油を使って、ラードやコーン油を使わないというものです。そして、ストレスを減らすために運動をしてもらい、カウンセリングを実施しました」

「1年後に再度生検をしたところ、がんを発現させる遺伝子が減り、PSA値が下がっていたのです。つまり、前立腺がんと診断されたあとでも、食事の改善と運動、ストレス・マネジメントが非常に大事ということです。

前立腺がんの場合は手術などの治療により男性機能や排尿機能が損なわれることもあるので、悪性度が低い患者さんの場合は手術をするか、経過観察で行くか見極めが難しいのですが、経過観察の場合は『食生活の改善と運動をやっていきましょう』と言っています」(図2)

1日1回の機能性弁当を食べて、前立腺がんが全く進行しない人も

日本でも、そうした実践で成功した例があるという。約4年前、帝京大学医学部泌尿器科当時の堀江さん、農林水産省、そして企業と共同で開発研究した「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」に始まる「機能性テーラーメイド弁当システム」だ。1日1回、機能性食品(何かしら体にいい要素を持つ食品)を使ったお弁当を栄養士が前立腺がんの患者に提供するというもの。

メニューは22日分用意し、約3カ月間実施した。患者はお弁当を食べるだけでなく、UP2(ワイヤレス活動量計リストバンド)を身につけ、運動量や睡眠の質を計測・記録する。

「結果は驚くべきものでした。参加者のほとんどで体重が減り、血液の酸化ストレスが減ったのです」

患者の中にはPSA値が正常になり、病状が進まず、4~5年間、前立腺がんの治療をまったくしていない人もいるのだそうだ。

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