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進行別 がん標準治療
放射線治療、ホルモン療法の治療選択を考えよう

監修:高橋悟 東京大学付属病院泌尿器外科助教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年6月
更新:2013年8月

  
高橋悟さん
東京大学付属病院
泌尿器外科助教授の高橋悟さん

前立腺がんは、50歳以上の中高年に多いがんで、
今日本でも増加の一途をたどっています。
アメリカに比べるとまだ日本の患者数は8分の1程度ですが、
増加率は全がんのトップ。
2015年には人口10万人につき20人以上が罹患すると予想されています。

その背景には、高脂肪食など食生活を中心とした生活の欧米化、急激な人口の高齢化、
加えてPSA(前立腺特異抗原)という精度の高い腫瘍マーカーが
普及して検査が容易になったことがあげられます。
また、最近著名人が前立腺がんの治療を受けたことなどが報道され、
これも受診者の増加に拍車をかけているとみられています。

しかし、前立腺がんはがんの中でもタチがよい部類に入ります。
このがんでは、そのことを考慮したうえで、慎重に治療法を選択する必要があります。

ゆっくり増殖するがん

東京大学医学部泌尿器外科助教授の高橋悟さんによると「特殊なタイプ(低分化型)をのぞくと、前立腺がんの増殖スピードはかなりゆっくりしている」といいます。

がんが倍の大きさになるのに要する時間を「ダブリング・タイム」といいます。前立腺がんの場合、これが平均2~3年。遅いものでは4~5年といいます。他のがんでは半年というものもありますから、かなりゆっくりと成長していくがんです。こうした特徴が、前立腺がんの治療方針にも反映されています。

たとえば、同じ小さな前立腺がんでも「50歳の人と80歳の人ではかなり意味あいが違います」と高橋さんは語っています。80歳で0.5ccほどの容積の小さながんが発見された場合、これが何らかの症状を起こしたり、前立腺の外に広がっていくのは3~4ccの大きさになってからです。倍の大きさになるまでに3年かかるとすれば、4ccになるのは89歳と予測できます。とすれば、現状では寿命に影響する可能性は極めて少ないとみられます。

そこで、少ないとはいえ治療による負担や副作用を勘案すれば、すぐには治療をしないで経過を観察する、という選択肢もあるのです。

このように高齢で発見された微小ながん(1cc以下)で、PSA値も低く、増殖スピードの遅いがん(高分化型)を、「臨床的に意味のないがん」といいます。前立腺がんは、老化と密接に関係したがんで、80歳以上で死亡した人を解剖すると、顕微鏡で見える程度の微小な前立腺がんが20~30パーセントに見られます。しかし、50代、60代の前立腺がんには、基本的にはこうした意味のないがんはありません。

低分化型=細胞の分化の度合が低いがん。これが低いほど増殖度が速く、転移しやすいといわれる

男性ホルモンで成長するがん

一方、前立腺がんは手術から放射線、内分泌療法(ホルモン療法)とさまざまな治療法があり、それぞれに効果があるのも特徴です。治療の手法そのものも進歩し、多様化しています。したがって、早期であれば完治の可能性が高いことはもちろん、「進行がんでも、各治療法を組み合わせれば、かなり長期、時には天寿を全うするまで延命できるのです」と高橋さんは語っています。全身に転移が起こった非常に進行した状態であっても、このがんの場合絶望というわけではありません。

前立腺がんのもうひとつの特徴は、男性ホルモンに依存して成長するがんであるということです。したがって、男性ホルモンの働きを阻止する内分泌療法が非常によく効くのです。「全身に転移がある場合でも、多くの場合、内分泌療法で2~3年はふつうに日常生活を送ることができます」と高橋さんは説明しています。

つまり、前立腺がんは死に至るものから経過観察だけで天寿を全うできるものまで、多様なケースがあります。しかし、早期発見が基本であることは他のがんと同じです。早期ならばQOL(生活の質)に配慮して各種の治療法を選択して根治させることが可能です。

その一方、治療法も多様であり、それぞれに長所・短所があります。そうした点をよく理解した上で、自分にあった治療法、自分がどういう生活をしたいのか、人生観にあった治療法を選択することが、重要ながんといえます。

[男性生殖器の構造と前立腺の位置]
男性生殖器の構造と前立腺の位置
[がんになった人の部位別の割合の推移]
がんになった人の部位別の割合の推移
出典:厚生労働省がん研究助成金「地域がん登録」研究班によるがん罹患数・率全国推計値1975-98年。
Jpn J Clin Oncol 2003;33(5)241-245.

前立腺がんの診断

前立腺がんの腫瘍マーカー、PSA

多くのがんがそうであるように、前立腺がんの場合も、症状が出てから受診したのでは早期発見は難しくなります。高橋さんによると「前立腺がんの8割は、前立腺の縁、つまり尿道から離れたところから発生する」といいます。

前立腺は、膀胱の出口にあって尿道をくるむように存在する直径4センチほどの臓器です。そのため、がんが前立腺の内側、尿道の近くにできた場合は、少しがんが大きくなると前立腺肥大と同じような症状、すなわち尿道を圧迫して尿の出が悪い、切れが悪い、頻尿、残尿感などの症状が出てきます。しかし、これは少数派。尿道から離れたところから発生した大多数のがんは、初期にはほとんど症状がないのです。

しかし、幸いなことに前立腺がんには、PSAという非常に感度の高い腫瘍マーカーがあります。血液検査でPSA値を見るだけで、前立腺がんの可能性の有無がわかるのです。これに加えて直腸から指を入れて前立腺の状態をみる触診と直腸から探子をいれて検査する超音波検査が診断の柱になっています。これで異常があれば、生検という確定診断を行うことになります。

PSAの値は年齢によっても多少変わりますが、基本的には血清1ミリリットルにつき4ナノグラム以下なら問題はないと考えられます。4~10ナノグラムであればグレーゾーン、10ナノグラム以上になるとかなりがんの疑いが強くなります。となると、4以上が生検による確定診断の対象となります。しかし、高橋さんによると、とくに高齢者の場合PSA値が高いからといって必ずしもがんとは限らないそうです。「前立腺炎や前立腺肥大でPSA値が上がることもある」からです。

実際には、10ナノグラムを超えると40~50パーセントの人にがんが見つかりますが、グレーゾーンの人からがんが発見される率は20パーセント前後。ただし、この時期に見つければ、がんは前立腺内にとどまっている可能性が大きいのです。10を超えると前立腺の外に食い込んでいる可能性も出てきます。したがって、早期発見のためには、グレーゾーンの段階でがんを発見することが重要なのです。


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