陽子線治療が保険で受けられる! いろいろな治療法がある前立腺がん、早期がんには患者にやさしい陽子線治療
2018年4月、陽子線治療で新たに前立腺がんに対する治療が保険適用となった。2008年から陽子線治療に着手し、さまざまながん種で数多くの症例に対して治療を行ってきた民間初のがん陽子線治療施設、南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)。そのセンター長に2017年就任し、兵庫県立粒子線医療センター(たつの市)在職時から、数々の症例に対する陽子線治療に従事してきた村上昌雄さんに、陽子線治療のメリット、今後の陽子線治療についてお話を伺った。
保険適用が認められた陽子線治療
男性特有の疾患である前立腺がんは、女性の乳がん同様に、その予後(よご)が良好ながんとして知られている。それとともに、治療の選択肢が多岐にわたり、いずれも有効性が高く、根治(こんち)が望めるがんとしても知られている。
とくに前立腺内に限局した早期がんの場合、近年では手術において、ロボット手術ダヴィンチの普及がめざましい。
放射線療法では、IMRT(強度変調放射線療法)、サイバーナイフ、内照射である小線源療法のLDR(永久挿入密封小線源療法)やHDR(高線量組織内照射)など、その有効性が認められ、患者の体にとってやさしい、低侵襲(ていしんしゅう)な治療の選択肢が豊富なのである。
そんな前立腺がんの治療として最右翼と目され、2018年4月、保健診療が認められ注目されているのが陽子線治療だ(写真1)。
重粒子線より優位性がある陽子線治療
「陽子線治療は、放射線の中の粒子線を用いる治療法です。粒子線は、X線やガンマ線のような光子線と違い、光の速さほどに加速した状態で照射すると、一定の深さのところで陽子線が停止し、目標であるがん病巣のところで、最大のエネルギーを発揮する〝ブラッグピーク〟を形成することによって、標的を効率よく叩き、他の部位へはできるだけ無駄な被曝がないようにできるという優れた治療法なのです」
そう説明するのは、南東北がん陽子線治療センターセンター長の村上昌雄さんだ。
村上さんが以前院長を務めていた兵庫県立粒子線医療センターでは、同じ粒子線でさらにエネルギーが強く、破壊力があるといわれる炭素イオン線(重粒子線)による治療も行っていたが、巨大な施設・装置が必要なため、建設コストや各疾患に対する治療の有効性などを比較してみると、陽子線治療のほうに優位性があると力説する。
「前立腺がんは、治療の選択肢が豊富で、すべての治療法で、その有効性は認められていることは確かです。しかし、陽子線治療が保険承認されたことによって、陽子線治療の普及は今後さらに進んでいくと考えています」
現在、村上さんたちは、頭頸部がん、肺がん、肝がん、膵がんなど難治(なんち)性のがんに対する治療に力を入れているが、患者数の多い前立腺がんの症例についても、ここ数年、リニアック(放射線治療装置)によるIMRTよりも、陽子線治療が増加傾向にある(図2)。
2018年4月の保険適用以降の症例数は、2018年11月30日現在で、わずか8カ月ではあるが、73症例の治療実績がある(リニアックは22例)。総治療数においては662例という実績を残している。
陽子線治療のメリットのいろいろ
陽子線治療は、体にやさしく、副作用が少ないうえに、照射時間自体はわずか1~2分だ。病院滞在時間も1時間程度で済むため、患者にとって時間的な負担が少ないこともメリットだ。
そして、何よりのメリットは、保険適用となったことで、治療費の面においても患者にとっては福音となっている。陽子線治療の保険適用後の治療費は160万円となった(自費のときは約280万円)。保険適用になったことで高額療養費制度を使える。現在、IMRTを受けても約140万円かかるため、費用対効果、副作用などを考慮すると、陽子線治療のほうが優っていると村上さんは強調する。
「もちろん前立腺がんの根治的な治療としては、IMRT、サイバーナイフなども有効性は高い治療です。しかし、もはや陽子線治療が受けやすくなったことで、陽子線治療を選択するケースが格段に増えるのは確かでしょう。例えば、IMRTも良い治療法ですが、さまざまな方向から照射する方法ですから、膀胱(ぼうこう)、直腸、小腸など、周囲の正常組織にも照射されてしまうことは否めません。前立腺に有効な照射ができたとしても、必ず他の臓器への痛み分けが広い範囲にわたって起こるのです。
放射線治療医の中には、耐用線量の範囲内であるから大丈夫だと主張をする人もいますが、もし次の治療を受けなければならないような状況が生じた場合を考えると、最初の治療で、できるだけ無駄な被曝は避けておくに越したことはないのです。その点、陽子線治療はIMRTに比べて照射体積が少ないことがメリットです」(図3)
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