川本敏郎の教えて!がん医療のABC 8

ただし放射線治療の影響で耳下腺機能が低下、
口の中がカラカラに
抗がん剤+放射線治療で手術を回避、声も温存

監修●幡多政治 横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学准教授
文●川本敏郎
イラスト●佐藤竹右衛門
発行:2010年9月
更新:2013年7月

  

大腸がんの治療が終わり、いよいよ下咽頭がんの治療を受けることになった川本さん。そこで川本さんはある治療法を選択します。抗がん剤と放射線治療とを同時並行して行う〝化学放射線療法〟という方法です。手術と違って、声を失わずにすむ治療法だったのです。


川本敏郎かわもと としろう

1948年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。家庭実用ムック、料理誌、男性誌、ビジネス誌、書籍等の編集に携わる。2003年退社してフリーに。著書に『簡単便利の現代史』(現代書館)、『中高年からはじめる男の料理術』(平凡社新書)、『こころみ学園奇蹟のワイン』(NHK出版)など。2009年に下咽頭がん、大腸がんが発覚。治療をしながら、現在も執筆活動を行う

 当初の予定通りの治療と聞く

2009年4月20日、消化器外科から耳鼻咽喉科に転科して、いよいよがんの治療にとりかかることになります。

転科する6日前、耳鼻咽喉科で診察を受け、今後の治療についての方針を聞きました。1カ月半前、消化器外科のI医師と一緒に、わたしの病状について説明してくれたT医師が内視鏡で診たところ、最初の治療方針通り化学療法と放射線治療で大丈夫とのことです。

たった3日間ですが、投与した抗がん剤タキソテール(一般名ドセタキセル)と5-FU(一般名フルオロウラシル)が、この間の進行を抑えたようです。

これについて、横浜市立大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授の佃守さんはこう解説してくれました。

「下咽頭がんの90パーセント以上は扁平上皮がんですが、進行はがん組織の分化度によって違ってきます。一般に分化度が低いものは進行は早く、1カ月で2倍、3倍になるケースもあります。がん組織を見ないと一概には言えませんが、3日間投与した抗がん剤が進行を抑えてくれた可能性は大いにあります」

抗がん剤がよく効くがんと効きにくいがんがあるようなので、それとも関係するのでしょう。

大腸がんの治療を先行すると言われたとき、下咽頭がんは1カ月半放っておくことになり、その間にがん細胞が増殖する確率は高く、最悪、声帯まで取り除く手術になると言われていたため、当初の予定通りの治療と聞いた家人は、手を叩いて喜びました。もちろん、声を失うか否かの瀬戸際なわけですから、わたしもホッとしました。

連休前のため治療開始は二転三転

耳鼻咽喉科は消化器外科の病棟の1階上で、荷物を整理してワゴンに乗せて引っ越しました。転科した日は、診察も治療もありません。

夕方、耳鼻咽喉科の若いO医師が病室まで来て腹部を診察、「レントゲン写真を見ると軽い腸閉塞気味なので、食べ過ぎないように。ガスや便が出ないときは教えてください」と言い、マグラックス錠(一般名酸化マグネシウム)という緩下剤を処方してくれました。

翌朝は、毎週定例のY教授の診察。鼻から内視鏡を入れ、腫瘍部を診ました。7~8分もかかったでしょうか。ていねいに診てくれるのはありがたいのですが、内視鏡を入れた後に、若い医師にカルテを持ってこさせて開くように指示するのには参りました。鼻から入れる内視鏡は消化器系よりは苦しくありませんが、患者としては、カルテを見てから内視鏡を入れてもらいたかった……。

治療を何時から始めるかについては、5月の連休が目前に控えているため、放射線科とも相談して決めるそうです。放射線治療は、土日祝日はお休みでウィークデーしか稼働しないからだそうです。

その後、スタートをいつにするかで二転三転しましたが、22日から化学療法+放射線治療を始めることになりました。終わるまで8週間の期間がかかるそうです。

放 射線治療が始まる前日、放射線治療室に呼ばれて、マスクを作成し、そのままCT撮影をしました。マスクは放射線を頸部に照射している最中に動かないように するためで、白いプラスチックの網をぬらして顔にかぶせ、ドライヤーで乾かしてできあがりです。顔面から胸に掛けてかぶせるマスクと、胸と脇腹にマークを つけ、それを合わせることで毎回同じ位置に照射できるようになります。

CT撮影は、放射線を当てる角度と照射時間を綿密に計算するためです。

8日間、点滴棒につながれた生活

そして翌22日午前11時から5-FUの点滴が始まりました。5-FUは、輸液ポンプで24時間4日間連続注入しますが、その1日目にタキソテール、4日目にシスプラチン(商品名ランダまたはブリプラチン)を併用投与します。このシスプラチンは腎臓に負担がかかり、障害を起こしやすいそうです。そのため、投与後にも利尿剤入りの輸液2千ミリリットルを24時間4日間連続で点滴することで腎臓を保護します。

つまり1クールで、抗がん剤と利尿剤合わせて8日間、左腕に刺された点滴のチューブが点滴台につながれている状態の生活を余儀なくされました。その間、腕を曲げたりして点滴のチューブに薬液がスムーズに通らなくなると、輸液ポンプのアラームが鳴ります。また、点滴チューブに空気が入ったり、電池が切れたりしてもアラームは鳴ります。警告音ですから、かなりうるさい音で、それが鳴るたびに看護師さんに連絡してリセットしてもらわなければなりません。不便なこと、この上もありませんでした。

1番困ったのは、抗がん剤の併用投与で輸液ポンプが2つになったときでした。1つでも結構重いのに、2つが装着されるとかなりの重量になります。下咽頭がんだけの患者でしたらそうでもないのかもしれませんが、大腸が正常でないわたしは、突然便意をもよおすことがあります。そうしたとき、重い点滴棒を引きずってトイレに行くには時間がかかってしまいます。こんなことは書きたくないのですが、すると……。消化器外科にいるとき、パンツを汚したことが何回もありましたが、転科しても続いてしまいました。

処方されたマグラックスのせいなのでしょうか、抗がん剤が始まった日は、昼から夕方にかけて何度も便意をもよおし、夜中から朝にかけて4~5度も水便が出る始末でした。看護師に訴えると、便がある程度硬くなるまで、マグラックスを止めることになりました。

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