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前立腺がんのホルモン補助療法が患者延命のカギ
東京女子医科大学前立腺腫瘍センターに見る前立腺がん治療の選び方

監修:橋本恭伸 東京女子医科大学病院泌尿器科准講師
取材・文:林義人
発行:2007年2月
更新:2013年4月

  
橋本恭伸さん
東京女子医科大学病院
泌尿器科准講師の
橋本恭伸さん

2006年11月にオープンした東京女子医科大学病院前立腺腫瘍センターには、国内で他に例を見ない多彩な前立腺がん治療の選択肢が用意されている。

泌尿器科准講師の橋本恭伸さんは「患者さんの条件と希望に応じて最適の治療を提供できる場にした」と語る。

前立腺がん治療の3本柱、手術、放射線、ホルモン療法をどう使い分けるのか、とりわけカギを握るホルモン療法をどの局面でどう採用しているのだろうか。

最もよい治療法を提示する機能を備えた

前立腺がんは近年罹患率が急上昇している。現在は日本人男性で6番目に多いがんだが、2020年には肺がんに次いで第2位になると見られている。

一方、このがんは一般的にはゆっくり進行するがんなので、どの治療がどんな効果に結びつくのか、まだはっきりしたエビデンス(証拠)が得られていないところがある。有効率が高く合併症の少ない優れた治療法が出揃ってはきたが、どの治療法を選択すべきか、患者さんが迷うケースも少なくない。

こうした中にあって、昨年11月、東京女子医科大学病院に設立された前立腺腫瘍センターは、個々の患者さんに最も良い治療法を提示できる機能を備えたという。前立腺がんの治療方針は病理診断および画像診断に加えて、患者さんの年齢(=期待できる余命)なども考え合わせながら、よりよい決定を行っていく必要がある。橋本さんはこう語る。

「80歳代の前立腺がんの発生率は50歳代の100倍も増えてきますが、同じ早期がんであっても、年齢によってまったく治療法の選択が異なります。80歳代の患者さんだったらすぐに治療をしないで経過観察するのもとてもいい方法であり、70歳代くらいで期待できる余命が10年くらいというケースならホルモン療法がいい選択になるでしょう。

一方、50~60歳代で長期の余命が期待できるケースでは、経過観察やホルモン療法だけでは人生の後半の時期に症状が出て苦しむことになる恐れもあり、もっと積極的な放射線治療、あるいは手術といった治療を選ぶべきです」

[前立腺がんの病期別の治療法]
図:前立腺がんの病期別の治療法

放射線腫瘍部と泌尿器科合同のカンファレンス

こうしたことから同センターでは、手術やホルモン療法を専門にする泌尿器科と放射線治療を行う放射線科の放射線腫瘍部が合同カンファレンス(検討会)を設けて、前立腺がんの全例について治療方針を検討する体制を整えた。カンファレンスの結果から個々の症例について、「第1にお勧めする治療法」「その次にお勧めする治療法」という具合に患者さんにわかりやすく提示するのがこのセンターの特色だ。

「多様なご要望に対応できるよう、センターでは放射線治療と手術の道具立てをすべて取り揃えたといっても過言ではありません。放射線では小線源療法(*1)あり、高線量率の組織内照射法(*2)あり、さらにはX線を駆使したIMRT(*3)の施設もあります。また手術では開放手術を洗練させる一方、早期がんに適用される侵襲の小さい腹腔鏡下前立腺摘除術の技術も導入しました」

また、前立腺がんの患者さんは高齢者が多いために、6~7割が心血管疾患、糖尿病をはじめ様々な合併症を抱えている。そこで、東京女子医科大学病院では従来から定評がある「心臓病センター」、「糖尿病センター」などに備えられた高度な設備や優秀なスタッフを利用できるメリットもあり、こうした部署と連携を深めたがん以外の疾患に対する治療・ケアが充実しているところも前立腺腫瘍センターの大きな強みの1つだ。

*1 小線源療法:前立腺の中に低い線量の放射線を出す線源を埋め込み、前立腺内部から放射線治療を行う方法。放射線を前立腺に集中させることができるので、より大量の放射線を前立腺に照射することができる。
*2 高線量率組織内照射法 :前立腺に針をさして、その先端から高い線量の放射線を照射する方法。
*3 IMRT(強度変調放射線治療):コンピュータ計算により前立腺に集中して体外から放射線照射する方法。結果的に周辺の臓器への線量を軽減でき、合併症を少なくできる。

がんのコントロールに優れているが、根治性は今イチ

現在早期の前立腺がんに対しては、手術か放射線治療で原発のがんを叩く治療が標準的になっている。こうした早期がんに対して橋本さんは、「ホルモン療法はいちばん最初の治療法にはあまり推奨できない」と話す。それは、ホルモン療法には最初有効でも、10年くらいで耐性ができ、薬が効かなくなる恐れがあるからだ。

「ホルモン療法は前立腺がんにとってカギになる治療法で、早期のステージから進行期まで非常によくがんをコントロールする治療法と考えられます。その一方、根治性という点では有効ではない療法なので、期待余命が10年以上あると考えられる患者さんについては手術や放射線などの局所治療のほうが有利になると考えられるのです」

しかし、がんが周囲の組織に浸潤したりリンパ節に転移したりした、再発のリスクの高い前立腺がんについては、局所に対する治療だけではやや力が及ばないところがある。こうしたケースでホルモン療法は、局所治療と組み合わせて用いることで有用性を発揮することが多い。

また、がんがもっと進行して遠く離れた臓器にまで転移した段階では、局所治療を行っても意味がなく、ホルモン療法で全身に散らばったがんを叩くことが重要となる。

「中くらいの、あるいは高いリスクの前立腺がんに対して、初期治療として『放射線+ホルモン療法』という併用療法がきわめて有効というデータがあります。放射線照射の前に、または照射後に一定期間ホルモン療法をすることで、寿命を延ばす可能性が高くなることがわかっているのです」

高リスクのがんにはホルモンや放射線の併用を

一方、「手術療法+ホルモン療法」という併用療法に関しては、現在のところそれほど有効というデータが示されていない。手術が可能な前立腺がんに対して手術に先立ってホルモン療法を行うと前立腺周囲の組織が癒着を生じ、原発巣をきれいに切除しにくくなる。結果としてこの治療は、必ずしも命を伸ばすことにならないというデータが示されている。ただし、前立腺の全摘手術を行いリンパ節転移が陽性だった症例に対して、術後早期からホルモン併用療法を行うと、延命に結びつくというデータは出ている。

また、術後に併用する療法として、ホルモン療法ではなくて放射線治療を行うことも1つの選択肢となる。がんの顔つきが悪く、周囲の組織にまで広がっていて十分に切除しきれず再発のリスクが高い場合などは、ホルモン療法を併用する方法と並んで、放射線併用療法も検討されることになる。

「手術にプラスしてホルモン療法や放射線治療を行うのは、きわめて高リスクの症例に限られます。基本的に手術を行えば腫瘍マーカーのPSAの値が測定限度以下に下がるはずなので、下がらなければがんが残っていることになります。測定限度以下なら、即時にホルモン療法は行うことはあまりしません。手術単独で治りそうかどうかを観察しながら、併用療法を行うかどうかを検討し、過剰治療になるのを防いでいます」

[前立腺がんのリスク別の治療法(1)]

  リスク
低リスク 中リスク 高リスク
PSA≦10

グリソンスコア≦6

PSA≦10

グリソンスコア≦3+4
LN≦3%

左記以外 ≦cT3a
手術療法 腹腔鏡下前立腺摘除術 根治的前立腺摘除術
リンパ節郭清術
術前内分泌療法 なし
術後内分泌療法 右記以外 ≦pT3b
グリンソンスコア≦8
断端陽性
なし あり
いずれも全ての条件を満たしたときとする

[前立腺がんのリスク別の治療法(2)]

  リスク
低リスク 中リスク 高リスク
放射線治療 小線源療法
外照射
(3次元照射 or IMRT)
小線源療法
(グリソンスコア 3+4の場合のみ)
外照射±
高線量率組織内照射
外照射±
高線量率組織内照射
内分泌療法 なし 2~4カ月 1~2年

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