仕事をしながら療養する
治療は休暇制度のおかげで乗り切った

取材・文●菊池憲一(社会保険労務士)
発行:2012年12月
更新:2013年4月

  

山本裕美(54歳)さんは、短大卒業後、大手の信託銀行に勤務。不動産の仲介の事務などの仕事に取り組んできた。2004年春、会社に行く支度をしていた朝、右胸に痛みを感じた。触ると、ぐりぐりとしたしこりがあった。友人に相談し、都立駒込病院を受診。乳がんに間違いないと言われた。45歳だった。年次有給休暇と会社独自の休暇制度などを活用して、長期間の治療を乗り切った。

病気を機に働き方が変わった

2004年の春、右胸の乳がんの大きさは2.3cm×2cm。医師からは、「まず、抗がん剤の治療を行い、その後に手術。手術は年末ごろになるでしょう」という説明を受けた。会社の上司に治療計画を説明した。上司は、全面的に協力、応援すると言ってくれた。

翌週、術前化学療法のために2泊3日入院。退院後は通常の生活に戻り、また入院。4週ごとに2泊3日の入院治療を8回繰り返す予定だった。

ところが、がんになったショックで、会社に出勤できなくなった。うつ状態で、気持ちが落ち込み、朝起きることができない。5月のゴールデンウイーク明けまで、会社を休んだ。

上司は「会社に来なくなるのでは」と心配した。「会社に来られる方法を探してほしい」と山本さんに電話で伝えてきた。山本さんは、「会社はあなたを必要としています。会社に来てほしい」と言われた気がした。

思い切って、出勤することにした。以前は、毎日21時ころまで仕事をしていたが、上司・同僚の理解協力を得て18時ころには退社した。

また、術前化学療法では白血球が下がり、感染症になりやすい。発熱すると計画通りに治療ができなくなるため、主治医からは「白血球が下がる時期は会社を休み、外出も控えるようにしてください」と言われた。

治療直後の1週間は会社勤務、次の1週間は白血球が下がるため休み、次の1週間は勤務、次の1週間は休みというリズムになった。体力に応じた休暇取得で、8回の術前化学療法を無事に乗り切った。

入院期間は有給休暇を活用

入院中は、先輩患者から声をかけてもらった。気持ちが楽になった。先輩患者の一声に助けられたという。

術前化学療法の入院期間は、すべて有給休暇をあてた。山本さんは、入社以来、健康に恵まれて、仕事一筋で働き続けた。有給休暇は、限度日数60日を持っていた。

また、会社の独自制度で、病気のときに取れる休暇が20日あった。合計80日の有給休暇は、術前化学療法の入院期間に使った。

2004年11月16日から10日間入院。乳房温存手術を受けた。この年はちょうど、勤続25年で、会社から2週間の特別休暇がもらえる予定だった。その2週間の休暇を乳房温存手術の入院期間にあてることができたため。運よく、温存手術の10日間も休暇でカバーできた。賃金は、病気前と同額が支払われた。

「幸運なことに、術前化学療法、温存手術の入院期間はすべて有給休暇だけで乗り切れました。いままで頑張ってきたのだから、休んでください。会社と周囲が認めてくれたように感じました」と山本さん。

「両親からの資金援助もあったので、幸い、医療費で苦しむことはありませんでした。両親にはとても感謝しております」

手術後、放射線治療とほぼ同時にホルモン療法も始めた。当時、副調査役で、職員3人、派遣スタッフ5人を動かして仕事をしていた。会社が求める仕事をやり遂げることが優先された。

放射線治療は、月から金曜日まで、合計30回。会社に相談して、少し早めに早退して治療を受けた。

8年間の治療でも給与に影響せず

ホルモン療法は、2005年1月11日から始めた。最初はゾラデックス(1カ月1回。注射)、タスオミン(飲み薬)だった。その後、注射はリュープリン(3カ月1回)で、通院回数が少なくなった。飲み薬は、タスオミンのあと、フェマーラを使用し、現在に至る。ホルモン療法の治療は、午前中だけ、または午後だけの半日の年次有給休暇扱い。

山本さんは、乳がんの術前化学療法から温存手術、放射線療法、ホルモン療法まで、8年間の治療を会社の休暇制度をフル活用して、給与の減額なしで乗り切った。

山本さんは、乳がんになって、初めて医療費控除の申告に取り組んだ。医療費は、病院や薬局の窓口で支払う。窓口で受け取った領収書を整理して、自動計算できるようにしたエクセルの一覧表に打ち込んだ。

年明け、国税庁の確定申告のホームページを利用して、申告書を作成した。2004年の医療費は80~90万円かかった。翌年は40万円ほど。毎年、医療費を整理し、確定申告をしている。

山本さんは、同じ病気の先輩の話を聞きたかった。インターネットなどで患者会を探した。

駒込病院に乳がん患者の会「こまねっと」があると聞いて、勉強会に参加した。患者会活動への誘いがあった。

「先輩のがん体験を聞きたかったし、後輩に自分のがん体験を話してあげたい」と思った。こまねっとの登録患者は約150人。患者会では会計担当。幸い、こまねっとには病院長はじめ、看護師などが協力的だ。勉強会で病院の講堂を無料で使える。

「自分自身がこまねっとの患者会で、患者さんにずいぶんと助けられたので、今後は後輩患者さんの役に立つことがしたかった。会社とはまったく違う多彩なメンバーと知り合うことができて、視野が広がったように思います」と山本さん。

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病気等休暇・休業制度

1000人以上の企業の85.3%が私傷病に関する休暇制度を導入しています。また、疾病により休業、休職した人が、職場へ復帰・定着するために、例えば、時間単位の年次有給休暇制度、短時間勤務制度など、柔軟な雇用管理に取り組んでいる企業もあります。ただし、大企業でも非正規雇用者は取り組みの対象にならない場合もあるようです。治療と職業生活の両立には、法定の年次有給休暇制度や企業独自の休暇制度の用い方が大切になります

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