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骨転移や疼痛が現れる前に治療を開始することで、より高い有効性が得られる
ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんに光を照らした新しい化学療法

監修:堀江重郎 帝京大学医学部付属病院泌尿器科教授
取材・文:町口充
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  
堀江重郎さん
帝京大学医学部付属病院
泌尿器科教授の
堀江重郎さん

転移をきたした前立腺がんの初回治療として、男性ホルモンの一種であるテストステロンの働きを抑えるホルモン療法が有効です。
しかし、ホルモン療法はやがて効かなくなります。ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんの治療として化学療法が検討されてきました。
近年、新たな薬剤の登場により、患者さんのQOL(生活の質)を保ちながら、より長生きできるようになってきました。

前立腺がんとホルモン療法

前立腺がんにホルモン療法が有効な理由を、帝京大学医学部付属病院泌尿器科教授の堀江重郎さんは次のように解説してくれました。

前立腺という臓器は、男性ホルモンの一種のテストステロンがないと成長しません。とくに思春期から大人になるにつれて、テストステロンの分泌が増えるのに伴って、前立腺も発達していきます。

その性質はがん細胞にも受け継がれていて、他の臓器に転移した前立腺がんであっても、テストステロンの分泌や働きを抑えてしまえば、がん細胞は増殖できなくなってしまいます。つまり、テストステロンを分泌する精巣と副腎に作用して、テストステロンの分泌を抑制し、前立腺がんの増殖を抑える治療法がホルモン療法です。

ところが、ホルモン療法には大きな問題があります。それは、他の臓器に転移していないがんではホルモン療法の効果が比較的長く持続することが多いのですが、転移しているがんでは多くの場合、5年以内にホルモン療法が効かなくなってくるのです。

PSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる腫瘍マーカーの値がしばらくは下がっていたのに、再び上昇してきて、落ち着いていたように見えたがんがまるで炎が燃え上がるように再び活発に増殖してくるので、「再燃」と呼ばれます。

やがてホルモン療法に反応しなくなる「ホルモン不応性(ホルモン抵抗性)前立腺がん」の状態になると、これまでは有効な治療法はなかなかありませんでした。

ホルモン療法が効かない前立腺がんに新しい治療法

最近になって、ホルモン不応性前立腺がんに対してタキソテール(一般名ドセタキセル)という薬剤が効果を示すことがわかってきました。細胞分裂に欠かせないのが微小管というナノレベルの管ですが、この微小管の働きを阻害するのがタキソテールの働き。するとがん細胞は分裂できなくなり、死滅へと導かれます。

もう1つ、テストステロンはアンドロゲン受容体を介して作用しますが、タキソテールにはこのアンドロゲン受容体の働きを抑える役目を持っていることも最近、報告されています。

タキソテールの有効性は、00年~02年にかけて1006人のホルモン不応性転移性前立腺がん患者を対象に行われた大規模第3相試験(TAX327試験)で証明されています。

それによると、タキソテール(体表面積1平方メートルあたり75ミリグラムを3週間おきに)+ステロイド剤のプレドニゾン(一般名)投与群の全生存期間の中央値が19.2カ月だったのに対して、従来からホルモン不応性前立腺がんに使われてきたミトキサントロン(一般名)+プレドニゾン投与群は16.3カ月でした。その結果として、タキソテール+プレドニゾン投与群の死亡リスクは21パーセント低下しました。

この結果を受けて、タキソテール+プレドニゾン併用療法は04年にアメリカ、ヨーロッパでホルモン不応性転移性前立腺がんに対する治療法として承認され、日本でも08年に承認されています。

日本では前立腺がんに対する適応は未承認

[ホルモン不応性転移性前立腺がんの大規模第3相試験(TAX327試験)]

  ドセタキセル
3週間おき
+プレドニゾン
(335人)
ドセタキセル
1週間おき
+プレドニゾン
(334人)
ミトキサントロン

プレドニゾン
(337人)
死亡数(%) 285(85.1%) 285(85.4%) 297(88.1%)
全生存期間 19.2(17.5~21.3) 17.8(16.2~19.2) 16.3(14.3~17.9)
ハザード比
p値
0.79(0.67~0.93)
0.004
0.87(0.74~1.02)
0.09
 
2007年のデータ
Berthold DR, et al. J Clin Oncol 2008; 26: 242-245

タキソテール投与開始のタイミングを逃さないために

最近になって、タキソテールの治療効果をより高く得るためのポイントがわかってきました。

タキソテール開始後3カ月以内に、30パーセント以上のPSA値の低下があった人は、低下しなかった人に比べ、有意に生存期間を延長することができた、という解析結果が出ました。この要因として、5つの因子が強く関連していることがわかりました。

その5つとは、

(1)他臓器転移の有無、(2)疼痛の有無、(3)ヘモグロビン値低下による貧血の有無、(4)骨転移の進行の有無、(5)エストラサイト(一般名エストラムスチン)の投与歴の有無でした。

ですから、なるべくこれらの因子が無い段階から、タキソテールの治療をスタートしたほうが、より治療効果が期待できるといえます。

リスク因子が3個以上ある人のタキソテールを投与開始してからの期間の中央値が12.8カ月なのに対して、リスク因子が0~1個の人では25.7カ月というデータが出ています。

[ドセタキセル+プレドニゾン治療によりPSA30%以上の低下を予測する5つのリスク因子]
(EAUガイドライン2010追記)
図:ドセタキセル+プレドニゾン治療によりPSA30%以上の低下を予測する5つのリスク因子

骨転移や疼痛などの症状が現われる前に、ドセタキセルによる治療を早めに始めることでより高い有効性が得られる

「ホルモン療法を行っていて、3カ月とか半年の間にPSA値を3回測って、連続して上昇しているようなら、骨転移などの症状がなくても、そろそろタキソテールによる治療をスタートする時期といってよいでしょう」と堀江さんはアドバイスしています。

[再燃前立腺がんでドセタキセルを使用した例]
図:再燃前立腺がんでドセタキセルを使用した例

去勢抵抗性前立腺がんに対し、ドセタキセル60mg/m2で再燃した症例。70mg/m2へ用量を増加することで臨床効果が得られた。さらに再燃したので、用量を75mg/m2に増加し、エストラムスチンを併用することで、PSA値は安定化している


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