可能性を秘めた治療法だが、がん制御率で今イチ、副作用も
傷が小さく、何度でも治療できる超音波集束療法
帝京大学医学部付属病院
泌尿器科講師の
武藤智さん
強力な超音波を集束させることによって強力なエネルギーをつくり出し、がんを焼く。
この高密度焦点式超音波療法(HIFU)は、傷が小さく、高齢者にもやさしく、手術や放射線の適応からはずれても受けられるし、何度でも受けられる。ただ、他の治療法に比べてがん制御率が今イチで、排尿障害も強く出る危険性がある点は注意をする必要がある。
98度の熱で瞬時にがんを照射する
[治療用経直腸プローブ]
前立腺がんは、欧米では男性のかかるがんとしてはもっとも多い。日本でもここ50年間で80倍と急増。年間で6000人以上が亡くなっている。早期発見の対策として、90年代半ばより、血液中のPSA(前立腺特異的抗原)という物質を手がかりとする簡便な検査法が確立し、超早期あるいは早期のうちに見つかるケースが増えてきた。
治療法としては、おおまかに手術、放射線、ホルモンの3つの選択肢があるが、がんが前立腺内に限局している場合は、手術(前立腺摘除術)が第1選択だが、最近では原体照射やIMRT(強度変調放射線治療)、陽子線治療などのピンポイント放射線治療が手術に匹敵する根治療法になってきている。しかも、手術では勃起障害や尿失禁などの合併症が少なからず起こる。前者は40パーセント、後者は治療後半年の時点で10パーセントの頻度だ。
このような背景があるなかで、高密度焦点式超音波療法(HIFU)は登場してきたのである。
HIFUは、お腹の中の胎児の様子などを見るエコー(超音波)検査と同じ超音波を使うが、それを集束させることによって数万倍もの強力なエネルギーを生みだし、がんを焼く。
治療の手順は、全身麻酔をして、仰向けになった患者の肛門に直径3センチほどのプローブを挿入する。すると瞬時に前立腺を中心とする臓器のエコー画像がモニターに表れる。この画像上に治療範囲を指定していく。入力作業が終わったらスイッチオン。治療が開始される。
がんを照射する超音波はプローブから発射され、直腸越しに前立腺に到達するが、モニター画面で指定したポイントに来て初めて焦点を結び高エネルギーを発生するので、直腸を傷つけることはない。
焦点を結んだ箇所は瞬時に摂氏98度ほどになる。1つのポイントの照射時間は3秒ON3秒ON3秒OFFの照射を繰り返す。
「前立腺がんは形が明確でなく、画像では判別のつきにくい小さいものもあります。早期がんでも前立腺全体に広がっていることが多いので、全体にくまなく照射する必要があるのです」(武藤さん)
治療時間は約3時間だ。
→振動エネルギーが曲率中心である焦点領域に収束
・組織の吸収係数に応じて80.0-98.6度に熱変換
・組織内温度は短時間(一般には1秒以内)に高温に達するが、5mm離れた部位では50℃まで低下
・HIFUは標的となる焦点域内の組織を壊死させ、しかも周囲の正常組織に影響を与えない
コンピュータで完全自動化 治療当日から通常通りの生活
以上の治療は手動で行うのではなく、すべてコンピュータ制御で完全自動化されている。その間、麻酔科医を除く治療チーム(2人)はモニターの画面を見て、治療が順調に進んでいるかどうかをチェックする作業が中心となる。
照射終了後に、尿を導くカテーテルを尿道から膀胱に入れて、治療は終了である。治療は基本的にこの1回である。
「重い合併症などがない限り、翌日から通常の食事が摂れます。退院もその日に可能です。膀胱に入れた管は2週間ほどつけていなければなりませんが、先端にストッパーがついていますので、服も着ることができますし、家に戻ったらほぼ通常通りの生活をすることができます」
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