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治療法別QOL:迷える患者さんに、効果とQOLの観点から選び方を伝授 どれがよいか、前立腺がんの治療法

監修●篠原信雄 北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科准教授
取材●「がんサポート」編集部(構成/柄川昭彦)
発行:2013年2月
更新:2019年12月

  

患者さんの立場に立って考えてくれる北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科准教授の篠原さん

多岐にわたる前立腺がんの治療法。大きく分けても、手術、放射線、ホルモン療法、化学療法とあり、おまけにあまり聞き慣れないPSA監視療法というのまである。その中からどれを選んだらよいのか。効果とQOLの2つの観点から選び方を教えていただく。

どの治療が優れているか単純に優劣はつかない

前立腺がんの治療法は多岐にわたっている。大きく分けても、「PSA監視療法」「手術」「放射線療法」「ホルモン療法」「化学療法」がある。

さらに細かくは、手術には、通常の開放手術、内視鏡手術、ロボット手術などがあり、放射線療法には、小線源療法、トモセラピー、RT-IMRT(動体追跡強度変調放射線治療)、陽子線治療、重粒子線治療などがある(図1)。

■図1 多岐にわたる前立腺がんの治療法

ホルモン療法も多彩だ。LH-RHアナログという薬で男性ホルモンを作れなくする方法、抗男性ホルモン薬で男性ホルモンが働くのをブロックする方法、それらを併用するMAB療法などがある。

前立腺がんの患者さんは、こうした治療法の中から、1つを選び出さなければならない。選択するときに何を考えるべきか、北海道大学大学院准教授の篠原信雄さんは、こう話す。

「どのような患者さんに対しても、これがナンバーワンという治療法はありません。それぞれのケースで、リスクの度合いを考慮して、適切な治療法を選択する必要があります。患者さんの年齢や、健康状態も考慮すべきでしょう。また、治療によって患者さんのQOL(生活の質)がどうなるかも、治療法を選択する際の重要なポイントになります」

このような点を考慮し、その人にとって、どの治療法が最良かを考えることになる。

治療法を選択するときには、自分の前立腺がんのリスクを評価しておく必要がある。

前立腺がんを3つのリスクに分類

「前立腺がんのリスク分類としては、D’Amicoのリスク分類や、NCCNのリスク分類がよく使われます(図2)。低リスク、中間リスク、高リスクに分け、それを考慮して治療法を選択するのです」

■図2 限局性前立腺がんの(D’Amico)リスク分類
リスク群 PSA グリソンスコア(ng/ml) 病期(TNM分類)
低リスク ≦10 かつ ≦6 かつ T1~T2a
中間
リスク
10.1~20 かつ/
または
7 かつ/br>または T2b
高リスク 20< または 8~10 または T2c

どちらのリスク分類も、PSA値、グリソンスコア(がん細胞の形態による悪性度の評価)、原発腫瘍の状況により、低リスク、中間リスク、高リスクに分ける。さらに、がんが前立腺の被膜外に進展している場合や、精嚢に浸潤している場合を、ウルトラ高リスクと分類する場合もある。

「低リスクであれば、PSA監視療法も選択肢に入ってきます。定期的にPSA検査を行い、PSAが上がってきたら、手術や放射線療法を考えるわけです。また、低リスクから中間リスクまでの前立腺がんなら、手術や放射線療法で、十分な治療効果が得られます」

手術でも放射線療法でも、治療効果の差はほとんどない。問題は高リスクやウルトラ高リスクの場合である。

「高リスクやウルトラ高リスクでも、手術や放射線療法を選択しますが、それだけでは不十分です。手術+ホルモン療法、あるいは放射線療法+ホルモン療法のほうが、それぞれの単独療法より優れていることは、臨床試験で明らかになっています」

ただし、これらを比較した試験はない。そのため明確なことはいえないが、どちらでもほとんど差はないと考えていいようだ。

D’Amicoのリスク分類=米国ハーバード大学のダミコ教授が提唱したもので、PSA値、グリソンスコア、臨床病期を組み合せたリスク分類
NCCN=National Comprenensive Cancer Networkの略。世界の21の主要がんセンターのNPO団体

10年生きられるかどうかが目安

■図3 特定年齢における平均寿命の上位、中位、下位の割合(男性、米国の報告)
出典:JAMA,June 6.2001-Vol285.No.21

リスク分類に続いて考えるのが、患者さんの年齢である。

「たとえば80歳の患者さんには、ホルモン療法で十分というのが、これまでの常識でした。手術はもちろん、放射線療法も行われなかった。その年齢なら、手術や放射線療法のような強い治療を行う必要はないと考えられていたからです」

前立腺がんの治療では、10年間生きられる可能性があるなら、手術や放射線療法のような積極的な治療を行う、という基本的な考え方がある。それが望めないならホルモン療法、というのが原則である。日本人の平均余命は80歳前後なので、75歳の患者さんでも、ホルモン療法でいいということになる。

「しかし、たとえば75歳の人がいたとして、その人がどのくらい生きるかは、平均余命とは関係がありません。それよりはるかに長いという現実があるわけです」

■図4 高齢の前立腺がん患者に対する治療指針
出典:J.-P.Droz et al./Critical Reviews in Oncology/Hematology 73(2010)68-91

篠原さんが注目するのは、2010年にアメリカで報告されたデータだ。75歳のアメリカ人男性のうち、健康面で上位25%に入る人たちは、その時点から14年生きる。合併症の多い下位25%で約5年。その間の人たちは9.3年となっている(図3)。

80歳でも、健康な上位25%は、そこから10年生きられる。日本人は、だいたいプラス2年と考えていいそうだ。

「つまり、75歳の患者さんは、多くは85歳くらいまで生きるし、健康な人なら90歳くらいまで生きる。この年数を考えたら、積極的な治療を行わない理由はありません。手術か放射線療法が勧められてもいいと思います」

治療費についても考えるべきだ、と篠原さんは言う。日本は健康保険で患者さんの負担が抑えられているが、それでもホルモン療法を10年、15年続けた場合、総支払額はかなりの額になる。

「医療費全体のことを考えても、大きな問題でしょう。超高齢者がたくさん出るこれからの時代、高齢者はホルモン療法という安易な選択は改めるべきだと思います」

年齢に加え、その患者さんの全身状態を評価して、最終的に治療法を選択することになる(図4)。

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