内視鏡手術の操作を、より精密に行うロボット手術も普及へ
根治も可能――打つ手の多い早期前立腺がん治療
藤田保健衛生大学医学部
腎泌尿器外科講師の
丸山高広さん
日本でも増加しつつある前立腺がん。しかし、決して恐れることなかれ!
前立腺がんはほかのがんと比べて進行も比較的緩やかで、早期に見つかれば、治療法もたくさんあるのだ。
ここでは、藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器外科講師の丸山高広さんに、早期の前立腺がんの治療法について教えてもらった。
高齢者に多いがんで進行が比較的緩やか
前立腺は男性の膀胱の下にある器官で、精液の一部となる前立腺液を分泌しています。尿道を取り巻く構造になっていますが、がんの70パーセントは、辺縁領域と呼ばれる前立腺の外側部分から発生します。
前立腺肥大症は、尿道に近い内側部分に良性腫瘍が発生するので、尿道が圧迫されて、尿が出にくいという症状が現れます。一方、前立腺がんの多くは外側にできるため、初期の段階では自覚症状が現れにくいといえます。
前立腺がんには、(1)高齢者に多い、(2)進行が比較的ゆっくり、(3)早期であれば根治が可能、(4)ホルモン治療が有効、といった特徴があります。
腫瘍マーカーのPSAでがんの人を探し出す
多くの人の中から前立腺がんの疑いがある人を探し出すスクリーニング検査として、「PSA検査」が行われています。PSA(前立腺特異抗原)は前立腺で作られるたんぱく質の一種。健康な人の血液中にも含まれますが、前立腺がんがあると異常に増えるため、腫瘍マーカーとして利用されています。
PSAの値が3~4を超えると、前立腺がんの疑いがあるといわれ、値が高くなるほど、がんの可能性が高くなります。PSAが10程度までなら10~30パーセント。PSAが50~100になると、85パーセント以上の人に前立腺がんが見つかります。
スクリーニング検査としては「直腸診」も行われています。肛門から指を入れ、直腸壁越しに前立腺に触れ、大きさ、固さ、弾性を調べます。前立腺がんが進行すると、固く、表面がでこぼこしてくるのでわかります。
超音波検査もスクリーニング検査として行われます。直腸にプローブ(超音波を発信する装置)を入れ、前立腺を画像化します。がんが進行してくると、左右対称でなくなり、周囲との境界が不明瞭になります。
針生検でがんの有無と悪性度を調べる
スクリーニング検査で、がんの疑いがある場合、「前立腺針生検」が行われます。前立腺に通常6本以上の針を刺して組織を採取し、本当にがんがあるかどうかを顕微鏡で調べるのです。これが確定診断となります。
がん細胞が見つかった場合、がん組織を5段階に分類するグリソン分類で評価します。正常に近い1から、最も悪性度の高い5まで、5段階に分かれています。どこに分類されるかが、治療法を選択する際の重要な情報となります。
治療を開始する前に、がんの進行度を調べておく必要があります。そのためにCTやMRIなどの画像検査が行われます。これによって、がんが前立腺の中だけにおさまっているのか、周囲のリンパ節にまで広がっているのかがわかります。
がんの状況や患者の希望を考慮して治療法を選択
前立腺がんの治療は、大きく局所治療と全身治療に分けられます。局所治療として行われるのは、手術と放射線治療で、これらは根治につながることがあります。全身治療としてはホルモン治療が行われます。
治療法を選択する際に考慮する要素としては、(1)がんの病期(進行度)や悪性度、(2)年齢、(3)全身状態や合併症の有無、(4)患者さんの希望、などがあります。これらを総合的に判断して治療法を選択します。
がんが前立腺の中に限局する早期がんの場合、手術、放射線治療、ホルモン治療が選択肢となります。
いずれもよく効くので、どれを選択してもよいでしょう。これらの治療法を組み合わせることもできます。
もっと早期のがんとしては、前立腺肥大症の手術などで、たまたまがんが見つかるケースがあります。このような場合には、積極的な治療は行わず、定期的にPSA検査を行い、経過観察するという方法がとられるようになっています。
がんが前立腺から出て周囲に広がっている場合には、手術や放射線治療だけでは不十分なので、これらとホルモン治療を組み合わせた治療が行われます。また、周囲の臓器に広がっていたり、骨などに転移していたりする場合には、局所治療では効果がないので、全身治療のホルモン治療が選択されます。
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