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重要なポイントはBRAF遺伝子変異の有無

ここ数年で治療がガラリと変化 メラノーマの個別化医療

監修●堤田 新 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2014年9月
更新:2014年12月

  

「わずか数年で、メラノーマの
治療はそれまでと全く異なる
時代に突入しました」と話す
堤田 新さん

これまで30年近く新薬が出てこなかったメラノーマ(悪性黒色腫)の治療が大きく動き出した。2011年以降、新薬が続々と登場。遺伝子変異がある患者のみが適応となる薬剤も次々出てきており、メラノーマは個別化医療の時代に突入した。

新しい時代を迎えたメラノーマの薬物治療

メラノーマ(悪性黒色腫)の薬物治療が急速な進歩を遂げている。日本では今年(2014年)の7月に、世界に先駆けて免疫療法薬のオプジーボがメラノーマの治療薬として承認された。これは画期的な出来事だったが、アメリカなどの欧米各国では、2011年以降、すでに数種類の新しい治療薬が承認され、個別化医療の時代を迎えている。

メラノーマの治療はどのように変わったのだろうか。国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科医長の堤田 新さんに、新薬登場以前の治療について説明してもらった。

「メラノーマの治療は、ステージⅠ~Ⅲは手術が中心、ステージⅣは薬物治療が中心です。今年の7月にオプジーボが承認されるまで、日本でメラノーマ治療に使える薬は、インターフェロンβとダカルバジンの2種類でした。

インターフェロンβは局所に注射する薬で、皮膚の転移には使えますが、内臓に転移している人には使えません。全身治療が行える薬はダカルバジンだけだったのです。ところが、この抗がん薬の奏効率は10%前後。これが効かなければ、もう治療法がないという状況でした」

ダカルバジンが唯一の全身治療薬という時代が30年ほど続いていた。その間、新しい薬による臨床試験が何度も行われたが、ダカルバジンの治療成績を超えることができなかったのだ。

「2011年から状況が急激に変わりました。この年に、米国食品医薬品局(FDA)が、免疫療法薬のipilimumab(イピリムマブ)と、分子標的薬のvemurafenib(ベムラフェニブ)を相次いで承認したのです。2013年には、やはり分子標的薬のdabrafenib(ダブラフェニブ)とtrametinib(トラメチニブ)の2剤が登場。そして、2014年の今年、日本でオプジーボが承認されました。わずか数年で、メラノーマの治療は、それまでと全く異なる時代に突入したことになります」

オプジーボ=一般名ニボルマブ ダカルバジン=一般名も同様 ipilimumab(イピリムマブ)=商品名Yervoy(エルボイ) vemurafenib(ベムラフェニブ)=商品名Zelboraf(ゼルボラフ) dabrafenib(ダブラフェニブ)=商品名Tafinlar(タフィンラー) trametinib(トラメチニブ)=商品名Mekinist(メキニスト) ※イピリムマブ、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブは、現時点で日本では未承認

従来の治療成績を大きく上回ったベムラフェニブ

ベムラフェニブは分子標的薬で、標的となるのはBRAF遺伝子の変異である。「BRAFは細胞増殖のシグナル伝達に関与しているのですが、この遺伝子が変異を起こし、過剰なシグナルが伝達されると、制御不能の細胞増殖が起こります。ベムラフェニブは、この遺伝子の働きを抑えることで、がんの進行を止めます」(図1)

このような働き方をする薬剤なので、ベムラフェニブはBRAF遺伝子に変異がある場合に効果を発揮する。そこで、まずがん細胞を調べ、BRAF遺伝子変異が陽性の患者のみ適応となる。

「BRAF遺伝子に変異があるのは、欧米ではメラノーマ全体の50~60%ですが、日本では30%くらいと考えられています」

治療成績については、ベムラフェニブ投与群とダカルバジン投与群の比較試験が行われている(BRIM-3試験)。BRAF遺伝子変異陽性の人を対象にした試験である。無増悪生存期間(PFS:増悪し始めるまでの期間)の中央値は、ダカルバジン群が1.6カ月だったのに対し、ベムラフェニブ群は5.3カ月と大差がついた(図2)。また、奏効率(ORR:完全奏効CR+部分奏効PR)も、ダカルバジン群の5.5%に対し、ベムラフェニブ群は48.4%と大きく上回っていた。

図1 BRAF阻害薬、MEK阻害薬が がん細胞に作用する仕組み
図2 BRAF遺伝子変異陽性のメラノーマに対するベムラフェニブの効果
(無増悪生存期間:PFS)

出典:Chapman PB et al.N Engl J Med 2011;364:2507-16

「がんを縮小させる力が非常に強いのが特徴です。ただ、薬剤耐性があって、いったん効いても、しばらくすると効かなくなってしまいます。また、副作用としてメラノーマとは異なる皮膚がんが出ることがあります」

いくつかの問題はあるが、メラノーマの治療を大きく変えた薬であることは間違いないだろう。

遺伝子変異している患者のみが適応となる新薬2剤

ダブラフェニブも分子標的薬で、ベムラフェニブと同様、変異を起こしたBRAF遺伝子の働きを抑えるBRAF阻害薬である。やはりがん細胞を調べ、BRAF遺伝子変異陽性の患者のみが適応となる。

「ダブラフェニブとダカルバジンの比較試験が行われています。ダブラフェニブはBRAF阻害薬ということもあり、ベムラフェニブとよく似た成績が得られています」

BRAF遺伝子変異陽性の人を対象として、ダブラフェニブ投与群とダカルバジン投与群の比較が行われた(BREAK-3試験)。PFS中央値は、ダカルバジン群の2.7カ月に対し、ダブラフェニブ群は5.1カ月だった。奏効率(ORR)も、ダカルバジン群が17%、ダブラフェニブ群が52%だった。

「このように治療成績は優れているのですが、ベムラフェニブと同様、副作用として皮膚がんが出てくることがあります。これが問題でした」

分子標的薬のトラメチニブはMEK阻害薬である。MEKは増殖に関わるシグナル伝達経路にあり、BRAFの下流に位置し、BRAF遺伝子変異陽性が適応条件となっている。

「トラメチニブ単独でも、メラノーマの治療薬として承認されていますが、ダブラフェニブと併用すると、治療効果が高まり、ダブラフェニブの副作用が軽くなることが、臨床試験で確かめられています」

ダブラフェニブ単剤群と、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用群の比較試験が行われている。その結果、PFS中央値は、単剤群が5.8カ月、併用群が9.4カ月だった(図3)。

副作用の皮膚扁平上皮がんの発生は、単剤群が19%、併用群が7%で、併用することで副作用の発現率低下につながっていることが明らかになっている。

図3 BRAF遺伝子変異陽性のメラノーマに対するダブラフェニブ+トラメチニブの効果
(無増悪生存期間:PFS)

出典:Flaherty KT et al.N Engl J Med 2012;367:1694-703

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