最先端放射線治療では、効果は同等、QOLは凌駕の結果~
前立腺がんの手術と放射線治療どちらが上か
「手術と放射線治療の効果は
同等。患者さんは自分に合った
治療法を選んで欲しい」と話す
篠原信雄さん
手術か放射線治療か~。そう迷う前立腺がん患者さんは少なくないだろう。
果たしてその効果とQOL(生活の質)はどのように違うのか、それぞれの治療法を比較した臨床試験を基に検証した。
手術と放射線治療の生存率には差がないというが……
手術、放射線治療にホルモン療法、そして経過観察まで、前立腺がんの治療方法は本当にたくさんある。患者さんにとって幸いである反面、治療法の選択に大きな迷いをもたらしているのも間違いない。
たとえば、2006年の前立腺がん診療ガイドラインでは、外科治療(前立腺全摘手術)が「最も根治性の高い治療」とされ、推奨グレード(*)Bとなっている。が、放射線治療も、腫瘍マーカーであるPSA値の上昇という点で、全摘手術と差がないとして、やはり推奨グレードB。さらに、前立腺の中にがんがとどまっている症例に対しては、ホルモン療法も推奨グレードBとされる。
また、かつては全摘手術が放射線治療に比べ、10パーセントほど生存率に勝るとされていたが、それは放射線をがん細胞だけに絞ってかける技術がなく、まわりの正常細胞も傷つけてしまうため、高い線量が照射できなかったから。
技術の進歩にともない、今日では2つの治療の再発率に差がないことが確認されている。つまり、今なお、どの治療法がベストなのか、患者さん自身も医師も決めかねる状況にある。
「どっちを選んでも正解ですが、医師が『私の経験では手術がベスト』といい、その治療法に患者さんが同意するというパターンで、実際には手術が選ばれることが非常に多いです」
北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科教授の篠原信雄さんはいう。ただし、 「手術の技術進歩も著しいが、放射線照射技術の技術進歩も大変なものです。そうした最先端の放射線治療と前立腺全摘手術を比べたら、結果はどうなのか。患者さんはそこを追求して、治療法を選択してほしいと思います」とも付け加える。
*前立腺がん治療の推奨グレード=A:行うよう強く勧められる B:行うよう勧められる C:行うよう勧められるだけの根拠が明確でない D:行わないよう勧められる
今までの放射線治療と次元の違う精密さ
[動体追跡強度変調放射線治療のしくみ]
そんな最先端技術の1つに、動体追跡強度変調放射線治療(RT-IMRT)がある。レントゲン画像から臓器の位置をリアルタイムに刻々と確認し、がん細胞だけを高線量の放射線で精密に狙い撃つ治療法だ。そうした方法は画像誘導放射線治療と呼ばれ、ノバリス、サイバーナイフなどの先端技術もこの仲間だ。
今、日本に最も普及している放射線治療はリニアック(直線加速器)を使う方法で、長い間医師が経験に基づき、照射範囲を決めてきた。当然、照射精度は十分とは言えず、より精度の高い治療が望まれていた。
そこに登場したのが強度変調放射線治療(IMRT)。がんの形にあわせて照射角度や強度を調節できる"夢の放射線治療"だったが、「臓器が動くと対応がむずかしい」という弱点があった。
そこで次に、動く体=動体の動きにあわせて、照射する放射線の位置や強度を修正できる技術が追求され、1998年に三菱電機と共同で開発した装置を使い、北大で臨床研究が始まったのが動体追跡強度変調放射線治療だった。最初は呼吸とともに動く肺が対象だったが、1999年、直腸が便でふくらむのに伴い、位置が数ミリ~1センチ動く前立腺でも臨床試験が始まった。
具体的には、直径2ミリの金の球体(通称、金マーカー)を3つ、腫瘍近くに埋め込んでおき、治療台の左右に取りつけたレントゲン装置で、治療中、金マーカーの位置を確認する。球体が3つなので、ベクトル計算の原理で腫瘍とマーカーの位置関係が3次元的に把握できる。マーカーの動きは1秒間に30コマ(1回0.033秒)、コンピュータに認識され、その画像を見ながら放射線がかけられる。
まさに、「今までの放射線治療とはまったく次元の違う、手術のメスのような精度をもつ放射線治療」(篠原さん)なのだ。
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