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前立腺がんの放射線治療
副作用を抑え、さらにホルモン療法との併用で生存率が改善

報告:鈴木和浩 群馬大学泌尿器科教授
発行:2005年9月
更新:2013年4月

  
鈴木和浩さん
群馬大学泌尿器科教授の
鈴木和浩さん

すずき かずひろ
昭和63年群馬大学医学部卒業。同大学泌尿器科学教室入局。平成9年同科助手。
平成9~11年米国オハイオ州立大学留学。
群馬大学泌尿器科講師、助教授を経て、平成16年群馬大学大学院医学系研究科泌尿器病態学教授、病院泌尿器科科長併任。
専門は泌尿器腫瘍、男性更年期障害、ED。日本泌尿器科学会評議員、日本癌治療学会評議員等。

様々な治療選択肢

欧米の男性に多い前立腺がんが日本でも増えています。欧米型の食生活の普及やライフスタイルの変化と、腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査の普及などがその要因と考えられています。

前立腺は、男性の骨盤内にある器官で、膀胱の下にあり、尿道を包むように存在しています。成人男性の大きさは20~30グラムで、栗の実のような形をしており、精液の一部をつくる働きをしています。

前立腺にできるがんの大半は前立腺の管状腺に並んだ上皮細胞ががんになります。しかもこの前立腺がんは、初期にはほとんどがこれといって明確な症状が現れないのが特徴です。したがって、PSA検査導入以前は、がんの発見が遅れ、かなり進行した状態で発見されたものです。進行がんでは、治療法も限られ、効果にも限界がありました。しかし最近は、PSA検査の普及で早期に発見されるようになり、早期がんの割合が増えています。様々な新しい治療法も開発され、以前に比べ、がんも根治しやすくなっています。

治療法としては、手術をはじめ、放射線治療、ホルモン療法、さらに厳重にがんの状態をモニターして経過をみていく待機療法など、様々あり、早期がんの患者さんでは選択できる余地がたくさんあります。その中で、今回は、今最も注目を集めている放射線治療にフォーカスを当てその内容、成果について紹介しますが、その前に、治療選択の際の注意点について少し触れてみたいと思います。

ベストの治療選択とは?

最近は、患者さんの中にも、できるだけ今の仕事を続けたいので、症状がないのならそのまま様子を見たいとか、体にメスを入れるのは嫌だから切らないで放射線で治療したいという人もいれば、手術に信頼を寄せ、がんをきちんと取り除きたいという人もいます。このように、患者さんの社会的立場や活動、あるいは哲学や信念などから治療法を選択したいと希望する人が増えています。

しかし、現在のがんに関する情報は一方通行であることが多く、情報の混乱がないわけではありません。たとえば小線源療法が日本で認可された当時、どのような患者さんに適した治療法であるかの情報がなく、進行したがんを持つ方がそれに期待を寄せて話を聞きに外来に訪れることがしばしばありました。それぞれの治療には適した基準がありますので、これを主治医とよく相談して納得して治療法を決めていくことが大切です。

では、前立腺がんの治療法はどう選んだらいいのでしょう。まず、がんと患者さんの両方の基準から選ぶことが大事です。がんの基準だけで選ぶのも患者さんの基準だけで選ぶのもよくありません。どちらか一方だけで選ぶと、患者さんにとってメリットが小さくなるからです。そして、それぞれの治療法に伴う障害の程度をよく理解して最終的に決めることが必要と考えます。

[前立腺がんのリスク分類の例]
リスク PSA値 グリソンスコア 病期(ステージ)
低リスク 10以下 6以下 T1c、T2a
中リスク 10~20 7 T2b
高リスク 20以上 8以上 T2c以上

がんの基準では、がんの進行度(ステージ)、グリソンスコア、PSA値、生検で採取した前立腺組織にどのくらいがん細胞が含まれているのか(生検陽性コア数)などが大事です。グリソンスコアとは、簡単に言えば、がん細胞の悪性度、顔つきを判定する値です。これらの値によって、治療法に適・不適があり、思うような治療効果が出たり出なかったりするのです。主治医はがんの性質や進行度に合わせて最も治療効果の出やすい治療法を提示しますので、これを参考に治療法を選ぶのが賢明といえるでしょう。


[前立腺がんの進行度別の治療法]
図:前立腺がんの進行度別の治療法

患者さんの基準として、一番大きなものは年齢です。手術や放射線治療は根治療法として位置づけられていますが、手術は一般的に期待余命が10年以上の場合に行われます。したがって、70歳から75歳くらいまでがひとつの基準となります。さらに、患者さんの持っている合併症も大切な要素です。心筋梗塞や脳梗塞などの心血管障害やコントロールが不良な糖尿病などの代謝性疾患がある場合には、体に負担となる治療は見合わせることがしばしばあります。

しかし、この2点だけでは患者さんにとってまだベストの選択とは言えません。それぞれの治療には特有な治療経過があり、全く別の治療法です。たとえば、今回特集した放射線治療には治療終了後しばらくしてから出現する遅発性障害や晩期障害が特徴で、患者さんの「生活の質」を大きく左右します。このように、治療に伴う障害の内容と出現の仕方、こうしたことを総合的に主治医と相談し、先述した患者さんの哲学や価値観、社会的活動などの視点も考慮して最終的に治療法を決定してほしいと思います。


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