川本敏郎の教えて!がん医療のABC 5

大腸がんの検査、手術に関する
インフォームド・コンセント
事前説明を良く聞いて、自分に起きる変化に備えよう

監修●大矢雅敏 獨協医科大学越谷病院第1外科主任教授
文●川本敏郎
イラスト●佐藤竹右衛門
発行:2010年5月
更新:2014年10月

  

咽頭がんだけではなく、大腸がんが重複していることがわかった川本さん。医師から、「このまま放っておいたら腸閉塞、腸破裂を起こしかねないので、下咽頭がんの治療より先に大腸がんの手術をする」と説明を受けます。ただ、すぐに手術ができる……という状態ではなかったのです。


川本敏郎かわもと としろう

1948年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。家庭実用ムック、料理誌、男性誌、ビジネス誌、書籍等の編集に携わる。2003年退社してフリーに。著書に『簡単便利の現代史』(現代書館)、『中高年からはじめる男の料理術』(平凡社新書)、『こころみ学園奇蹟のワイン』(NHK出版)など。2009年に下咽頭がん、大腸がんが発覚。治療をしながら、現在も執筆活動を行う

かなりつらい大腸内視鏡検査

下咽頭がんだけでなく、大腸がんが重複していることが判明し、そちらの手術を優先することになったわたしは、2009年3月6日に耳鼻咽喉科から消化器外科病棟に転科しました。

その2日前、大腸内視鏡を受けるため、下剤を飲み始めましたが、3分の2ほど飲んだところで吐いてしまい、高圧浣腸に切り替えてなんとか排便します。大腸内視鏡を入れる前に肛門に指を突っ込まれてゼリーを塗られましたが、それが乱暴で痛かった分だけ、内視鏡は痛く感じずにスムーズでした。

内視鏡検査でよく見えるようにするための空気が入れられると、下腹部が膨らんで痛みをともなう膨満感がありました。カメラの先端が腸壁を押すため腹部の中から上に押し上げられて、突かれる痛みが走ります。医師は、便が腸壁に残っているのでそれをどけながら見ているそうです。さらにカメラが奥に入った所で、「無理するな」という声が聞こえました。

約20~30分かかったでしょうか、ようやく終了しましたが、内視鏡を抜くときにお尻から温かい液状のものが垂れ流れ、タオルを汚しました。病床に戻る前にトイレに行ったところ、大量の空気が水っぽい便と一緒に出ました。

大腸内視鏡検査は、排便といい痛さといい、患者にとって相当な負担だと感じました。

嫌な予感が的中。S状結腸に腫瘍が

検査の結果、その日から禁食。夕方、家族と一緒にカンファレンスルームに呼ばれました。嫌な予感は当たっており、下行結腸に近いS状結腸に腫瘍ができていて、内径が5ミリしかないほどがん細胞が増殖、直径9ミリの内視鏡を通すことができなかったそうです。「無理するな」と内視鏡検査のときに聞こえた声は、内視鏡が通らないからでしょう。

わたしの、このときの状態を、今あらためて獨協医科大学越谷病院第1外科主任教授の大矢雅敏さんに質問すると、こう説明してくれました。

「腫れ上がった腫瘍部に内視鏡が触るとトラブルが起きやすく、もし破裂でもしたら緊急手術に切り替えざるを得ません。

しかも川本さんの場合、腸に便が詰まっていて、なおかつ下咽頭がんの治療で抗がん剤を投与した関係で白血球数が下がっていたんですよね? そういう状態だと、感染症への抵抗力が落ちていますから、腸が破裂するとひどい腹膜炎になり、助からなかった可能性もあります」

内視鏡で腸に空気を入れたときに痛んだのは、空気が奥までいくスペースがなかったからだそうです。下剤を途中で吐いたのも、詰まった便が腫瘍部でせき止められていて出所がなかったために逆流したのでしょう。

消化器外科のI医師は、このまま放っておいたら腸閉塞、腸破裂を起こしかねないので、下咽頭がんの治療より先に大腸がんの手術をすると説明しました。ただ、 抗がん剤を投与したため骨髄抑制の副作用で白血球数が2800と大幅に下がっているため、その回復を待つのと、腫瘍部の奥に詰まっている便を洗浄してから になると説明し、転科を命じられました。

説明が終わった後も、下腹がゴロゴロ鳴って便意を催し、トイレに駆け込みました。

大腸がんの奥に管を通すステント挿入

転科した午前、中心静脈への栄養点滴を行うためカテーテルを挿入すると、処置室に呼ばれます。

I医師が局所麻酔をして右の鎖骨の下からエコーで探りながら注射針を打ちましたが、血管が細くてうまくいかず、左の鎖骨から再度行い、カテーテルを挿入しました。ベッドに戻っても、その傷がズキズキ痛み、たったこれだけの施術でこれほど痛いのだから先が思いやられる思いがしました。

夕方には、がんができているS状結腸のさらに奥に詰まった便を洗浄してかき出すため、管を通す作業が行われました。肛門から内視鏡を入れて、腫瘍で狭くなった所に網状の拡張バルーンを入れて広げ、その中にチューブを通して下行結腸の奥まで入れるのだそうです。

先述の大矢さんは、こう説明してくれました。

「ステント挿入と言って、便が詰まって腸が張っている方の手術の際に行う、リスクを回避する方法です。

便が詰まったままでは腹腔鏡は無理ですし、開腹手術でもやりにくい。がん細胞を切除したあと便が残っていると、腸と腸がうまく繋がらなかった場合に、おなかの中に漏れる便が多くなり、ひどい腹膜炎を起こす確率が高くなるので、できるだけ腸内洗浄して便を減らしてから手術をするのが普通です」

ステント挿入は、肛門から内視鏡を入れて管を通すまで40~50分もかかり、お腹の中がかなり痛みました。

しかし、そんな痛みよりも、肛門を押し広げて通る管に対する違和感と、にょきっと尻尾のように管が出て買い物袋のようなビニール袋につながっている姿、便が透明なビニール管を通って垂れ流されている格好のほうが、屈辱的で心が痛みました。それは、いまも思い出して描きたくないほど哀れです。

その日から、腎臓の状態を観察するため、尿は容器に採って計量器に入れるように指示がありました。病床に戻ってオムツを着け、トイレにお小水を採りに行くと、管の横から下痢便が漏れてしまいました。

恥ずかしいのであまり書きたくないのですが、大腸がんになってしまった以上、便の話を避けるわけにきません。家人に売店でオムツを買ってきてもらい、オムツの生活を余儀なくされてしまいましたが、管の横から下痢便が漏れるのは、この後、間欠的に続きました。

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