ASCO乳がんシンポジウム2014 リポート

サバイバーがよりよい生活を維持するための課題

取材・文●中西美荷
発行:2014年12月
更新:2015年4月

  

セッションの質疑応答に臨む演者。右から3人目がAndersen氏、
4人目がGoodwin氏(Photo by .AN) ASCO/Todd Buchanan 2014 Technical Questions

“Survivorship and Health Policy” セッションから

米国臨床腫瘍学会乳がんシンポジウム(ASCO Breast Cancer Symposium)が9月4~6日の3日間、米国サンフランシスコで開催された。

今号では、治療の進歩に伴い増加するサバイバー(生存者)が、よりよく生きていくための課題を扱った“Survivorship and Health Policy” セッションから、トピックスを紹介する。

不安やうつ症状が慢性化
乳がん生存者における社会心理学的問題

がんのストレスは、精神的、行動的、そして生物学的に様々な問題を引き起こすが、がんサバイバーにおける不安やうつ症状については、あまり認識されていない。米オハイオ州立大学のBarbara L. Andersen氏らが行った57試験のメタ解析によれば、一般市民で1.4~8.0%とされる大うつ病の頻度は、がん患者では11.2%にも上っていたという。軽い慢性うつ病や全般性不安障害などを加えると、その頻度は20%以上に及ぶ。

同氏は「重要なのは、これらが慢性的な症状であることだ」と述べ、患者への影響の大きさを強調した。

リスクは高毒性の治療、再発、そして孤独

では、がん患者におけるどのような要因が、不安やうつ症状のリスクとなるのか。1つは「毒性の高い抗がん薬がん治療」だという。タキサン系薬剤を用いた患者群では、うつ症状の頻度が有意に高いことが報告されている。2つ目は「再発」で、再発した患者では、がん関連のストレス指標であるIES(出来事インパクト尺度)が、無再発の患者よりも高い。そしてもう1つは「孤独」である。

パートナーがいる患者には、健康や長生き、感情の共有といった利点がある一方で、パートナーがいない患者では、病状進行、孤独感、うつや自殺のリスクが高いという。とくに絶望感を伴う場合、より高頻度でうつ症状が認められる。

また、たとえパートナーがいても、その関係に問題があり、機能的に「孤独」な場合、うつとなるリスクが高い。

診断・治療ガイドラインを提唱

ASCOではこれらの問題を重視し、2014年4月、がん患者における不安やうつ症状を診断・治療するためのガイドラインを提唱した。不安、うつ症状の評価においては、確立された方法を用いて症状を発見することに加え、リスク評価によって治療を個別化することの重要性が指摘されている。

Andersen氏は「メンタルヘルスの治療では、とくに(治療面での)コンプライアンス不良となりがちである」と指摘。治療開始後には、コンプライアンスチェックが必須であることを強調した。

ライフスタイルへの介入は体重減少をターゲットに
脂肪摂取低下を目指した2つの大規模試験で異なる結果

カナダ・トロント大学マウントサイナイ(Mount Sinai)病院のPamela J. Goodwin氏によれば、食事について、乳がん生存者では2つの大規模試験が行われている。診断後1年以内の2,437例で20%の脂肪摂取低下を目指したWINS試験(Women’s Intervention Nutrition Study)では、無病生存期間(DFS)の有意な改善を認めた(HR 0.76, 95%CI 0.60-0.98)。

一方、診断後4年までの3,088例に対し、やや複雑な食事内容が指示されたWHEL試験(Woman’s Healthy Eating and Living trial)では、DFS改善を認めなかった(HR=0.96, 95%CI 0.80-1.14)。WINS試験では体重が3.2%(2.3kg)減少したのに対し、WHEL試験ではやや増加しており、Goodwin氏は、この違いが結果に影響したとの見解を示した。

5~7%の体重減を目標とする電話での介入試験を計画

最近では、体重過剰、肥満において乳がんアウトカム(治療結果)が不良となる生物学的背景についても、研究が進められている。例えば閉経後女性では、肥満の場合、エストラジオールなどの生殖ホルモンレベルがより高く、再発リスクが高い。また、インスリンレベルが高いほど死亡、遠隔転移のリスクが高いが、インスリンレベルはBMI(ボディ・マス・インデックス:肥満指数)が高いほど高いという。健常者では、体重減少1%ごとに、エストラジオールが3%、インスリンが3%減少することが示唆されており、乳がん生存者に対するライフスタイル介入の目標として、5%の体重減が適切であると考えられている。

同氏らが行ったLISA試験(Lifestyle Intervention Study in Adjuvant Treatment of Early Breast Cancer)では、電話ベースでのライフスタイル介入によって6~12カ月の体重が4~4.5%減少し、全般的な身体活動性の改善につながった。この結果を受け、現在、5~7%の体重減を目標とする電話でのライフスタイル介入試験が計画されている。体重減少が乳がんアウトカムに及ぼす効果について、より確定的な情報が得られることが期待される。

適度のアルコール摂取は再発リスクに影響せず

Goodwin氏は、最近報告されたアルコール摂取についての11試験、合計29,239例のメタ解析の結果にも言及。診断後のアルコール摂取は、1日あたりグラス2杯のワイン程度であれば、再発リスクを増加させないことが示された。がんと闘うための治療のみならず、がんサバイバーのその後の人生をよりよいものとする真のがん治療の、さらなる発展を期待したい。

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