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ホルモン剤の投与法を工夫したり、新しい抗がん剤の登場により希望が出てきた
延命が可能になった再燃前立腺がんの薬物療法

監修:平尾佳彦 奈良県立医科大学泌尿器科学教室教授
取材・文:繁原稔弘
発行:2010年2月
更新:2019年7月

  
平尾佳彦さん
奈良県立医科大学
泌尿器科学教室教授の
平尾佳彦さん

前立腺がんのホルモン療法が奏効している患者さんの約半数が、数年の経過を経て再び前立腺がんの活動が活発になる、いわゆる「再燃」状態になる。再燃すると、治療はなかなか難しいが、治療法を工夫したり、有効な抗がん剤の登場により、延命ができる状況になってきた。

急速に増加している前立腺がん

前立腺は、男性だけにある栗の実大の臓器で、膀胱の直下の尿道を取り囲むように位置し、精液の1/3を生成している。

この前立腺に発生するがんが「前立腺がん」だ。前立腺がんは、欧米に比較して、日本ではそれほど発生数は多くないといわれてきたが、最近では、前立腺上皮から分泌される前立腺特異抗原(PSA)の血中測定法が開発・普及したこともあり、検診などで偶然に発見される数は急増している。

「前立腺がんの患者さんは、確かに増えています。しかし、ほとんどの前立腺がんは進行が遅いので、すぐに命に関わることはあまりありません。ですから、仮に前立腺がんだと診断されても、それほど慌てる必要はありません」と、奈良県立医科大学泌尿器科学教室教授の平尾佳彦さんは説明する。前立腺の細胞の増殖は男性ホルモンにより制御されていることから他のがんとは違い、前立腺がんは、外科療法や放射線治療により根治的な治療を行わなくても、ホルモン療法でがん細胞の活動を抑えることで“共存”しながら日常生活を送ることが可能といわれています。

前立腺がんを発見するPSA検査

肺がんや胃がんなどと同様に前立腺がんも、早期には症状はほとんど現れない。たまたま他の疾患で病院を受診した際に、血液検査で前立腺がんの検診をして、がんが発見されることが多い。また、前立腺がんは、骨に転移することが多いため、前立腺に関連する症状が無くても、腰痛をはじめとする骨の痛みなどから、前立腺がんと診断されることも少なくない。

しかし最近では、一般的に前立腺がんは、前述のPSAの値によって発見される機会が増え、早期の前立腺がんが増加している。

「PSAは前立腺がんの有無を知るマーカーとしては、非常に有効です。とくに最近では、測定法の精度があがっているので、PSAの値を見るとがんの発生がかなり正確にわかります」と平尾さんは言う。

ただし、気を付けなくてはいけないのは、PSA値が異常であっても、その全てががんだというわけではない点だ。前立腺肥大症や前立腺の炎症などで上昇することがあります。

「あくまで、前立腺がんを発見するきっかけとなる1つの指標ですから、数値で一喜一憂する必要はありません。しかし、異常値であれば精密検査は必ず受けて下さい」

ちなみに、日本では平均的なPSA値の上限は4.0ナノグラム/ミリリットル(以下、単位略)だが、同大学病院では3.7を基準値としている。

「ただし、患者さんそれぞれの状態は違いますから、あくまでも数値は目安であり、4.0以下でも前立腺がんが発見されることもあります。後は泌尿器科医が、触診などの検査などを行って前立腺の針生検などの必要性を判断します」

根治治療ができない場合は「抗男性ホルモン療法」

前立腺がんには、男性ホルモンの影響で細胞が増殖するという特徴がある。一般的には、初期の場合であれば、手術あるいは放射線照射による“根治治療”が行われるが、増殖速度の遅いものでは、定期的にPSAを測定して根治治療のタイミングをみるPSA監視療法も1つの選択肢になる。しかしながら、根治治療を希望しない、もしくは年齢や併発疾患などで適応にならない人には男性ホルモンを除去して前立腺がんを制御する治療も有効である。

男性ホルモンは主には精巣で分泌されるが、20パーセントほどは副腎からも分泌されている。それを前提にして、PSA検査などで前立腺がんが発見された場合には、精巣と副腎の両方から出る男性ホルモンを遮断することでがんの勢いを抑える治療が行われる。

具体的には、がんを増殖さす男性ホルモンを抑えるために、外科的去勢(除睾術)もしくは薬物的去勢(LH-RHアゴニスト)により精巣由来の、また「抗アンドロゲン剤」を投薬して副腎由来の男性ホルモンの活動を抑える。「がんを成長させる元になる男性ホルモンを除去してしまうことで、“兵糧攻め”にするわけです」と平尾さん。

こうした手段が選ばれるのは、前立腺がんの罹患率が高齢者に高いという特有の条件があるからだ。「日本人男性の平均寿命が約80歳だと考えると、前立腺がんの影響で死亡するよりも、循環器や脳血管などの他の疾患で亡くなられる可能性が高いためです。ですから、平均余命や身体的な条件を慎重に考慮して、適切な治療法を選択する必要があります」。

実際に、高齢者に発生する前立腺がんでは、根治治療であれ、抗男性ホルモン療法であれ、適切な治療を行うことで平均期待余命に匹敵する期間、快適な日常生活を過ごせるというデータもある。

[前立腺がんのホルモン療法]
図:前立腺がんのホルモン療法

「再発」と「再燃」は根治治療の有無の違い

前立腺がんの治療を行った後、PSA値は正常値以下に落ち着くが、やがてPSA値が上昇しだす場合がある。それは「再発」と「再燃」のどちらかによって、再び前立腺がんの活動が活発になったからだ。

この両者の違いは、最初に根治治療を行ったか、行っていないかによって決まる。平尾さんは次のように解説する。

「簡単に言うと、根治治療をして、がん細胞を全て取り除いたと思っていたのにがんが再び発生した場合が『再発』であり、一方、がん細胞をホルモン治療によって押さえ込んでいたものが、ホルモン療法に抵抗してその効果がだんだん無くなってきて活動を再開するのが『再燃』です」

つまり再発は、除去したと思われていたがん細胞がほんのわずか生き残っていたり、目に見えない微小がんが増殖して大きくなって出てくることだ。

そして再燃は、ホルモン療法は長く続けていると反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返すために起こる。「がん細胞の変異によって、それまで使用していた抗男性ホルモン療法に反応をしないものが生まれます。それらのがん細胞には、これまでのホルモン治療は効果が無くなってきたわけですから、治療法も変える必要があります」と平尾さんは説明する。

[初期ホルモン治療後に病勢が進行した時の治療選択の流れ]
図:初期ホルモン治療後に病勢が進行した時の治療選択の流れ

ヨーロッパ泌尿器科学会前立腺癌治療ガイドラインより改変


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