仕事をしながら療養する

治療優先しながら2つの仕事を両立

取材・文●菊池憲一(社会保険労務士)
発行:2013年4月
更新:2013年7月

  
竹内喜久夫さん

行政マンの竹内喜久夫さん(64歳)は、60歳で定年退職。嘱託として働き始めた約4カ月後、61歳のとき前立腺がんと告げられた。「治療が優先」と決めて退職。症状が落ち着いてからは、豊富な行政経験を活かして、介護相談員と固定資産評価審査委員の2つの仕事に取り組む。ホルモン療法の治療費は、「高額療養費制度」を利用して乗り切った。

嘱託として再雇用後の罹患高額療養費制度が役立つ

竹内さんは、2009年3月31日、長野県小諸市役所を定年退職した。市役所勤務は33年間。教育委員会への出向を皮切りに、建設部建設課長補佐、教育委員会生涯学習課長補佐、税務課長、佐久広域連合事務局長、経済部長を歴任した。市役所勤務前は、民間企業に4年間勤務していた。60歳から特別支給の退職共済年金と、特別支給の厚生年金が支給される。しばらくは、自由気ままな年金生活を送ろうと考えていた。

ところが、市福祉企業センターの所長から「手伝ってもらえないか」と頼まれた。後輩の所長からの依頼を断れず、同年8月から嘱託の指導員として働き始めた。週5日、勤務時間は8時半から17時15分まで。賃金は日給で支給された。身体障害者など50人弱の職員の体調を把握しながら指導する仕事で、神経も体力も求められた。

指導員を始めてから約4カ月後の2010年11月ごろ、尿の出が悪くなった。気になって病院に行った。PSA(前立腺特異抗原)値が71.6 ng/ml(以下、単位省略)と高かった。担当医から「がんの疑いがあります。精密検査をしましょう」と言われた。すぐに市福祉企業センターの所長に電話をして、「治療を優先したい」と退職を申し出た。

同月に1泊2日の入院。針生検後、「間違いなく前立腺がんです」と告げられた。61歳のときだ。病期はT2bで、ホルモン療法を始めた。始めは飲み薬のカソデックスとハルナールを併用し、3カ月に1回の外来でリュープリンの注射をした。すると、2011年1月の検診ではPSA値は6.7に下がり、4月は2.7に抑え込めた。

治療費は、高額療養費制度でカバーした。入院した12月は、CTやMRI、骨シンチグラフィなどの検査をしたため、医療費はかなりかかった。市役所の保健課国保係から連絡を受けて、国民健康保険高額療養費支給申請書を出した。3カ月に1回の外来治療費もかなりかかった。リュープリン注射の値段が高いからだ。さらに、飲み薬の代金も加わるため、高額療養費の対象となった。

「高額療養費制度のおかげで、かなり助けてもらいました」(竹内さん)

カソデックス=一般名ビカルタミド ハルナール=一般名タムスロシン リュープリン=一般名リュープロレリン

がん体験が役立つ仕事介護施設利用者への橋渡し

症状が落ち着いた2011年3月ごろ、知人から「介護相談員派遣事業の介護相談員になってほしいのですが……」という依頼があった。これは、国が介護サービスの質的向上を図るために推進中の事業である。市長から委嘱された介護相談員は、介護老人保健施設やグループホームなどを訪問し、利用者やその家族の不満や不安を聞く。気軽な相談を通して、利用者と施設職員との橋渡しを担い、介護施設でのサービスやケアの向上を図ることを目的にしている。

佐久広域連合事務局長のとき、老人保健施設の運営でさまざまな経験をした。介護現場を訪ねて、利用者や家族の相談に乗ったこともある。また、税務課長のときは、福祉が必要な現場に足を運んだことがある。竹内さんは、指定の研修を経て、2011年4月から介護相談員として働き始めた。3年契約で勤務時間は週1回、10時から12時まで。「がん体験は、介護相談員の仕事に役立っていると思います」

もう1つ、市の固定資産評価審査委員会委員の依頼もきた。市民から固定資産税評価の相談に応じる仕事である。例えば、固定資産税の評価の見直しをしてほしいなどという相談にのって、解決する仕事だ。税務課長を経験していたから、仕事内容は予想できた。勤務時間は決まっていない。必要に応じて働く。

がん治療をしながら、介護相談員、固定資産評価審査委員という2つの仕事をこなす日々が始まった。

「治療優先でスケジュールを組み立てています。外来通院は木曜日、介護相談員の仕事は金曜日の午前中なので、日程が重なることはほとんどありません。また、固定資産評価審査委員の仕事は、その都度、日時を決められます。治療と仕事の両立は、うまくいっています」

長野のため、もうひと踏ん張りがんのフォールを目指す

スポーツマンである。高校時代は陸上競技、大学時代はレスリングに取り組んできた。30歳までマットに立ち続け、その後は、日本レスリング協会の指導者研修を受けて、長野県レスリング協会のコーチ、監督として何度も国体に出場した。

現在、長野県レスリング協会の副会長を務める竹内さんは、協会のために、もうひと踏ん張りしようと思っている。

「協会を公益法人にして、組織的にしっかりしたものにしたい。いま、規約作りなどを専門家と相談しながら取り組んでいます。来春には実現したい。その後は、我々のような60代は一歩退いて顧問役に徹します。40代が中核的な役割を果たせるようにしたい。もちろん、主役はマットで活躍する信州健児です。『国体の団体優勝』という夢に向かって、信州健児、40代の指導者が存分に力を発揮できる環境つくりに汗を流したい」

告知を受けてから2年数カ月。一時、PSA値は30台に上昇したが、薬の処方を変えてから5に下がり、落ち着いている。ホルモン薬の影響で、かつての筋肉隆々の体は、ふっくらとした体に変わった。しかし、レスリングで鍛えた闘魂は健在だ。今度は、がんのフォールを目指す。

高額療養費

医療費が高額になったとき、竹内さんのように、市町村の国民健康保険の窓口に申請して認められれば、所得に応じて決まる自己負担限度額を超えた分が高額療養費として支給されます。高額療養費の対象となると、世帯主に「高額療養費のお知らせ」を連絡してくれる市町村もあります。申請手続きは簡単です。忘れずに、申請しましょう

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