手遅れにならないためには、受診をためらわないことが大切
これだけは知っておきたい泌尿器がんの基礎知識 前立腺がん編
群馬大学医学部付属病院
泌尿器科教授の
鈴木和浩さん
泌尿器がんで患者数の多いがんは、前立腺がん、膀胱がん、腎がんで、これを泌尿器の3大がんといいます。
腎がんを中心に、泌尿器がんに関する基礎知識や変わりゆく最新の治療を解説します。
腹部の後ろ側に存在する排尿に関係する臓器
まず“泌尿器とはどのような臓器か”というところから始めることにしよう。そもそもは尿の分泌や排泄に関わる臓器のことだが、泌尿器科が扱う臓器となると、これだけではないらしい。群馬大学医学部付属病院泌尿器科教授の鈴木和浩さんは、次のように説明してくれた。
「泌尿器科が扱うのは、副腎、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道、精巣です。つまり、泌尿器科が扱うのは、尿に関わる臓器が中心ですが、それだけではありません。一言でまとめれば、後腹膜の臓器ということ。泌尿器がんとは、これらの臓器に発生したがんを指します」
胃や腸や肝臓の入っているスペースを腹腔といい、腹膜は腹腔の内側を覆っている。後腹膜とは、腹腔の外の背中側にあるスペースのことで、ここに泌尿器科で扱う臓器が入っている。副腎はホルモンを分泌する内分泌器官、精巣と前立腺は男性の生殖器官だが、これらにできたがんも泌尿器がんなのだ。
「泌尿器がんで患者さんの数が最も多いのは前立腺がん。膀胱がん、腎がんがそれに続きます。副腎がん、尿道がん、精巣腫瘍もありますが、それほど多くはありません」
今回は前立腺がん、膀胱がん、腎がんの3つに絞って解説してもらうことにした。
泌尿器にまつわる臓器が中心。後腹膜にある
膀胱がん、腎がんも女性より男性に多い
泌尿器がんで最も死亡数が多いのは前立腺がんである。男性のがんだが、08年の年間死亡数は9989人(国立がん研究センターがん対策情報センターのデータ・以下同)。男性では、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、食道がんに次ぎ7番目に死亡数が多い。
がんになる人数については、04年の推計罹患数が発表されている。前立腺がんが3万9321人、膀胱がんが1万6051人(男性1万2012人・女性4039人)、腎臓がんが1万3732人(男性9358人・女性4374人)である。
「女性より男性に多い傾向があります。膀胱がんは喫煙が重要な危険因子になっていますし、染料などの職業性発がん物質が存在することも明らかになっています。そうしたことも、男性に多い原因となっているのでしょう。腎がんは、喫煙や肥満が危険因子です」
また、腎がんは人工透析をしている人たちにも起こりやすいことも知られているそうだ。
PSA検診により早期で発見される
前立腺がんは、排尿障害などの症状で発見されることもあるが、最近はPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーで異常を指摘され、発見につながるケースが増えている。
「PSA検診にはいろいろな意見がありますが、ヨーロッパの比較試験では、PSA検診を行うことで、進行期で発見される人が減ることが明らかになっていますし、死亡率が低下することも証明されています」
一方、アメリカの比較試験では、PSA検診で死亡率が低下することは証明されなかった。ただ、この比較試験では、被験者の半分がすでに検診を受けており、さらに、検診を受けない群に割り振られた人の多くもPSA検査を受けている。そのためにはっきりした結果が出なかったのではないか、とも言われているそうだ。
「PSAの基準値は、一般的には4.0(ナノグラム/ミリリットル)未満。ただ、加齢で上昇する傾向があるため、年齢階層別基準値を用い、50~64歳は3.0未満、65~69歳は3.5未満、70歳以上は4.0未満とすることもあります」
年齢階層別基準値を用いると、比較的若い人における見落としが少なくなるという。
PSA検診の対象は一般的には50歳以上。しかし、前立腺がんには家族歴が関係するので、家系に前立腺がんの人がいる場合には、40代、あるいは40代後半からの検診が勧められるという。
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