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「食べられるものを食べればいい」と気軽に考えよう
抗がん剤・放射線治療中でも食事の工夫次第で無理なく食べられる

監修:稲野利美 静岡県立静岡がんセンター栄養室長
取材・文:半沢裕子
発行:2011年2月
更新:2014年11月

  

稲野利美さん 静岡県立静岡がんセンター
栄養室長の
稲野利美さん

抗がん剤治療や放射線治療中の患者さんやご家族の多くが、さまざまな副作用のため食べられないことに悩んでいる。
そこで、静岡県立静岡がんセンター栄養室長の稲野利美さんに、副作用の症状別の、食べられないときの食事の工夫を伺った。

「がん患者の食事は特殊」と考えられているが……

抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療には、さまざまな「食べられない」問題が伴う。最近、この問題に取り組む医療機関も増えてきた。「多くの人が、『がん患者には特殊な食事が必要』と考えているようで、入院後に帰宅したら、何を食べたらいいかわからないという患者さん、何を食べさせたらいいかわからないというご家族はとてもたくさんいらっしゃいます」と語るのは、静岡県立静岡がんセンター栄養室長の稲野利美さんだ。

同センターでは、センター内の図書館やよろず相談窓口に寄せられた食事相談に応え、食べられないときの食事の考え方やレシピをまとめた『がんよろず相談Q&A 第3集 抗がん剤治療・放射線治療と食事編』を発行。改訂版は今も同センターで無料配布されているほか、同センターのホームページから全頁をダウンロードすることもできる。また、多少内容を変えた市販本、『症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』(女子栄養大学出版部)も出版されている。

稲野さんは、その制作にかかわった主要スタッフの1人だ。書籍には、患者さんの食事の訴えを聞いてきた稲野さんの経験が生かされているが、その最大のポイントは、抗がん剤治療と放射線治療の主な副作用・後遺症を整理し、症状別の食事の工夫を整理した点だ。

ちなみに、書籍では症状を横軸に、メニューを縦軸に配した一覧表も掲載され、「この症状ならこのメニューは適する/配慮が必要/適さない」がひと目でわかるようになっている。

『がんよろず相談Q&A 第3集 抗がん剤治療・放射線治療と食事編』

『がんよろず相談Q&A 第3集 抗がん剤治療・放射線治療と食事編』は同センターで無料配布されているほか、下記ホームページから全頁をダウンロードできる
静岡県立静岡がんセンター
インデックス「患者さんの悩みと解決方法」からリンク

『症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』

『症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』(女子栄養大学出版部/定価 2,100円)に載っている全メニューはホームページで閲覧できる

普通の食材でつくる普通の食事でOK

稲野さんは、先に書いた「がんの患者さんの食事は特殊」というイメージとは裏腹に、「副作用や後遺症を持つ患者さんの食事を考えるとき、肩に力を入れず、普通に手に入る普通の材料を使い、いつもの食事にちょっと工夫をすればいいということです」と言う。

「とにかく食べられることが先決。特殊な食事だと馴染みがないし、つくるほうも大変ですよね。患者さんのなかには、1人暮らしの方も高齢の方もいます。また、お母さんが病気になり、別の人がご飯をつくらなければならないこともあります。そんな場合は、手近なもので簡単につくれるのが何よりですよね」

確かに、書籍に紹介されたメニューを見ても、にゅうめん、ソース焼きそば、サンドイッチ、茶碗蒸しなど、どこにでもある材料を使った、どこにでもありそうな1品が並ぶ。

普通がいい理由はもう1つ。

「患者さんもご家族も無理をされないほうがいいからです。たとえば、抗がん剤治療中の患者さんが『食べたくない』というときは、『食べたいけど食べられない』のではなく、『本当に食べたくない』ことがほとんど。

でも、一般に〝食べること=生きること〟というイメージが強いので、ご家族は『一口でもいいから』とつい強要しがちです。患者さんも『食べなくちゃ』と食事を頼みますが、実際に目の前に出てきたら、一口も食べられなかったということも少なくありません。

当然、ご家族はがっかりしますが、『せっかくつくったのに』という気持ちが出ると、患者さんは『つくってもらっても食べられないから』とその後は頼まなくなってしまいます。食事の話だけでも苦痛になったり、お互いに緊張したりするようになります」

大きなおにぎり1つより、小さなおにぎり2つ

「そうすると、ますます何を食べていいかわからなくなってしまう。つまり、どちらも無理をせず、『食べられるものを食べればいい』と気軽に考えることが、とても大事です。
その意味でも特殊な食事ではなく、普通の食事のほうがいいし、インスタント食品やデパ地下惣菜のような出来あいの食べ物も、どんどん利用していただきたいと思います。豆腐やヨーグルトなど、そのまま食べられて一定期間常備できる食材を用意し、食べられないとき、さっと出すのもいい方法です」

副作用によっては、どんなに頑張っても絶対食べられない時期もある。

「食べられない時期は飲み物だけでもいいし、点滴や経管栄養()を利用したほうが、かえってQOL(生活の質)が高い場合もあります。『口から食べるばかりが栄養ではない』と開き直って見守り、食べ始められそうな時期が来たときにそっと背中を押してあげてください」

とにかく、食べるために頑張り過ぎないことが1番、と稲野さんは言う。

たとえば、おにぎりは大きいものを1つより、一口サイズのものを2つ出す。こぼすこともなく一口で食べられて、しかも、「2個全部食べられた」という達成感と安心感がある。

「この『食べられた』という安心感が、ご本人の気持ちにもご家族の気持ちにも、大きく影響すると思います」

経管栄養=口から食べ物を摂取することができない、あるいは口からの摂取だけでは不十分な患者に対し、体外から消化管内に通したチューブを用いて流動食を投与する処置

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