川本敏郎の教えて!がん医療のABC 4

何でこんなに検査を受けるの?と思っても……不幸中の幸いをもたらしたPET検査

監修●幡多政治 横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学准教授
文●川本敏郎
イラスト●佐藤竹右衛門
発行:2010年4月
更新:2013年7月

  

下咽頭がんの治療のため、大学病院の医療センターに入院することになった川本さん。入院が決まるや否や怒涛のような検査が始まります。ただ、その検査が川本さんに不幸中の幸いをもたらすこととなります。


川本敏郎かわもと としろう

1948年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。家庭実用ムック、料理誌、男性誌、ビジネス誌、書籍等の編集に携わる。2003年退社してフリーに。著書に『簡単便利の現代史』(現代書館)、『中高年からはじめる男の料理術』(平凡社新書)、『こころみ学園奇蹟のワイン』(NHK出版)など。2009年に下咽頭がん、大腸がんが発覚。治療をしながら、現在も執筆活動を行う

MRI、CT…… まるで検査の集中豪雨

T医科大学病院の医療センター耳鼻咽喉科病棟に下咽頭がんで入院する日の午前、Y教授の指示で、新横浜の画像診断専門施設Yクリニックで、PET(ポジトロン断層法)検査を受けさせられました。さらにY教授は、入院するとすぐにMRI(核磁気共鳴画像法)とCT(コンピュータ断層撮影)の検査をオーダーしました。まるで検査の集中豪雨です。Y教授は相当にせっかちかつ慎重な性格のようですが、迅速性をモットーとするがん専門医ならではなのでしょうか。

当時、わたしはPETはもとより、MRIがどういうものかも知りませんでした。CTについては、テレビドラマで医師が患者に説明する際に出てくる、体の輪切り写真といった知識はありましたが、詳細はあやふやでした。

翌日は、内視鏡で食道を検査です。下咽頭がんは食道がんとの重複がかなりの割合であるからだそうです。しかし、重複は別の所で見つかりました。

思いもよらぬ大腸がんとの重複

化学療法と放射線治療を始めて2日目、午前中の診察でY教授は「PET検査の主たる目的であった鼻の奥にがんはみつからなかった。治療方針は放射線科と相談する」と告げました。上咽頭にがんがなければ、手術で根治できるからでしょう。

ところが昼過ぎになって、Y教授の下にいる医師がやってきて、「明日、大腸の内視鏡をやります」というのです。どうしてですかと聞きました。すると、「PET検査で大腸に集積反応が見られた」というのです。このときになって、はじめて大腸がんが重複して進行していると教えられたのです。Y教授の頭は上咽頭がんのことで占められていたため、大腸がんのことは言い忘れたようです。わたしにとって、まさに青天の霹靂でした。

翌日行った大腸内視鏡によると、腫瘍は下行結腸に近いS状結腸にできていて、内径が5ミリしかないほどがん細胞は増殖しており、直径9ミリの内視鏡を通すことができなかったそうです。大腸内視鏡検査のとき、医師が「無理するな」と言っていたのは、無理やり通そうとすると腫瘍が破れてがん細胞が散らばってしまうからでしょう。

その日の夕方、若い医師が来て抗がん剤の点滴針を抜き、女房、長女ともども、カンファレンスルームに呼ばれました。そこには耳鼻咽喉科のT医師と消化器外科のI医師が一緒にいて、大腸がんをこのまま放っておいたら腸閉塞、腸破裂を起こしかねないので、先に大腸がんの手術をすること、ただし抗がん剤を投与したため、骨髄抑制の副作用で白血球数が2800と大幅に下がっているので、その回復と腫瘍部の奥に詰まっている便を出して洗浄してからでなければできないことを伝えられました。また、待つ間と手術から回復までに1カ月半位かかるので、下咽頭がんの進行が早ければ化学療法と放射線による治療は困難で、手術になって声を失うこともあり得ると付け加えられました。こうまではっきり言われると、いやも応もありません。

もしPET検査を受けなかったら……

消化器外科のI医師は、ここまで自覚症状がなかったのが不思議なくらいだと言いました。普段から便秘気味のわたしでしたが、最初に行ったS医科大学病院に、下咽頭がんで検査入院した当日の昼前、お腹が痛くなってトイレに行きました。下痢便が出て、終わったのに、まだ下痢のときと同様の腹痛が続きました。トイレに座ってウンウン唸っていましたが、10分ぐらいしたら痛みもおさまりました。きっと腫瘍部の奥に詰まっていた便が下痢症状を起こしていたのに出なかったためなのでしょう。

昼食は半分も食べられませんでした。それらのことを看護師に訴えたところ、「どうしてでしょうかね」と言うだけでした。わたしの訴えは医師にも伝わらなかったようで、大腸の検査はなく、下咽頭がんだけの検査説明で終わりました。

もし、S医科大学病院に入院していたら、化学療法と放射線治療がかなり進んでいる最中に、腸閉塞を起こして苦しんだ可能性が高かったでしょう。白血球数が下がっているのを薬で強引に上げて手術といった緊急事態を招き、大腸には便が詰まっているため、人工肛門を造設せざるを得なかったと思います。

そう考えると、この時点で大腸がんが判明したということは、最悪の事態をまぬがれたのであり、Y教授によるPET検査の指示は不幸中の幸いをもたらしたとも言えるわけです。重複がんは、がん患者の1割にみられるそうですから、「PET検査は受けるべし」のようです。

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