仕事、教育費、相続問題まで、がんにかかわるお金のよろず相談に応じます!
医療費で困ったら、「ソーシャルワーカー」に駆け込もう

監修:宮内佳代子 帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室課長
取材・文:半沢裕子
発行:2010年8月
更新:2019年7月

  
宮内佳代子さん
帝京大学医学部付属溝口病院
医療相談室課長の
宮内佳代子さん

がんの治療では、「お金」にかかわる問題も悩みの種だ。そんなとき、気軽に相談に応じてくれる「ソーシャルワーカー」という人たちがいることをご存じだろうか。ソーシャルワーカーがお金の悩みを具体的にどう解決してくれるのか、説明していこう。

どんな問題でもまずは相談してほしい

がんにかかわるお金の悩みは、幅広く深刻だ。「抗がん剤治療の費用が高くて払えない」「治療費を払うと生活が成り立たない」といった治療費に直接まつわる悩み。「生きるためには生活費が必要。しかし、治療で後遺症が残り、転職を余儀なくされている」「会社に復職したが、仕事内容が変わり給料が激減した」など、仕事にかかわるもの。さらに、「もしものとき、残される家族が困らないようにしたい」「入院中に子どもの世話はどうしたらいいか」なども、広い意味でお金にまつわる問題だ。こうした複雑な問題を、いったいどこに相談したらいいのだろうか。

「病気になるといろいろな問題が発生します。『困ったな』と思ったら、とりあえず私たちのところに相談に来てください」

ニッコリほほえむのは、帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室課長の宮内佳代子さんだ。宮内さんは病院で働くベテランのソーシャルワーカー。ソーシャルワーカーといっても、「名前しか知らない」という人が多いだろう。ソーシャルワーカーとは、簡単に言えば、病気に伴っておきた生活上の悩みや心の相談に乗ってくれる専門家だ。その職能団体である日本医療社会事業協会が2007年に行った調査では、会員の73.8パーセントが社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を取得している。業務内容は厚生労働省のソーシャルワーカー業務指針によると、患者さんの療養中の心理的・社会的問題の解決、社会復帰援助など多岐にわたる。

「患者さんは病気だけでなく、生活上のいろいろなしがらみを抱えて病院に来ます。そのしがらみ全般を扱うのが私たちの仕事。医師は病気のこと、看護師は看護やケアなど、病院にはいろいろな専門家がいますが、ソーシャルワーカーは患者さんの生活上の問題について患者さんと一緒に解決方法を考えます」

たとえば、「親が緊急入院した時の幼児の世話を誰がするか」という問題。まず、患者さんと面接して、親戚や知人を世話役として検討し、難しい場合は地域の保育園の一時保育や家庭保育福祉員(保育ママ)、家政婦さんなども考慮する。それでもだめな場合は、乳児院の利用をすすめることもある。多くの親は子どもを乳児院に入れることをためらうが、費用と子どものケアを考えると、乳児院のほうが子どものトータル的なケアができ、良い場合もある。このような場合は親に了解をもらい、子どもが乳児院に入れるよう、児童相談所と調整したりする。

自己負担のない医療費助成もある

「最近、ソーシャルワーカーの業務の一部に診療報酬がつくようになり、地域連携室や医療相談室にソーシャルワーカーが常駐する病院も増えています。今日、病気を治すだけでは病院の仕事として十分ではないということが、共通認識になっていると思います」

とはいえ、経済的問題について、自分のかかっている病院に相談するのは、まだハードルが高いのではないか。

「昔は『医療相談室に来るのは、質屋ののれんをくぐるのと同じ』といわれ、特別な人が利用するといわれた時代もありました。でも、高齢化社会で何らかの体の不自由を抱える人が多くなり、利用できる制度も複雑になりました。患者さんの意識も変わりました。がんになる人が増えて年金生活ともなれば、治療費のことも心配になります。役に立つ制度も実はいろいろありますが、複雑なので、どう使いこなすかを患者さんと一緒に考えるなど、医療相談に来るのが一般的になりました」

たとえば、高額療養費は前項でも繰り返しふれたが、最近では、自己負担分だけ窓口で支払えば、それ以上の分は直接医療保険から病院に支払われるので、自分では負担しなくていい「高額療養費委任払い」や、高額療養費の8~9割を先に受け取り、残りをあとで精算する「高額療養費貸付制度」(いずれも事前申請が必要)など、高額な薬代を立て替えなくてもすむ助成もある。

また、条件によっては自己負担をせずにすむこともある。一時的に生活保護を申請したり、生活保護と健康保険を併用してもらったりすることもある。

また、治療に伴い重い障害が残ったケースでは、身体障害者手帳1、2級を取得して、重度障害者の認定を勧めることもある。治療費が全額無料になるからだ。

しかし、いずれの場合も年齢や収入、治療費に応じて細かい計算が必要なうえ、申請の仕方やハードルの高さもさまざま。当然、患者さんの状態にあわせ、利用の切り替えも必要となる。そうしたとき、ソーシャルワーカーが力になってくれる。

医師も患者さんの経済状態を心配している

「主治医にお金に困っていると思われたくない」という心配も不要だ。

「医師は費用が高い治療を勧めるとき、実は患者さんが無理なく支払えるか心配していても、患者さんには直接聞きにくいので、私たちを紹介することがあります。そんなとき、『こうした制度を使って解決した』と報告すると、医師も安心します。みんな患者さんによくなってもらいたいのですよ」

ソーシャルワーカーのいる病院は、患者さんに親身ともいえるから、病院選びの基準の1つになるようだ。


[ソーシャルワーカーの利用手引き(帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室の例)]

当病院では病気になったことでおこるいろいろな問題や悩みを解決するお手伝いをする専門の相談員(医療ソーシャルワーカー)がいます。患者さんが安心して療養に専念し、ご家族の悩みや負担を少なくして、健康への回復を促進しようというのが目的です。本人はもとよりご家族の方もお気軽にご利用ください。     ※相談内容についての秘密は守ります。

  • 1)医療費、生活費など経済的な心配があるとき
  • 2)家族、人間関係で心配なことのあるとき
  • 3)不安、恐れ、イライラなど心理的問題があるとき
  • 4)職場、学校に心配なことのあるとき
  • 5)退院後の生活や社会復帰に不安があるとき
  • 6)身体に障害が残り、今後どのようにしたらよいかわからないとき
  • 7)保険、年金、社会福祉制度や施設の利用について知りたいとき
  • 8)その他、だれに相談したらいいのかわからないとき
  • ・ご希望のかたは、医師・看護婦にお申出くださるか、直接相談受付までおこしください

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