フォト・エッセイ命を食べる 季節を味わう
南国の冬の風物詩〝干しダイコン〟
丹野清志 たんの きよし
カメラマン、エッセイスト。1944年生まれ。東京写真大学(現東京工芸大学)卒。日本全国を長年にわたって歩き、農に生きる人、山に生きる人、海に生きる人々を撮り続ける。著書・写真集は『伝統野菜で旬を食べる』(毎日新聞社)ほか多数。
晩秋の山村を歩くと、家の軒下などに漬物にするダイコンがぶらさがっているのを見かけることがある。昔の農家ではどの家でも自家用として沢庵漬けを作っていた。
ダイコンの漬物は全国各地にいろいろ種類があるが、漬物用ダイコンを作る産地も各地にあり、ダイコンを干す風景は冬の風物詩となっている。
30年ほど前、鹿児島県薩摩半島の開聞岳周辺をぐるり回ったことがある。麓一帯がびっしりとダイコンで埋めつくされた眺めは壮観だった。
その後、漬物の消費量が減ったこともあって、現在はソラマメやグリーンピース栽培に変わり、ダイコンの生産は少なくなった。とはいえ薩摩半島南端に位置する頴娃町では、ダイコン畑が一面に広がっている。
この地で作られている干しダイコンの品種名は「理想」と言い、末太りでひょろりとした形をしている。
収穫したダイコンは、水洗いした後、1週間から十日間、寒風にさらして乾燥する。干し場は、4メートルほどの高さに竹を山型に組んで作られていて、2本のダイコンを葉で結束して5、6段の竹に掛けていく。
干しダイコンは、乾燥期間の天候状態で品質が左右される。
良いダイコンができても乾燥期間に雨が多くて風がなく、暖かい日が続いたら最悪だ。
収穫中のダイコン畑を訪ねた日は朝から快晴で、畑の中をぶらぶら歩いているだけでも汗ばむ暖かさだった。が、午後になると冷たい風が吹き始めた。
ダイコンがゆらゆらと揺れている干し場に近づくと、乾燥が済んで取り入れているところだった。
ダイコンは、すっかり水分が抜けてかさかさになっていて、黄色味を帯びた肌がじつに美しい。まるで和紙で作った工芸品に触れる感触だった。
うすぼんやりと見えていた開聞岳がくっきりしてきた。さらに風が冷たくなっている。
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