がんと食事3
乳がんの食事 巷の情報に惑わされずバランスの良い食事を
副作用の症状のために食事が摂りにくかったり、調理が困難といった悩みを抱える乳がん患者さんは少なくない。また、乳がんと食べ物・栄養の関連について、巷ではさまざまな情報が溢れ、どのように食事をしたらよいのか戸惑う患者さんも多い。乳がん患者さんの食事に対する基本的な考え方とはどのようなものだろうか。
副作用を乗り切る食事
食欲不振のとき
抗がん薬治療やホルモン療法の副作用に悩む乳がん患者さんは少なくない。
とくに食べられない、食事の摂取量が少ないといった状態は、患者さんの治療意欲を低下させ、ひいては治療継続を妨げる原因ともなりうる。そんなとき、食事はどのように工夫すればよいのだろう。
国立がん研究センター中央病院栄養管理室の高嶋浩子さんは、「食欲のないときには、食事の量を見ただけでプレッシャーを感じるもの。そんなときには量を減らしつつ、効率よく栄養が摂れるよう工夫し、患者さんの気持ちを楽にしてあげます」と話す。
患者さんは、「出てきた食事は食べなければならない」という義務感を持っていることが多い。そんなときは、盛り付けなど見た目を変えるだけでも、気持ちにゆとりができることがあるそうだ。
そこで同院では、食欲がなくてどうしても食事が食べられないときには、食事を見たときに一口でも食べてみようかなと思えるオリジナル食を提供している。これを同院の立地する場所にちなんで「築地食」と名付けている。
築地食には2種類ある。1種類は果物、汁物、ゼリーといった口当たりが良く手軽に食べられる。3食摂って500kcalほどと、カロリーは低いが食事が摂りにくい時期にでも「食べられた」という満足感が患者さんにとって大きな自信になるという。
もう1種類は麺類、チャーハンなどの軽食感覚の食事。朝のメニューにはコーンフレークも用意されている。高嶋さんによれば「主食+主菜+副菜だと食べられないが、これらをミックスさせつつ手軽に食べられる、お好み焼きやサンドイッチなどが好まれます」とのことだ。食事がつらい患者さんは、こういった食事法を参考にするとよいかもしれない(図1)。
「化学療法の副作用は出現時期、継続期間に個人差がありますが、その間なるべくスムーズに乗り切ってもらうためにこの『築地食』ができました。しかし副作用症状が現れると、患者さんの中には、『今後ちゃんとした食事ができないのではないか』と思い悩む方もいらっしゃいます。そんなときは管理栄養士がベッドサイドに伺い、少しずつでも食べられるよう、食事調整を行い、退院前には自宅での食事についてもアドバイスしています」
ホルモン療法中
●ホットフラッシュ
ホルモン療法中は更年期症状のような副作用が現れるれることが多い。食事との関連性は少ないが、ホットフラッシュ*に対しては、清涼感、酸味、柑橘系の食品を取り入れることもある。アイス、シャーベットなどの冷たいデザートをを食前に1口食べると、あとの食事が進みやすい。
●骨密度低下
ホルモン療法のうちアロマターゼ阻害薬はエストロゲンに対する作用が強く、骨代謝に影響して骨密度を低下させ、骨粗鬆症のリスクを上昇させやすい。食事では、カルシウムを1日600mg程度(表2)を目安にとるように心がける。
カルシウムの多い食品(表3)は、乳製品、海藻類、大豆製品、骨ごと食べられる魚類、緑黄色野菜などを1日の中で上手に組み合わせることをおすすめします。また、カルシウムの吸収にはビタミンDも必要です。肉類、魚類、卵類などに多く含まれますが、日光によって皮膚でつくられるので、外出を楽しむことも大切です。
*ホットフラッシュ=更年期にみられる1種の症状で、のぼせ、ほてりなどの症状
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