「前立腺がんと骨転移――上手にコントロールするためには?――」
骨転移はホルモン剤、ビスフォスフォネート剤を上手く使って治療しよう
札幌医科大学医学部
泌尿器科教授の
塚本泰司さん
札幌医科大学医学部泌尿器科教授で、同大学付属病院副院長の塚本泰司さんは、前立腺がん治療の専門家である。
前立腺がんの転移は骨転移が圧倒的に多く、痛みやしびれ・麻痺によって転移が発見されることが多い。
前立腺がんの初期にはホルモン療法が大きな効果を発揮するが、転移後の治療はビスフォスフォネートや放射線による治療がポイントだと、塚本さんは言う。
つかもと たいじ
1949年旭川市生まれ。73年札幌医科大学医学部卒業、同大学泌尿器科教室入局。77年同大学医学部助手、83年同大学講師。83~85年米国メイヨークリニック泌尿器科リサーチフェロー。86年札幌医科大学医学部助教授、95年から教授。06年札幌医科大学医学部付属病院副院長。専門は尿路性器がん、前立腺肥大症・下部尿路機能など。文部科学省学術審議会専門委員、日本泌尿器科学会評議員、日本癌治療学会評議員、日本がん治療認定医機構暫定教育医
前立腺がんの転移は骨転移が圧倒的に多い
「前立腺がんと骨転移――上手にコントロールするためには?――」をテーマに、(1)骨転移の起こる仕組み(2)骨転移の症状と見つけ方(3)骨転移の治療――の順に説明させていただきます。
まず「骨転移が起こる仕組み」を簡単に説明しておきます。前立腺がんの転移部位として圧倒的に多いのが骨で、85.8パーセントに達しています。以下、リンパ節38.4パーセント、肺5.1パーセント、肝臓1.6パーセント、その他0.9パーセントとなっています。どういう骨に転移するかと言えば、脊椎、骨盤骨、大腿骨など大きな骨が多く、肋骨に出ることもあります。
[転移しやすい骨の部位]
前立腺がんが骨に転移する仕組みは、一般のがんと同じように、ある程度推測はできます。まず前立腺がんの細胞が血管の中に入り、それが骨に到達します。そのときに特殊な現象が起きていることはわかっていますが、詳しいことはまだわかっていません。骨に到達したがん細胞は、キープレイヤーである破骨細胞を刺激し働かせて、がん細胞が棲みやすい場所を確保させます。その場所にがん細胞が棲みつくと、転移したということになります。
骨に棲みついたがん細胞は、さらに破骨細胞を働かせて骨を破壊し、がん細胞の増殖能を高める細胞増殖因子を出させることによって、ますます増殖し病巣を広げていきます。
骨転移による症状は痛み、しびれ・麻痺
次に「骨転移の症状と見つけ方」です。骨への転移をどういう症状から見つけるかといえば、第1は痛みです。痛みは非常に痛いケースから、何となく鈍痛を感じるケースまで、千差万別です。もう1つ注意しなければならないのが、手足のしびれ・麻痺です。しびれ・麻痺は、骨への転移が脊髄など神経のある部分を直接圧迫している場合があります。その場合、このような圧迫をできるだけ速やかに取らないと、麻痺が元に戻らない場合が出てきます。
手に持ったコップを落としてしまうような場合、がん細胞が首の骨に転移し、手の動きをつかさどる頸髄の神経を圧迫している可能性や、頭に転移している可能性も考えられますから、注意が必要です。また、今まで歩くことができたのに、急に歩けなくなった場合は、がん細胞が脊椎に転移して脊髄を圧迫していることが考えられますから、これも注意しなければなりません。
次に見つけ方についてお話します。最初に治療するときに、転移があるかどうか調べます。単純X線写真を撮ったり、骨シンチグラフィ(骨シンチ)で調べたりします。骨シンチでは転移している部位は黒く写ります。骨シンチは非常に鋭敏ですから、以前骨折したところや老人性骨変形症の部分なども黒く写し出されてしまい、あたかも転移しているように見えることがありますので、注意が必要です。要するに、黒く現れている部分がすべて転移とは限らないということです。
単純X線写真や骨シンチで転移が見つかったら、CT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)で骨を詳細に調べて、確定診断します。特にMRIは神経に圧迫があるかどうかなど、脊椎を調べるには非常に効果があります。
その他、骨代謝マーカーで転移を調べる方法もあります。前立腺がんの骨転移診断で用いられる主な骨代謝マーカーとしては、1型コラーゲンC-テロペプチド(ICTP)、1型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTX)、尿中デオキシピリジノリン(DPD)、1型プロコラーゲンC-プロペプチド(PICP)などがあります。
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