「がんを防ぐ食事」「がん体験者の食事」の最新知識

世界中の膨大な数の研究から導き出された世界がん研究基金報告書

監修:坪野吉孝 東北大学公共政策大学院教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年2月
更新:2019年7月

  

坪野吉孝さん 東北大学
公共政策大学院教授の
坪野吉孝さん

食物・栄養・運動とがん予防との関係について約7000件の研究論文が分析された、極めて価値の高い報告書が2007年11月に出された。
分析の対象となった研究は、昨年に発表されたばかりの最新の研究データについても追記されている。
そこで、この報告書のもつ価値ある情報について紹介しよう。

膨大な数の研究から導き出された真実

がんを防ぐ食事に関しては、実にいろいろな情報がマスコミを通じて流されている。「がんの予防にある食べ物や栄養素が役立つことがわかった」といった類いの情報だ。こうした情報は、何らかの研究に基づいているのが普通だが、研究の方法、研究の規模や期間などによって、情報の価値は大きく異なってくる。価値の高い情報もあれば、そうでもない情報もあるということだ。

2007年の11月に、食事とがん予防に関するきわめて価値の高い情報が発表された。世界がん研究基金(ワールド・キャンサー・リサーチ・ファンド)による報告書『食物・栄養・運動とがん予防――国際的視点から――』である。

この報告書がどのようなものなのか、東北大学公共政策大学院教授の坪野吉孝さんに解説していただいた。

「世界がん研究基金による報告書は、1997年に第1版が出されています。今回公表されたのは第2版で、10年ぶりに改訂されたもの。食物・栄養・運動とがん予防に関して、これまでで最も包括的な報告と言っていいでしょう」

この報告書をまとめるにあたり、21人の研究者から成る委員会が作られている。そして、世界中の9大学が研究論文の収集や再検討に協力し、食物・栄養・運動とがん予防に関する約7000件の研究論文を分析したのだという。

「第1版では4000件の研究が対象になっていたので、その後の10年間で、3000件の研究の分析を進めたことになります。この規模で分析するとなると、個人や少人数のグループでは難しい。国際的に協力しあうことで初めて可能になる研究です」

対象となった7000件の研究の多くは、ランダム化比較試験や前向きコホート研究などの信頼性の高い研究だという。

ランダム化比較試験とは、研究対象の人たちをランダムに試験群と対照群に分け、偏りが生じないようにして、がんの発生率などを比較する試験のこと。無作為割付臨床試験ともいう。

前向きコホート研究では、健康な集団に対して日常的な食事について調査し、その後数年から10数年にわたって追跡調査を行う。それによってがんの発生を確認し、食生活との関係を調べるのだ。

これらの研究方法は信頼性の高いものだが、その結果にはばらつきが出る。そこで、信頼できる研究を系統的にたくさん集め、その結果を分析することが行われてきたのだ。こうして、「食物・栄養・運動とがん予防」に関係する約7000件の研究を対象に分析が行われた。その結果、最も包括的で、最も信頼性の高い報告書が完成したことになる。

分析の対象となった研究は、主に05年までのものだが、07年に発表されたような最新の研究データについても追記されている。現時点における最も新しい情報といえるだろう。

第1版と変わって肥満のリスクを重視

この報告書をまとめるにあたって、委員会は、食物・栄養・運動に関係するさまざまな要因と、個別のがんとの関連について、評価を下している。その評価は、科学的根拠がどの程度あるかを、統一的な基準を用いて判定したものだ。

評価は5段階で、「確実」、「おそらく確実」、「限定的―示唆的」、「限定的―判定不能」、「リスクとの顕著な関連の可能性低い」に分かれている。

表1に示したのは、「確実」あるいは「おそらく確実」と評価されているもの。がん予防のために何かを実践しようとした場合、役に立つのは、この2つの段階の評価を得ている情報だ。

食物とがん予防のまとめ(2007年世界がん研究基金)

「10年前に出た第1版と比較してみると、変わってきている部分がいくつかあります。最も目につくのは、肥満との関係ですね。第1版では、肥満によるリスクの上昇が『確実』と判定されていたのは子宮体がんだけでした。ところが、第2版では、子宮体がんに加えて、食道がん、膵臓がん、大腸がん、閉経後の乳がん、腎臓がんも、リスクを上昇させることが『確実』と評価されています。全体として、肥満の影響が強調されているのが特徴と言えるでしょう」

肥満は、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの生活習慣病との関連がよく知られているが、いくつかのがんの危険因子となることも明らかになってきたわけだ。

「野菜の評価も変化しました。第1版では、野菜によるリスク低下が『確実』『おそらく確実』と評価されたがんは、口腔がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、大腸がん、乳がん、膀胱がんとたくさんありました。ところが、第2版では『確実』がなくなり、『おそらく確実』として、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がんがあげられているだけです。果物にも同様の傾向が見られます」

肥満に対する評価が高まり、野菜や果物の評価が下がったのが、この10年間の大きな変化だといえそうだ。

「何を食べるかだけでなく、どれだけ食べるかが問題視され、肥満と運動の意義が強調されるようになっています。そういった研究が増えてきたということでしょう」

報告書では、「確実」「おそらく確実」と判定された要因に基づき、食物・栄養・運動によるがん予防について、表2に示した10項目を推奨している。

[表2 がん予防のための推奨(2007年世界がん研究基金)]
1 肥満 やせにならない範囲で、できるだけ体重を減らす
2 運動 毎日30分以上の運動をする(早歩きのような中等度の運動)
3 体重増につながる食物と飲料 高カロリーの食品を控えめにし、糖分を加えた飲料を避ける
(ファーストフードやソフトドリンクなど)
4 植物性食品 いろいろな野菜、果物、全粒穀類、豆類を食べる
(野菜と果物は1日400グラム以上)
5 動物性食品 肉類(牛・豚・羊など、鶏肉は除く)を控えめにし、
加工肉(ハム・ベーコン・ソーセージなど)を避ける(肉類は週500グラム未満)
6 アルコール飲料 アルコール飲料を飲むなら、男性は1日2杯、女性は1杯までにする
(1杯はアルコール10~15グラムに相当)
7 食品の保存・加工・調理法 塩分の多い食品を控えめにする
8 サプリメント がん予防の目的でサプリメントを使わない
9 特別な集団への推奨1 生後6カ月までは母乳のみで育てるようにする
(母親の乳がん予防と小児の肥満予防)
10 特別な集団への推奨2 治療後のがん体験者は、がん予防のための上記の推奨にならう
+1 喫煙 禁煙を忘れずに

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