ビスフォスフォネート製剤によるがんの進行抑制と痛みのコントロール
前立腺がんにおける骨転移治療
北里大学医学部泌尿器科講師の
佐藤威文さん
前立腺がんは、乳がん、肺がんと並んで「骨転移」を起こしやすいがんです。
進行性前立腺がんの80パーセント以上に骨転移が認められるといいます。
患者さんのQOL(生活の質)や予後を左右する骨転移とそれに伴う諸症状および治療について、北里大学病院泌尿器科講師の佐藤威文さんにうかがいました。
自覚症状に乏しい早期骨転移が現れるD2期
前立腺がんのステージ(病期)は、がんの進行度によって大きくA・B・C・Dの4段階に分類されます。ステージについては、超音波検査やCT、MRI検査、骨シンチグラフィなどからがんの広がりを総合的に判断して決定します。
ステージ別のがんの進行状況ですが、前立腺内に限局している場合(A-B)、前立腺周囲に広がっているが転移がない場合(C)、リンパ節転移がある場合(D1)、遠隔転移がある場合(D2)と大きく分けられます。
前立腺がんは自覚症状に乏しく、A-B期ではがんに特有な症状が認められません。CからD期にかけて、排尿障害や出血、膀胱刺激症状(頻尿・排尿痛や排尿直後の痛み、残尿感)、排尿痛(排尿の際に痛みを伴う状態)が症状として現れることがあります。
自覚症状がほとんどなかった前立腺がんも遠隔転移、ことに骨転移を起こしたD2期に入るとがん性疼痛が出現してきます。骨転移に伴う痛みとは知らずに、腰痛や下肢痛で整形外科を受診、その結果、原発巣の前立腺がんが発見され、初めて自分ががんであると知る患者さんも少なくありません。骨転移は、一般的に坐骨や腸骨を含めた骨盤骨および腰椎や脊椎といった体を支える骨(支持骨)に多く、進行すると部位を問わず転移を起こします。
それにしても、前立腺で発生したがんが、どうして骨に転移するのでしょうか。
転移とは、がん細胞のかたまりからはがれ落ちた一部のがん細胞が血液やリンパの流れにのって他の臓器に運ばれ、そこに住みつくことによって生じます(図1参照)。前立腺がんは、骨の他にリンパ節にも転移しやすいがんだといわれています。
骨転移に伴う障害と生活への影響患者さんに必要な治療とは…
骨転移を起こした患者さんが抱える諸症状と治療について、北里大学病院泌尿器科講師の佐藤威文さんは、次のように話します。
「大切なのは生活への影響ですから、(骨転移に伴うがんの痛みを)緩和させることを最優先します。加えて、転移を有する患者さんの多くで見受けられる『病的骨折』を予防する治療も大切になってきます。こうした骨関連事象(SRE*1)を早期の段階から抑制していこうというのが最近の大きな流れです」
前立腺がんで骨転移を有する患者さんの期待余命(あと何年生きられるかという年数)は中央値で2年ないし3年といわれています。つまりは、骨転移を起こしてからの残された時間が比較的長いのです。
「転移を起こしているからといってすぐに日常生活を送れなくなるわけでもなく、余命がないというわけでもない。患者さんが、残された時間をいかに良い状態で過ごすかが大事です。治療にあたる医療者は、その点を念頭においたサポートを実施するべきだと思います」と、佐藤さん。
*1 骨関連事象(SRE)=骨病変の進展によって生じる病的骨折、放射線治療、外科的手術、脊髄圧迫などの総称
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