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肺がんにおける個別化医療 遺伝子診断ネットワーク

希少肺がんのスクリーニングシステムを新薬開発につなげる

監修●後藤功一 国立がん研究センター東病院呼吸器内科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年9月
更新:2019年7月

  

「これまでにない遺伝子診断ネットワークを作りました」と話す
後藤功一さん

個別化医療は、肺がんでもスピードアップしている。肺がんの原因遺伝子を突き止め、それを阻害する最適な分子標的薬を投与する薬物療法が浸透した結果、さらに多くの原因遺伝子を特定しようという試みが繰り広げられている。しかも、スクリーニング(選別)と新薬開発を効果的に結びつけようという画期的な発想だ。

加速する遺伝子診断

今年(2014年)7月、国立がん研究センターは、14年度のがん患者数・死亡者数の推計を発表した。肺がんは、患者数で大腸がんを抜いて2位となり、死亡者数では2位の胃がんより2万人以上多い7万6,500人で1位だった。手強いがんではあるが、治療する側も手をこまねいているわけではない。がんのドライバー遺伝子(がん細胞の増殖を促進するように変異した原因遺伝子)を突き止め、それに最適な分子標的薬を処方する、言い換えれば余計な薬を投与しないという治療が、2000年に入ってから急速に進歩してきた。

「ターゲット(標的)を絞ることで治療効果は上がり、副作用は一般的に軽くなります。漫然と治療するのではなく、患者さん一人ひとりに合った治療が遺伝子解析によって可能になったことはとても大きなこと。時代の流れです」と、国立がん研究センター東病院呼吸器内科長の後藤功一さんは語る。

肺がんは、病理検査で分かる組織型の違いにより「非小細胞がん」と「小細胞がん」に分けられ、85%ほどを占める非小細胞がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分類される。これらの中で、腺がんの割合が一番高く、肺がん全体の約6割を占める。この腺がんで、次々とドライバー遺伝子が発見されたのだ。現在は10種類ほどが治療のターゲットとなり、分子標的薬が開発、もしくは開発途中にあるとされる。

ドライバー遺伝子の発見による新薬開発が理想的

図1 日本人における肺腺がんの遺伝子変異の割合

Kohno T et al, Nature Medicine 18: 375-77. 2012

「肺がんの原因として遺伝子変化の関与はずっと考えられてきたことでした。たばこを吸わない若い人にも肺がんが多く見られるからです。遺伝子変化の中で最も多いのは、腺がんの50~60%で見られるEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子の変異です。腺がんではさらにALK(未分化リンパ腫キナーゼ)融合遺伝子が発見され、こちらは5~7%を占めます」(図1)

EGFR遺伝子変異には、02年に承認されたイレッサと04年に承認されたタルセバが有効に作用することが分かっている。さらに、14年にはジオトリフが日本でも承認された。いずれもEGFR遺伝子変異にターゲットを絞った分子標的薬だ。

ALK融合遺伝子に対しては、分子標的薬ザーコリが承認されており、アレセンサという新薬も7月に承認されたばかりだ。

後藤さんは「EGFR遺伝子変異に関しては、イレッサがとてもよく効く肺がんの研究をしたところ、EGFR遺伝子変異に作用していることがわかりました。ALK融合遺伝子の場合は逆で、最初にドライバー遺伝子が見つかって、それに対する薬として有効な分子標的薬が開発されました。後者のほうが理想的ですね。この結果、ドライバー遺伝子に対する薬の開発という方向性が定まりました」 と、個別化への道のりを話した。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ ジオトリフ=一般名アファチニブ
ザーコリ=一般名クリゾチニブ アレセンサ=一般名アレクチニブ

RET遺伝子変異 低頻度でも薬剤はある

後藤さんは、続ける。「たばこを吸わず、さらにEGFRもALKも陰性である腺がんの患者さんもたくさんいます。これらの患者さんには、その他の希少なドライバー遺伝子が原因になっていることが推測されました。そして、その原因遺伝子に対して分子標的薬がよく効くのではないかということで、遺伝子解析を新薬開発につなげようという研究が急速に進歩しました。これからは、病理検査で組織型を診断するだけではなく、遺伝子解析に基づいて、どのような遺伝子変化を持つ肺がんなのか分類することが大切になります」

研究で明らかになったのは、RET、ROS1、BRAF、HER2などの変異が肺がんのドライバー遺伝子となり得ることだ。しかし、いずれの発生頻度も1~2%かそれ以下で、EGFRやALKと比べてとても低頻度だ。

「とはいえ、患者さんにとって自分の肺がんの原因遺伝子が分かったにもかかわらず、有効性が高いと考えられる分子標的薬を使うことができないというのは辛いことです。とくに、その治療薬が他のがんでは承認されている場合はなおさらです。腺がんでいうと、従来の抗がん薬の腫瘍縮小効果は約30%ですが、分子標的薬なら60~70%です。有効性の高い患者さんにターゲットを絞って用いると、有効性も当然高くなります」

RET融合遺伝子に対しては、未承認の分子標的薬vandetanib(バンデタニブ、一般名)の有効性が基礎研究で報告されている。しかし、発生頻度の低いドライバー遺伝子だけに、臨床試験に必要な患者さんをどのように集めて、薬の有効性を評価するかがハードルとなっている。

vandetanib(バンデタニブ)=商品名Zactima(ザクチマ)※米国では承認済み

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