明細書は、患者が質問しやすくしてくれるツールである
スーパーでレシートをチェックするように、「診療明細書」もチェックしてみよう
2010年春から、病院などでの精算時に無料で出るようになった診療明細書は、患者さんが、自分の治療や検査の内容と費用を後から知ることができる、医療のレシートだ。
スーパーでレシートをチェックするように、明細書にも目を通して、わからないことは医療機関に聞いてみよう。
舛添要一厚労相によって明細書の無料化を開始
2010年4月から、病院や診療所で治療や検査を受けた際にもらう領収書が大幅に充実した。従来の内訳だけの「領収書」に、診療や検査の詳しい内容、薬の正式名称、各保険点数を記した「診療明細書」が加わったのだ(一部、請求行為が電子化されていない診療所では7月分から)。
08年春から明細書を無料発行するよう国から義務付けられたのが、全国8つのナショナルセンター(国立高度専門医療センター)だ。
これは、医療保険点数を決定する中央社会保険医療協議会(中医協)というところが、08年の診療報酬改定方針を決定した直後の国会で、舛添要一厚労相(当時)が「模範となるべき国立病院で明細書の無料発行を始める」と答弁、4月をめどに早急に準備せよと、年初に通知して起こった動きだ。
ナショナルセンターの1つ、国立がん研究センター中央病院では、08年4月から全国の病院に先がけて、明細書発行を始め、以来これまで、1日千人を超す患者さんに、窓口や自動精算機で明細書を発行してきた。
財務経理課医事室、患者相談専門職の小林幸夫さんと、財務経理課医事室入院・外来係長の佐藤孝志さんに尋ねると、「2年前の導入後、こちらが心配していたようなこともなく、明細書はごく静かに患者さんに受け入れられてきています」とのこと。
2人がいう「心配」とは、初めて患者さんに明かされた、診療や検査の詳しい内容について質問が殺到し、窓口業務が滞るのではないかということだ。
診療内容や経費がわかる ただし、用語は「むずかしい」

実際の診療明細書を見ればわかるが、明細書上で開示される情報は、実に細かい。
健康診断の血液検査で見慣れた「BUN」などがある一方で、今まで見たことがない「~加算」「~管理費」などの用語がある。
だから病院は「質問が集中したら窓口は混雑する。説明用の人材が必要かも」と心配したわけだ。
ところが待っていたのは静かな反応。確かに、明細書を発行する以前も、患者さんからの問い合わせはあった。しかし明細書発行後、病院側が考えていたほど急激には質問件数は増えなかったという。
中央病院では、明細書を発行するようになって1カ月後に、おつりや書類の手渡しミスを防ぐため、自動精算機による領収書と明細書の発行に踏み切っている。会話や質問が起こりやすい明細書の手渡しが行われたのが実質2カ月だったこともあるが、「『自分が受けている治療の内容がわかるようになってよかった』という感想はあったが、窓口によせられる質問内容は、明細書導入前とそう変わらなかった」という。
質問件数や内容に影響がないのなら、がん患者さんは、明細書を見ていないのだろうか? いや、見ている。それは、患者さんたちの動きを見ていればわかるという。
「頻繁に来院される患者さんは、明細書をその場ではチェックせず、次の診察のときに前回の明細書について質問されます。一方、通院が半年や1年おきの方は、明細書をその場で見て、わからないことがあるとその日に窓口に来て質問されます」と2人は話す。
明細書は患者の質問を後押しするツール
「全体的に、患者さんが、自分の診療内容と治療費を後から把握するツールになっていると思います」と2人。
中央病院の場合、患者さんが明細書から読み取っているのは、まず診療内容。次に費用の順。
どちらかというと明細書は、費用より、医師に治療内容の問い合わせをするきっかけに使われることのほうが多いという。
費用に関する問い合わせは、治療が始まる前に、「これからいくらかかりますか」という「事前の費用の問い合わせ」が半数を少し超え、「明細書に載っている内容が思い当たらない」という「事後問い合わせ」が残りとのこと。
「患者さんは抗がん剤や放射線治療にお金がかかると知っているので、治療が始まる前に聞いておきたいのと、当病院がクレジットカードを使えないので、現金用意のために多くなる傾向があるのだと思います」と2人は話す。

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