がんと食事6

腎がんの食事 片腎切除後、腎機能が低下しても〝食の楽しみ〟を諦めないために

監修●小松美佐子 都立駒込病院栄養科栄養科長・管理栄養士
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年1月
更新:2019年9月

  

「食べられることは、生きる証」と語る小松美佐子さん

腎臓がんの治療後の食事は、腎臓の状態や化学療法の有無によって対応が変わる。しかし、どんな場合でも共通するのは“食べる喜び” を大切にすること。今回は、腎機能低下に伴う厳しい食事制限の中でも、いかに工夫して美味しく食べるかを、専門家に聞いた。

腎臓の働き

腎臓は、腰の高さの位置に背骨をはさんで左右1つずつある、子供のこぶし大の臓器だ。主な働きは、血液が運んでくる不要な老廃物を、腎臓内の糸球体で濾過して尿を作ること。また他に、血圧の調節や血液のpHの調節もしている。このように、腎臓は、血液(体液)が滞りなく体内を循環し続けるために、必要不可欠な臓器である。

腎がん(腎細胞がん)はそのほとんどが尿細管の細胞から発生するとされ、Ⅰ期の治療の基本は手術である。腎臓は2つあるため、1つ残っていれば機能は温存されると考えられているためだ(図1)。

図1 腎臓の働き

「腎がん治療後の食事については、患者さんの腎臓の状態により対応が変わります。大別すると、①片腎切除後、残りの腎機能に問題がない場合、②片腎を切除してもしていなくても、化学療法や放射線治療によって食欲低下や味覚障害等が見られる場合(腎機能には問題ない)、③片腎切除後、腎機能が低下している場合、の3つです」

と、都立駒込病院栄養科長の小松美佐子さんは話す。

①片腎切除後、腎機能に問題のない場合

「一般の患者さんと同じ食事で問題はありません。がんの再発を防止する意味で、バランスの良い食事を心掛けてください」

②腎機能に問題はないが化学療法などで食欲が低下している場合

「このケースは、当院では、他の臓器がんで副作用に悩んでいる患者さんと同様に対応しています。例えば、食事の臭いが気になる方には「低臭食」といって、通常はメラミン樹脂の器で提供する食事を、瀬戸物の食器に変えます。メラミン樹脂には独特の臭いがあるため、敏感になっている患者さんは、それだけで食欲がなくなってしまうのです。

また、味を感じにくい方には元の味付けを薄く調理して、患者さんご自身が煮汁、たれ、醤油やソース、ドレッシング、塩などを適宜加えて、好みの味に調整できる「ミラクル食」も好評です。

このような食べ方・食器の工夫は、退院後、ご自宅でも応用していただけるので、化学療法などで食欲が低下している方は、ぜひ参考にしてください」

③腎機能が低下している場合

「腎がんの治療後の食事で、対応が一番難しいのが、このケースです。片腎切除後、残った腎機能が低下した場合は、慢性腎不全と同じ対応をする必要があるためです」

慢性腎不全の食事療法といえば、厳しい制限で知られているが、腎がんの手術後というコンディションであっても、変わりはないのだろうか。

「食塩も制限、タンパク質も制限という慢性腎不全用の食事は、決して美味しいとはいえません。がんで苦しんでいる患者さんにとっては、相当辛いものがあります。

ですから、私たちが病院でそのような患者さんのために出す食事は、メニューだけではなく、どう提供するか、見せるか、といった部分にも気を配りますし、あれもこれもダメという制限で縛るより、この範囲の中でもこれならできる、という形で、できるだけ食べられる喜びを感じて頂けるように工夫しています」

と、小松さんは語る。

ただし、“ 制限範囲の中で、工夫を重ねて美味しく食べる”ためには、何がよくて何がよくないかという基本はしっかり押さえておかねばならない。

食事療法の基本

慢性腎不全の食事で守らねばならないのは、以下の項目だ。個々には主治医による栄養量の指示があるので注意すること。

●食塩を控える(1日6g未満)

●カリウムを控える(1日1500~2000㎎)

●タンパク質を控える(1日30~50g)

●エネルギー量を適正量とる(1日1600~2000kcal)

食塩を控えるためには、パンや麺類など塩分含有量が多めのものは、1日1回以下にして、白いご飯をメインの主食にする、魚の干物や練り製品、肉の加工品、梅干し、漬物、みそ汁やすまし汁などをできるだけ摂らないようにする、などが挙げられる。小松さんは、ここで注目すべきポイントがあるという。

「そうは言っても、年配の患者さんの中には、どうしても朝食に梅干しが食べたいという方もいます。そういう場合は、梅干しを禁止するのではなく、他の食品から摂る塩分を5gに抑えて、残りの1gの塩分を梅干しに回します。実際、それで気持ちが明るくなり、元気を持ち直すことだってあるのです。

食べたいものをある程度は食べながら、全体のバランスの中で、塩分の配分を考えればよいのではないでしょうか。

また調味塩分バランスといって、人が美味しいと感じる塩分バランスがあります。その中央値が0・8~0・9%と言われていて、例えば塩分バランス0・5%のすまし汁を飲んでも、美味しいとは感じられません。

ですから、すまし汁を飲みたいときは、無理に薄くてまずいものを飲むのではなく、塩分バランス0・8~0・9%のすまし汁を半分量飲んで、食を楽しめばよいと考えています。良質なダシのうま味を使うのも、ポイントです」

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