鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

細かいことを気にせず自分に合った生き方で日々を過ごしていけばいい 女優・大空眞弓 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年1月
更新:2019年7月

  

乳がん、胃がん、食道がんという多重がんを明るく生きる大空流人生哲学

テレビドラマ『愛と死をみつめて』『時間ですよ』、映画『白と黒』『華麗なる一族』、舞台『細雪』『三婆』など、芸能界で幅広く活躍してきた大空眞弓さんは、1998年以降、乳がん、胃がん、食道がんと闘い、明るく生きてきた。その背後には、物事にこだわらない、等身大の生き方を貫く、女優らしからぬ生きざまがあった。高校時代以来の大空ファンという鎌田實さんも、次から次へと明かされる大空さんの意外な素顔に、絶句、爆笑の連続だった――。

 

大空眞弓さん

「がんだ、がんだと、あまり考えないほうがいいんじゃないでしょうか」
おおぞら まゆみ
1940年、東京市赤坂区生まれ。東洋音楽高校(現・東京音大付属高校)卒業。1958年、新東宝に入社、「坊ちゃん天国」でデビュー。その後、東京映画に移籍し、「駅前シリーズ」などに出演。1964年、TBSドラマ「愛と死をみつめて」でヒロイン・ミコ(大島みち子)役を演じたのを機に、「ただいま11人」「時間ですよ」「女と味噌汁」「ありがとう」など、人気ドラマの常連となった。1990年、舞台「人生はカタコト列車に乗って……」で、第15回菊田一夫演劇賞を受賞した。著書に『大空眞弓、「多重がん」撃退中!』(宝島社)がある

 

鎌田 實さん

「大空さんは何ごとにもこだわらず、恬淡と生きていますよね」
かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

父に怒られたことがない、病弱だった少女時代

鎌田 新年号ですので、この雑誌の読者の皆さんが元気の出るような方をゲストにと思って、乳がん、胃がん、食道がんという多重がんを克服され、とってもお元気な大空さんをお招きしました。

大空 私、元気といいますか、ノンキなんですね(笑)。何でもテキパキでき、シャキシャキしていると、世間の人には思われているようですけれど、私、全然ダメなんです。トロイんですよ(笑)。

鎌田 そうなんですか(笑)。例えばどうダメなんですか。

大空 一から十までダメなんです。右へ行くのか、左へ行くのかもわかりません(笑)。

鎌田 よくひとりで生きてられますね(笑)。

大空 いえ、ひとりじゃ生きられないです。人ができることが、全部できないんですから。

鎌田 それは子どもの頃からですか。

大空 ええ、子どもの頃は病気ばかりしてました。うちの父は厳しい人でしたが、私にだけはものすごく甘かったんです。姉はスパルタ式に育てられましたが、私は父から怒られたことがない。3歳の頃でしたか、私が赤チンをこぼしたときだったか、何かの拍子に、父が「コレッ!」と大きな声を出したら、私、声の大きさに驚いて、ストーンと失神しちゃったらしいです。それ以来、父は私に対して大きな声は出さなかったです。母はもともと仏さまのような人で、やさしかったですけど……。ですから変な話、芸能界に入ってからも、競争心がないんです。

鎌田 えっ! よく芸能界、生き残れましたね。

大空 勝呂さんと結婚していたとき、「もう少し競争心があれば、いい女優になったろうな」って言われました。私、人と競争するって気持ちがないんです。

鎌田 へぇー、そういうふうには見えませんね。

大空 見えないでしょう? 洗濯も洗うのは洗濯機がやってくれますが、そのあときれいにたたんで、整理・整頓することができないんです。私、困るんですよ。

鎌田 でも、困っているようには見えませんね。

大空 あ、それはやってくださる人がいるからです。今、うちにいてくれる人は、18歳のときから来てくれて、今60歳ですから。その人の言うことを聞いていれば、大丈夫なんです。私って犬みたい(笑)。料理は好きで、楽しんで作っていますよ。

高校2年で芸能界入りし女優さんに可愛がられる

鎌田 仕事もいろいろ楽しんでやっているんでしょ。

大空 楽しいです。深く考えていないから(笑)。先日も、中澤裕子ちゃんと旅の番組をやりましたが、お弁当を買うことから、割り箸を割ることまで、全部面倒見てもらいました(笑)。うちの母が何でもかんでもやってくれる人だったから、そうなっちゃったんでしょうね。早弁って流行りましたよね。

鎌田 学校でお昼が来る前に弁当を食べちゃうね。

大空 早弁というのがあるらしいと聞いて、うちの母、張り切っちゃって、ひとくちでパクッと食べられるおにぎりを作ってくれましたよ(笑)。ところが、それじゃあ早弁のスリルがなく、面白くなくなっちゃったんです。それで休み時間にグループで近くのうどん屋さんへ行くようになった。先生に見つかって叱られました、当たり前だけど。そのとき母が、「申し訳ないですね。この子は幼少の頃から身体が弱く、お昼はうどんみたいなもんでなきゃダメなんです」(爆笑)と。

鎌田 かばってくれたんだ。

大空 そうしたら学校側が、「そうなんですか……。じゃあ、わかりました。おうどんを出前でとって、教員室で食べていただくことにします」。教員室で食べるうどんなんて、美味しくも何ともないですよ(笑)。だから、母はちゃんと見抜いているんです。「ダメよ」って言っても、この子はダメだから、「ああ、いいのよ。食べなさい。じゃあ、教員室でね」って。いやぁ、陰湿だなぁって思うんですよ(笑)。

鎌田 そういう少女時代を送ってきたんだ。そして、高校生のとき芸能界に入ったんですよね。

大空 高2のときにスカウトされたんですが、高校だけは卒業するということで、夏休み、春休みだけ仕事をしていました。

鎌田 仕事は面白かったですか。

大空 仕事場では、女優さんとか俳優さんとか、映画で観たり、憧れたりした人たちがウロウロしているわけですよ。最初の頃は、それが珍しくて、「わぁーっ」「わぁーっ」って言ってました。新東宝で久保菜穗子さんとか、池内淳子さんとか、女優さんがみんな優しいんですよ。「眞弓」「眞弓」って可愛がられて。

鎌田 どこでも可愛がられちゃうんだ。

大空 この子はダメだとわかったとたん、そうなるのかもね。

鎌田 守ってあげたいと思うんでしょうね。得な性格ですね。

大空 今になってみれば、得ですね。

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