川本敏郎の教えて!がん医療のABC 1
がんに負けない強い意志を持ってまずは、「がん」という敵を知る!
がんに関する情報、知識には誤ったものが多く、適切な検査や治療もし損ねてしまうことが多くあります。本連載では、正しい情報をわかりやすく伝えることをモットーに、がん患者であり、ノンフィクションライターの川本敏郎さんが解説していきます。患者だからこそ知りたいこと、今さら聞けない素朴な疑問がある――。そういった患者さんならではの視点で、がん情報を解きほぐしていきます。
川本敏郎かわもと としろう
1948年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。家庭実用ムック、料理誌、男性誌、ビジネス誌、書籍等の編集に携わる。2003年退社してフリーに。著書に『簡単便利の現代史』(現代書館)、『中高年からはじめる男の料理術』(平凡社新書)、『こころみ学園奇蹟のワイン』(NHK出版)など。2009年に下咽頭がん、大腸がんが発覚。治療をしながら、現在も執筆活動を行う
ステージ4の下咽頭がんを告知される
わたしが、がんを宣告されたのは09年2月でした。S医科大学病院の耳鼻咽喉科外来で診察を受けたところ、医師はためらうこともなく、じつにあっさりと「10中8、9、悪性腫瘍でしょう。来週、検査入院をしてください」と言われました。
「がんを告知されてガーン」という駄洒落は手垢にまみれて普通失笑を買うだけですが、患者にとっては深刻な実感で、わたし自身、頭を殴られたようなショックを感じました。
がんは「不治」と形容される病であり、もう20数年来、日本人の死亡原因の第1位を独走、3人に1人はがんで亡くなっています。それを心の準備もない状態で突然言われたのですから、精神的な衝撃ははかりしれません。
ライターを生業としている関係で、医療関連の記事も書いていましたが、その時点ではがんについての知識は詳しくなく、死に直結する病といった一般的認識しかありませんでした。
しかし、ショックをショックとしてそのままにしておいたら、気持ちがどんどん落ち込んでしまいます。そこから抜け出すためには、自分の体を蝕んでいる「がん」という病気の正体や、現代医学でどこまで治すことができるのか……について知らなければならないと思い立ち、調べ始めたのです。
思いがけなかった下咽頭がんと大腸がんの重複がん
検査入院の結果、わたしは進行性の下咽頭がんと診断されました。ステージ(病期)は4。食道と気道を開閉するところの組織にがんができていたと同時に、頸部リンパ節にも転移をしていました。
下咽頭がんを根治させるには、手術で声帯ごと切除して小腸の一部を摘出して食道と繋ぎ、頸部に気孔を開ける大手術をしなければならないそうですが、鼻の奥の上咽頭にも腫瘍の疑いがあるため、化学療法(抗がん剤)+放射線治療の選択になると、医師に言われました。
S医科大学病院耳鼻咽喉科の医師は、納得して治療をはじめるために、セカンドオピニオンを受けるようにすすめてくれました。わたしはとりあえず癌研有明病院に紹介状を書いてもらう旨依頼しましたが、以前から親しくしているT医科大学病院で、放射線治療の講師をしている知人にも相談してみました。すると彼は「うちの耳鼻咽喉科のY教授は腕がいいし、放射線治療もS医科大学より優秀だよ」と受診をすすめられ、それに従うことにしました。
翌週、外来で受診したところ、Y教授はS医科大学の診断書を見るなり、上咽頭のがんの疑いに白黒をつけたかったのでしょう、明後日にPET検査を受診してから入院するように指示されました。そして入院の日「あなたの場合、まだ若いので……」と、声帯を温存できる化学療法と放射線治療を第1選択にすると言い、翌週の月曜日から治療を開始しました。
しかしその途端に、PET画像で、大腸にがんの集積反応が見られるという検査結果が届いたのです。結局治療はいったん中止に。翌日の大腸の内視鏡検査の結果、腫瘍部が大きく腫れ上がって内径5ミリしか隙間がなく、内視鏡を通さないほど狭まっていたそうです。
そ の日、カンファレンスルームに呼ばれて耳鼻咽喉科と消化器外科の医師から、このまま放っておくと便が詰まって腸閉塞、腸破裂を起こしかねないこと、そのた め下咽頭がんの治療を後に回して先に手術をしなければならないこと、転科するのに約1カ月半かかること、などを聞かされました。その間に下咽頭がんの進行 が早ければ、手術ということになるそうです。
精神的ダメージはこのときのほうが大きかったです。ただ〝幸か不幸か〟、Y教授が鼻の奥の上咽頭の腫瘍の疑いについてはっきりさせようとして、PET検査の受診を命じてくれたお陰で大腸がんが見つかった――。自分自身、これを良しとすることで納得させました。
半年の間にがんの3大療法を経験
手術は緊急を要したのですが、抗がん剤の副作用で白血球数が2000以下と下がっているため、手術したときに感染症を起こす確率が高く、またS状結腸の奥の下行結腸、横行結腸に便が詰まっているのを取り除かなければ手術中に大腸菌が飛び散って、腹膜炎を起こす可能性があるため、骨髄抑制の回復と腸内洗浄のため3週間後になると言われました。人工肛門の可能性についても聞かされました。
そして、3週間弱が過ぎ、開腹手術。転移は見られず、無事に切除手術は成功、人工肛門も設置せずにすみました。
その後、術後腸閉塞を起こしましたが、これも何とかくぐり抜け、耳鼻咽喉科に転科したのが4月下旬。1カ月半前に注入した抗がん剤が効いたのか、腫瘍は進行しておらず、声帯ごと除去する手術はせずに、当初の予定通り抗がん剤と放射線治療でいけるとのこと。そして、8週間にわたる化学療法と放射線治療を受けて6月下旬に退院しました。1カ月半後に生検を受けた結果、がん細胞は消失していました。
わたしは半年とちょっとの間に、がん治療の3大療法といわれる手術、化学療法、放射線治療をやったわけです。これでようやく一件落着かと思った矢先、今度は大腸がんが再発・転移していることが08年の10月初めにわかりました。いま、化学療法による治療を再開しています。
その間の不安はもちろん、その時々に疑問に思ったこと知りたかったことなどたくさんあります。そうした自分の体験を書きながら、治療やそれにまつわる情報について、専門家に尋ねたことを含めて皆さんにお伝えしていきたいと思っています。
同じカテゴリーの最新記事
- 治療は楽だが、副作用がつらい放射線治療味覚障害、食欲低下、喉の痛み……幾多の副作用を乗り越えて
- 放射線治療に潜む得手、不得手がもたらす人生の悲喜こもごもショック!! 抗がん剤と放射線治療による味覚障害がこんなにつらいとは
- ただし放射線治療の影響で耳下腺機能が低下、口の中がカラカラに抗がん剤+放射線治療で手術を回避、声も温存
- 「拷問」と感じる患者の立場、淡々と管を挿入する医師の立場思いもかけない腸閉塞で事態は急変
- 体調は徐々に回復するも、術後の痛みに悩まされる大腸がんの手術は無事に成功
- 大腸がんの検査、手術に関するインフォームド・コンセント事前説明を良く聞いて、自分に起きる変化に備えよう
- 何でこんなに検査を受けるの?と思っても……不幸中の幸いをもたらしたPET検査
- きちんと疑問点をはっきりさせてから相談を受けることが大切夜の酒場でセカンドオピニオン ~わたしの場合~
- 情報収集し、疑問点をメモしてから受けよう知らないと損する!! セカンドオピニオンの上手な受け方