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PSA値が上下したからといって、一喜一憂してはいけない
前立腺がん治療におけるPSAとの上手な付き合い方

監修:赤倉功一郎 東京厚生年金病院泌尿器科部長
取材・文:林義人
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  
赤倉功一郎さん
東京厚生年金病院
泌尿器科部長の
赤倉功一郎さん

前立腺がんでは、治療後、定期的に検査を受けていくが、その結果出るPSA(前立腺特異抗原)の値にたえず過敏に反応する患者さんが多い。
確かにPSAはがん治療後の経過を監視する手段として有用だが、高いか低いかだけに敏感になり過ぎるとストレスが高まるばかり……。
では一体、PSAの値をどう見ていったらいいのだろうか。

PSA値を左右する炎症と男性ホルモン

[PSAとは?]
図:PSAとは?

前立腺は精液を作る臓器だ。その前立腺の上皮細胞で合成されるタンパク分解酵素の1つがPSAであり、精液の中に分泌される。精液はPSAのお陰で固まらずにサラサラになり、精子が運動しやすくなる。精液中にPSAは、1ミリリットル当たりミリグラム単位という高濃度で含まれている。

これに対して、前立腺がんの腫瘍マーカーになっている血液中のPSAの量は、1ミリリットル当たりナノグラム単位で、精液中よりはるかに少なく、100万分の1くらいの濃度しかない。

東京厚生年金病院泌尿器科部長の赤倉功一郎さんはこう説明する。

「血液中に観察されるPSAは、前立腺がんや前立腺肥大症、急性前立腺炎などの病気や炎症で分泌腺の構造が壊された結果、血液中にも漏れ出たもの。ですから、PSAは前立腺の特異抗原であって、けっしてがんの特異抗原ではないし、PSA値が高ければ必ずしも前立腺がんというわけでもありません」

前立腺がんが進行すれば、病気による分泌腺の破壊でPSAが血中に多く出る。またがんが転移すれば、がん化した前立腺細胞が全身に散らばり、当然ながらPSA値も高くなる。

[PSAの特性]
図:PSAの特性

「もう1つPSAに影響を与える要素として大事なのは、男性ホルモンです。PSAの産生をコントロールする遺伝子の上流に、男性ホルモンが結合するところがあって、この刺激でPSA合成が促進されます。ところが、前立腺がんの患者さんにホルモン療法を行うと、男性ホルモンが少なくなってPSAががくんと落ちます。男性ホルモンを“餌”にしているがん細胞が死ぬのもその一因ですが、男性ホルモンの刺激がなくなるためにPSAの合成が低下するのです」

前立腺がんの患者さんは、PSAの数値に非常に敏感になっていることが少なくない。PSAの上昇が前立腺がんの再発を示すことを恐れているからだ。このようなPSAの上昇により再び前立腺がんが検知されることを「PSA再発」と呼んでいる。

このPSA再発について赤倉さんはこう説明する。

手術後のPSA再発
0.2が再発の目安に

「手術で前立腺を全て切除した場合、PSAを作る前立腺細胞がなくなるので理論的には術後のPSAは0(ナノグラム/ミリリットル:以下単位省略)になります。ただし、手術の仕方により正常前立腺がわずかに残る可能性もあり、0.1未満くらいの値が検出されることもあります。一般には、術後0.2という値を超えたらどこかに前立腺がんの細胞があると考え、再発と判断します」

もっとも、PSA再発が認められたからといって、必ずしもただちに2次治療の放射線照射やホルモン療法を始める必要はない。なにしろPSAが0.2という値は、転移が見つかったり、血尿や痛みなどの症状が出るといった、病状が進行した状態よりはるかに以前の段階だからだ。

「手術後PSAの値が0.2になっても、無治療でもその後平均的に8年間は何の症状も出ません。ですから、手術後にPSAが0.2を超えて再発となっても、あまりあわてないで欲しいですね。たとえば75歳の人が再発した場合、命に危険が生じるのは10年後くらいで、がんの治療をしなくても天寿を全うできるかもしれません。しかし、50代、60代の人なら10年後でも平均余命よりはるかに手前で前立腺がんで命を落とす恐れが大きいので、やはり早く治療したほうがよいでしょう」

PSA再発が、術後どのくらいの時間が経過して起こったかも問題になる。たとえば術後5年経って0.2になったというような場合はあわてる必要はないが、手術後半年以内の短い期間に0.2になったような場合は、進行が早い可能性があり、早く手をうつ必要がある。

放射線治療後のPSA再発
「最低値+2」で判断

放射線治療後に生じるPSA再発はどうだろうか。まず気をつけなければならないことの1つは、放射線治療には、放射線外照射と小線源療法の2つがあることだ。

「放射線治療、とくに小線源療法にはバウンシングといって治療後PSAが一時的にピュッと上がる原因不明の現象があります。また、感染症などにより、一時的に急にPSAが上がる場合もあります。こうしたPSA上昇と本当の再発を見分けるため、以前は再発を『PSAが3回連続上昇すること』と定義していました。しかし、現在は『最低値+2』と定義しています」

放射線治療を受けた場合、手術のように、PSAは0にはならない。放射線の場合、前立腺をまるごと取るわけではないので、がんが消えても、正常の前立腺細胞が残っているからだ。そのため放射線治療を受けたあとでも、PSAが0.2くらいの人もいれば、1くらいで落ち着いている人もいる。

また、放射線治療はホルモン療法を併用することがよくある。こうした例でも同じ再発の定義が適用されるのだろうか?

「ホルモン剤は前立腺細胞がPSAを合成する働きを止めるので、PSA値は放射線単独の場合よりも低くなり、ホルモン剤を止めると上がってきます。放射線治療の場合は治療しても前立腺細胞そのものは残っているので、ホルモン療法を止めるとPSA合成は再開されます。この場合のPSA上昇は、病状が悪化したためではなく、ホルモン環境が変わったためです。併用療法の場合はそれを見込んで『最低値+2』が提唱されています。併用療法でホルモン剤を止めたあともPSAが上がり『+2』を超えたら、医師と治療方針を相談してください」


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