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共に戦っていくための、今知っておくべき最新情報
前立腺がんでも、長く健やかに過ごせる!新しい治療法と情報が満載


発行:2011年12月
更新:2013年4月

  

前立腺がん市民公開講座

市民公開講座が開かれた東京「有楽町朝日ホール」の会場

「前立腺がん治療の最前線・共に戦っていくための、今知っておくべき最新情報」というテーマのもと、文部科学省がんプロフェッショナル養成プラン「南関東圏における先端的がん専門家の育成」9大学共同事業体・エビデンス社主催、ノバルティスファーマ株式会社協賛による第3回市民公開講座が、8月28日に開かれた。体への負担が少ない手術や放射線治療、次々に開発される治療薬など、前立腺がんの最新の診断法や治療法が、がん医療界の第一線で活躍する医師たちによって解説された。そのハイライトをご紹介しよう。


馬場志郎さん
「前立腺がんは治療法が豊富」と語る
馬場志郎さん

前立腺がんの治療は選択肢が豊富

「手術、放射線治療やホルモン療法が幅広く行われるなど、治療の選択肢が豊富」──市民公開講座の総合司会を務めた北里大学泌尿器科学教授の馬場志郎さんは、前立腺がんの治療の特色についてこう表現した。しかし、「それだけに、どの治療をどのように選べばよいのかがわかりにくい」と注意を促し、「治療を成功に導くには、患者さんやご家族も前立腺がんについてよく理解する必要があります」と呼びかけた。

では、その診断で重要なのは何かというと、「PSA(前立腺特異抗原)と前立腺針生検標本の病理所見が前立腺がんの治療のキーだ」と言う。「前立腺の内部は胃腸や肺、あるいは膀胱、尿道と違って内視鏡などによる検査ができない。また、CTなどの画像検査で見つかる前立腺がんは進んだ段階になっていることが多い。そこで、前立腺のマーカーであるPSAによるスクリーニングと、PSAの値が異常に高い場合に行う前立腺針生検が前立腺がんの早期診断の拠り所になるからです。そのことも頭に置いておいてください」と述べた。

引き続き、前立腺がんの診断、手術、放射線治療、ホルモン療法、転移・再発治療について、各分野で活躍する研究者たちがそれぞれ講演を行った。前立腺がんの治療では、治療効果だけでなく、合併症や副作用の軽減、痛みの緩和など患者さんのQOL(生活の質)の維持も重視されている。講演では、手術創が小さくてすむ内視鏡手術、がんを狙い撃ちにする体にやさしい放射線治療、さらに、骨転移のさまざまな症状を抑える「ビスホスホネート製剤」などについてもくわしく解説された。さらに、参加者からの質問に専門の研究者が答える「Q&Aセッション」も設けられた(くわしい内容については後述)。

現在、国内外では遺伝子療法、新しい抗ホルモン剤や抗がん剤など、前立腺がんの新治療の研究が目白押しで進められているという。「前立腺がんの転移・再発治療」について講演した北里大学泌尿器科学講師の佐藤威文さんは、「こうした手段を使っていけば、たとえ前立腺がんが進行しても、長く健やかに過ごすことは可能です」と訴えた。

講演1「前立腺がんの診断と待機療法」
低リスクのがんには「治療をしない」道もある

演者:遠藤文康 聖路加国際病院泌尿器科医幹

遠藤文康さん
「低リスクの場合、待機療法も選択肢」と説明する
遠藤文康さん

有効性が明らかな前立腺がん検診

[前立腺の構造]
前立腺の構造

前立腺がんがわが国でも急増しています。たとえば、男性のがんの発症者数で見ると、前立腺がんは2008年には全がん種中で第6位、20年には第2位に浮上すると見られています。また、65歳以上で顕著に増えています。

前立腺は精液の一部を産生する男性固有の生殖器。膀胱の下、尿道を取り囲むようにしてあります。前立腺がんは「外腺」と呼ばれる前立腺の外縁部に多発します。そのため、進行しないうちは血尿、排尿障害といった自覚症状が出にくく、発見が遅れる傾向にあります。実際に、前立腺がんの発見時に約3割がすでに骨に転移しているというデータもあります。

そこで、泌尿器科学会では前立腺がん検診を勧めています。オーストリアでは検診導入後、前立腺がんの死亡率が54パーセント減ったという研究報告があります。欧州での無作為化比較試験の結果によると、検診を受けた人では、前立腺がんによる死亡率が約2割減りました。こうしたエビデンス(科学的根拠)によって、検診の有効性は明らかだと考えられています。

治療の利益と不利益を天秤にかける

[PSA検査の前立腺がん発見率]
PSA検査の前立腺がん発見率

[前立腺がんの病期別の治療法(早期がん)]
前立腺がんの病期別の治療法(早期がん)

[前立腺がんの病期別の治療法(浸潤・転移がん)]
前立腺がんの病期別の治療法(浸潤・転移がん)

前立腺がんの1次検診の方法としては、直腸に指を入れて触診を行う「直腸診」、直腸から超音波を発して行う「経直腸超音波検査」などがありますが、最も重視されるのがPSA検査。PSAは前立腺特有の分泌物で、精液に含まれているたんぱく質の1種です。前立腺に病変があると血中濃度が高まるので、前立腺がんの腫瘍マーカーになるのです(がん再発のチェックにも活用される)。PSA検査は精度が8割を超え、血液検査なので体の負担が軽いのも特徴です。

1次検診でがんが疑われたら生検を行い、組織を取り出して調べます。がんだった場合、がん細胞の形態から悪性度を判定します(グリソンスコアで分類)。併せてCTやMRIでがんの広がり、転移の有無などを調べて、病期を決めるのです。

こうした診断に基づいて、手術や放射線治療、ホルモン療法といった治療方針が検討されます。しかし、前立腺がんの場合、進行していない低リスクのがんについては「待機療法」、つまり「治療をしないで経過観察をする」という選択肢もありえます。なぜなら、こうしたがんは急に生命の危機を招くものではなく、治療によって体に不必要な負担をかけたり、性機能障害や尿失禁などの合併症が起こったりすることもあるからです。治療による利益と不利益を天秤にかけてみて、もし不利益のほうが大きければ、まず待機療法で様子を見るほうが得策といえるわけです。

ただし、待機療法は治療を行わないわけですから、リスクも伴います。待機療法ではPSA検査によってこまめにチェックし、定期的な生検も行います。もし、がんが進行したり、グリソンスコアが上がったりしたら、治療を始めることが必要となります。


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