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最新標準治療 新しいリスク分類の考え方に沿って、最適の治療法を見出すコツ

監修:鳶巣賢一 静岡県立静岡がんセンター病院長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2006年5月
更新:2013年9月

  
鳶巣賢一さん
静岡がんセンター病院長の
鳶巣賢一さん

前立腺がんといえば、高齢がん、ゆっくりがん、ホルモン依存、抗がん剤が効きにくい、塊を作らず散らばりやすい等々、他のがんとは一風変わった性質を持っています。それだけに患者さんが治療を受ける場合、その人の考え方、生き方が大きな影響を及ぼします。治療法を選択していく場合、このことを頭に入れて、悔いの残らないように、慎重にしてほしいものです。

あなたはどう生きたいか、その生き方が治療法を決めます

肺がんに次ぎ、第2位との予想

前立腺がんは、他のがんにはないさまざまな特徴を持っています。静岡県立静岡がんセンター病院長の鳶巣賢一さんは、こう言います。

「前立腺がんは、加齢、つまり高齢になればなるほど多くなるがんです。しかも、一部を除き、ゆっくりと進行するタイプが多く、中には発見されないまま一生を全うする人もいるので、治療するべきかせざるべきか、ハードな根治的な治療をするべきか軽い治療にとどめるべきかも議論になります」

したがって、前立腺がんが見つかったからといって、慌てたり心配したりすることはありません。鳶巣さんが言うように、がんと知らずに寿命が尽きる場合もありますし、たとえ進行がんで見つかったとしても、治療の手は、手術をはじめ、放射線、ホルモン療法とさまざまあります。しかも「どの治療法もよく効きます」と鳶巣さんは言います。

しかし、1つ憂うべきことがあります。この前立腺がんが急増していることです。グラフを見ていただければわかりますが、その増え方はどのがんよりも著しく、今後もこの伸びが続いていき、2020年には男性がかかるがんでは、肺がんに次いで第2位になるという予想になっているのです(図1)。

[図1 日本男性の各がんの発症数の推移]
図1 日本男性の各がんの発症数の推移

なぜこのように前立腺がんが急増しているのでしょうか。先の鳶巣さんは、その原因として、加齢、生活様式の欧米化、発見方法の進歩の3つを挙げます。

「前立腺がんは、もともと高齢になると増えてくるがんですから、高齢人口が増えると当然前立腺がんも増えます。生活様式の欧米化では、疫学調査から高脂肪食が原因と推定されていますが、最近の調査では肥満も体重の増加も関係ないという結果が出ているそうです。私も以前、動物性脂肪でぶくぶく太らせたネズミを作る実験をしたことがありますが、がんの罹患率が高くなったわけではなかった。がんになるメカニズムはそう単純ではないようです。脂肪以外に、別の要因がからんでいると思います。実は、3つ目の発見方法の進歩が前立腺がん増加の最大の功労者で、PSA検査の普及や針生検の技術的進歩によりこれまで水面下に埋もれていたがんを次々に拾い上げてきたのです」

検査

PSAで発見されるがん

[図2 PSAとがんの発見率]

PSA (ng/ml) がんの可能性
~4 数%
4~10 30%
10以上 50%以上

PSAは、前立腺特異抗原といって、前立腺に特異的なタンパクの一種です。これは、正常な前立腺の場合も血液中にわずかに出ますが、がんになると大量に流れ出ます。その性質を利用して、PSAががんを発見するための指標として用いられるようになったのです(図2)。これで前立腺がんの状況が大きく変わりました。

前立腺がんはよほどの進行がんでないかぎり体に症状が出てきません。だからPSA検査が出る以前は骨やリンパ節に転移した進行がんの状態で見つかることが多かったそうです。しかし、PSA検査が普及してからは症状のない早期のうちに発見されるようになりました。とくにPSAが血清1ミリリットル当たり4~10ナノグラムある人はグレーゾーンといわれ、症状もない、触診(直腸指診)でもわからない、画像検査でもなかなか見つかりません。その中から生検で早期のがんがたくさん見つかるようになったのです。病期分類で腫瘍の大きさを表すTの1や2(前立腺内にとどまっているがん)の早期がんです。なかでも多いのが、T1cと呼ばれるがんで、現在発見される前立腺がんの半分ぐらいがこのT1cがんだそうです。T1cは、他には異常がなく、PSAが高いことから発見されたがんです。代わって、転移がんで見つかるケースはぐんと減っているそうです。このことが結果として前立腺がんの増加につながったものと考えられます。

ちなみに、PSAの正常値は4ナノグラム以下、10ナノグラム以上はがんの疑いが強くなり、生検の対象となります。4~10のグレーゾーンは、そのまま様子を見る(経過観察)のもいいのですが、早期発見のためにはこの段階で生検をすることが重要なことがわかるでしょう。

針生検は何本刺せばよいか

[図3 バイオプティガンを用いて行う針生検の方法]
図3 バイオプティガンを用いて行う針生検の方法

検査には、このPSA以外にも、先に述べた触診、それに超音波やMRIの画像検査がありますが、鳶巣さんによれば、触診、超音波は当てにならないと言います。腎臓がんでは、CTや腹部超音波検査でがんが発見されることがありますが、前立腺がんの場合は、腹部超音波検査ではほとんどわからないそうです。ただし、MRIについては、最近精度が上がってきて、PSAに次ぐ有効な診断の武器になりつつあるそうですが、確定診断前に実施することは保険でまだ認められていません。

「保険で認められているのは、がんの確定診断がついてからの検査ですが、その場合、針生検で刺した痕とがんとの識別がわかりにくく、MRI検査の実態と保険適用とが矛盾しているのが現状です」(鳶巣さん)

こうしてPSAや画像検査などで怪しいとなっても、がんが確定したわけではありません。がんと確定するには、最終的に組織診断をする必要があります。それに必要なのが生検です。

生検にも技術的進歩が見られます。生検は、前立腺の組織に先のとがった針を刺し、組織の一部を採取して、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる検査です。バイオプティガンと呼ばれる優れた生検器具が開発され、エコー(超音波)ガイドで行うことにより、診断の精度が飛躍的に高くなりました(図3)。この針を何本刺すかは病院によって異なっていますが、静岡がんセンターでは10本、国立がん研究センターでは14本です。「もちろん、たくさん刺せば刺すほどがんの発見率は高くなりますが、人体にむやみやたらに刺すわけにはいきません。またそんなにたくさん発見して意味のある発見になるのかも議論になっています」(鳶巣さん)

このように、早期がんの発見が増加した裏には、これらPSAや生検の進歩があったのです。


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