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診療ガイドラインの解説:リスクの高いがんを選んで治療し、リスクの低いがんに不要な治療をしないことが重要 「前立腺癌診療ガイドライン」をわかりやすく解説する

監修●荒井陽一 東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野教授
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年2月
更新:2019年12月

  

「2~3年後には、前立腺がんの治療は大きく変わるでしょう」と語る荒井陽一さん

2012年、前立腺の診療ガイドラインが6年ぶりに改訂された。新たなデータや治療法が導入され、前立腺がんの治療は考え方も含めて大きく変化している。ここでは、ガイドラインに沿った治療法をわかりやすく解説する。

高齢化が進み増加した前立腺がん

高齢化社会を迎えると同時に、増加しているのが前立腺がん。診療ガイドラインの作成に携わった東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野教授の荒井陽一さんによると「以前は、欧米の罹患率は日本の10倍と言われたのですが、今は2~3倍」と、かなり差が縮まっているそうだ。

前立腺がんは高齢者に多いがんで、高齢になるほどがんに罹る率も高くなる。増加の背景には食生活の欧米化、人口の高齢化があると指摘されている。さらに、診断法が進歩し、容易にがんを発見できるようになったことも大きい。

血液検査でPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーを調べれば、危険な人を簡単に拾い上げることができる。

「20~30年前までは、ほとんどの人が血尿や腰痛など自覚症状を訴えて受診していました。こうなると、だいたい進行しているので完治は難しかったのです。しかし、今は血液検査でごく早期に見つかる人が増えています」

見つけやすいが故の問題点も

■図1 前立腺がんのタイプによる進行具合(イメージ)
顔つきによって進行具合は変わる

実は、ここが前立腺がんの難しいところでもあるのだ。

前立腺がんは「全体にみれば、のんびり型に入りますが、非常に種類が多いがんなのです」と、荒井さんは言う。たいていの前立腺がんはのんびりゆっくりと進行していくが、中には進行の速いものもあるのだ(図1)。

つまり、前立腺がんは高齢者にはかなりの頻度で見つかるがんで、血液検査でPSAを調べれば簡単に拾い上げることができる。一方で、前立腺がんはのんびり型が多く、発見時の年齢によってはがんそのもので命を失う危険は低い。こうした前立腺がん特有の性質が、「見つけすぎ」、「過剰治療」などあまり他のがんにはない問題を提起することになるのだ。

■図2 前立腺がんの治療のアルゴリズム
「前立腺癌診療ガイドライン2012年版」より改変

不要な検査や診断をしてしまい、寿命を全うできるがんまで治療して患者のQOL(生活の質)を低下させているのではないか、といった意見もある。

もちろん、進行していれば治療が必要だ。しかし、転移もなく前立腺の中にとどまる早期の限局性がんの段階で見つかった場合、どうするのか。「状態によっては治療しないで経過をみるのも1つの選択肢です。しかし、中には進行が速く、すぐに治療を開始しなければならないものもある。その見分けが難しいところが問題なのです」と、荒井さんは語っている(図2)。

PSA検診の普及で進行がんは減少

荒井さんによると、今はPSA値の異常から前立腺がんが見つかる人がほとんどだそうだ。そのため、早期発見が多く「転移が見つかる人は1~2割」だという。

ただし、日本の検診受診率は2割程度。前立腺がんが男性のがん死のトップを占めるアメリカでは、「8~9割の男性がPSAの検診を受けている」というから、かなり差がある。とはいっても、一概に検診受診率を向上させればいいというわけではないのが、前立腺がんの難しいところ。最近、アメリカでは検診をしても前立腺がんによるがん死は減らないというデータが発表され、大きな波紋を投げかけているそうだ。

検診の普及で死亡率は低下?

■図3 PSA検査の目安

しかし、ヨーロッパで、同じように検診を受ける人と受けない人に分けて比較検討した結果、「どの国でも、10年以上たって死亡率に20~30%の差が出ている」という。検診を受けていると、前立腺がんによる死亡率が20~30%減少するという結果なのである。

アメリカの場合、もともと検診受診率が高いので、受けない群の人もすでに検診を受けている人が多かったのが原因ではないかとみられている。

荒井さんは「検診で死亡率が減少することは、おそらく間違いないでしょう。問題は見つかったがんに適切な治療ができるかどうかです。リスクの高いがんを選んで治療し、リスクの低いがんに不要な治療をしないことが重要なのです」と語っている。

どんな治療法にも、副作用は必ずある。不要な人に治療を行ってQOLを低下させない、言い方を変えると「生存率の向上にメリットのない治療はしない」ことが、検診の前提になると荒井さんは話している。

では、PSAがどう変化したら精密検査を受けるべきなのか。荒井さんは「一般には4ng/ml以上が要注意なのですが、これは70歳以上の場合です。年齢によっても異なるので注意してください」と呼びかけている。50歳代ならば3ng/ml以下でないと心配。40歳代で2ng/mlと出たらかなり数値として高いと思わなければならないそうだ。また、年々PSAの数値が上がるようならば、それだけで危険信号だ。「4ng/ml」というのは、あくまでも目安にすぎない(図3)。

「症状が出てからでは完治は難しいと思ってください。そうなる前に見つけてほしい」と荒井さんは言う。自覚症状が出た段階では、PSA値は少なくとも2桁以上になっているそうだ。

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