遺族年金について知っておきましょう
その5 「妻」への給付条件について

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2004年9月
更新:2019年7月

  

遺族年金受給者のほとんどは「妻」

今までいろいろな事例をもとに、どんなときに、誰が、どんな遺族給付を受けることができるのか、または受けることができないのかをみてきました。今回は、遺族年金の受給者の大半を占める「妻」にスポットをあてて考えていきたいと思います。

年金制度ができたのは今から40年以上も前のことです。遺族年金は、年金制度ができた時代の家族像が色濃く反映されています。当時は、男性が外で働いて収入を得、女性は子どもを育てて家を守るというスタイルが一般的でした。女性が働くのは、結婚前の短い期間や、結婚後、家計を助けるための内職やパート勤務です。そのために、遺族年金は後に残された妻と子どもを守ることを前提として設計されたのです。

[遺族年金の受給権者]
遺族年金の受給権者
表中の「18歳未満」は18歳に達して最初の3月末日までをいう。また20歳未満で1・2級の障害の子も含む。
表中の「55歳以上」は55歳から59歳までは支給停止。60歳からの受給となる。

ここで少しおさらいをしておきましょう。

国民年金からの給付である遺族基礎年金は「18歳未満の子のいる妻」か「18歳未満の子」しかもらうことはできません。家計を支えていた妻が亡くなって、18歳未満の子と夫が残されても遺族基礎年金をもらうことはできないのです。

厚生年金からの給付である遺族厚生年金は、妻、子だけでなく、夫や父母なども受給権者となることができます。しかし、妻以外の受給権者には年齢制限や併給調整(二つ以上の年金がもらえるときは、どちらか一方しかもらえない)というルールがあります。

そのために、実際には遺族年金の受給者のほとんどが「妻」であるという状態となっているのです。

それでは、事例をみていくことにしましょう。

事例-1 籍を入れていない「内縁の妻」の場合

老齢厚生年金を受給中のA男さん(65歳)が死亡。

A男さんは2年前に離婚しています。現在、籍は入れていませんがA子さんと1年ほど前から一緒に暮らしていました。いわゆる内縁の妻です。そのA男さんが胃がんで亡くなりました。A子さんは遺族年金がもらえるとは考えていませんでした。というのは、A男さんは離婚していたとはいえ、前妻との結婚期間は30年以上もあり、子どもも全員成人していますが、3人います。自分は入籍もしていないし、生活をともにした期間は前妻の30分の1にも満たない、もちろん子どももいません。遺産相続権のないA子さんが遺族年金をもらえないと思うのも無理のないところです。しかし、知人からのアドバイスを受けて遺族年金の請求手続きをしたところ、遺族厚生年金月額約12万円をもらうことができたのでした。

内縁の妻の扱い

配偶者控除や配偶者特別控除または相続などの税法上は、入籍していなければ妻とは認めてもらえません。しかし年金の世界では、入籍していなくても実態が夫婦関係にあれば妻として認められます。また遺族厚生年金の場合、婚姻期間の長さも関係ありません。そのためにA子さんには遺族厚生年金が支給されたのです。

[年金上で妻と認められる事実婚の認定要件]
年金上で妻と認められる事実婚の認定要件
事例-2 本妻との離婚が成立していない場合

老齢厚生年金を受給中のB夫さん(65歳)が死亡。

B夫さんは7年前から妻S子さんと別居状態です。その7年前からB子さんと一緒に暮らしていました。B夫さんは、自分から離婚を言い出したこともあって、S子さんが納得するまで時間がかかっても仕方がないという気持ちでした。S子さんとの離婚が成立したらB子さんと入籍するつもりでした。そのB夫さんが胃がんで亡くなりました。さて、B夫さんの遺族年金をもらうことができたのは誰なのでしょう。


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