仕事をしながら療養する

職場復帰への〝慣らし〟時短勤務が効果的

取材・文●菊池憲一(社会保険労務士)
発行:2013年6月
更新:2013年9月

  

西野真紀さん
西野真紀さん(38歳)は、医薬品臨床開発のサービス事業を展開する外資系会社に勤務中、子宮頸がんになった。35歳のときだ。年次有給休暇、会社独自の病気休暇、傷病手当金、高額療養費制度を利用して療養した。職場復帰は、短時間勤務からスタート。きわめてスムーズな復帰を遂げた。

充実した仕事と子宮頸がんの罹患

西野さんは、大学卒業後、製薬会社の委託で新薬の臨床試験業務などを行う外資系日本法人に入社。データマネジメントなどの仕事に取り組んでいた。残業や休日出勤も多かったが、充実した毎日を送っていた。そんな2010年2月頃、不正出血があった。すぐに近所のクリニックへ行ったところ、「がんの可能性があります。大学病院で精密検査を」と言われた。

数日後、がん専門病院で「子宮頸がんの扁平上皮がんです。手術が必要です」と告知された。35歳のときだった。西野さんは治療に専念しようと思い、上司に休職と仕事の引き継ぎを申し出た。そして、会社にも顧客にも、がんのことをオープンにして休職した。

3月、左右の卵巣と卵管を同時に摘出する広汎子宮全摘術を受けた。骨盤内のリンパ節も取り除く7時間半の大手術。病期はⅠbに近いⅡbだった。それでも、早期離床の方針に従い、手術の翌日には立って歩いた。ただ、1週間後に39度の高熱が何日も続いた。徐々にリンパ液がたまってお腹が妊婦のようにふくれた。そのため、通常の入院期間なら2~3週間のところが、約6週間と長くなった。

退院したのは4月下旬だった。退院後は、抗がん薬治療を6回行った。2週間入院治療して3週間休みというリズムを繰り返した。当初、休職期間は半年と見込んでいたが、これも長引くこととなった。

お金・休職などは、会社・公的制度をフル活用

休職を申し出ると、労働基準法の年次有給休暇、会社独自の病気休暇制度を利用することとなった。人事部から健康保険の傷病手当金の説明を受けた。

最初の入院期間40日は、年次有給休暇や会社独自の病気休暇制度を充てた。退院後は、有給休暇と休日出勤の振替休暇、病気休暇の20日を使った。それらの休暇制度を使って、7月半ばまでは乗り越えた。欠勤ではないため、給与全額と3月の特別賞与、6月の夏季賞与も支給された。

「幸い、わが社は休職制度がしっかりしていました。収入面での苦労はありません。2年前、同僚が乳がんで1年間休職して復帰したケースもありました。休むことにも不安はありませんでした」と西野さん。

7月半ばからは欠勤扱いで、傷病手当金が支給された。給与のほぼ3分の2が健康保険組合から振り込まれた。医療費が高くなった場合は、高額療養費制度を利用した。

さらに、会社と民間保険会社が契約している団体長期障害所得補償保険から給付金が支払われた。病気などで長期休暇のときに支払われる保険金である。傷病手当金と民間保険会社の給付金を合わせると、給与の9割ほどになった。

「医療費が高いときは、高額療養費で戻ります。健康保険と年金の保険料を支払っても、かなりの収入がありました。収入面での危機感はありませんでした」

心身ともに時間をかけた職場復帰

抗がん薬治療は2010年12月で終わった。治療後1年間は毎月通院していたが、その後は3カ月に1回の通院で、経過観察になった。

復職前にはスポーツジムに通った。少しでも体力をつけようと思ったからだ。足のむくみ対策として弾性ストッキングもはいた。そして、人事部に「職場復帰をしたい」と申し出た。 人事部からは「産業医との面談で判断しましょう」と言われた。西野さんは、主治医の意見を聞き診断書をもらった。

次に、産業医と面談した。主治医、産業医とも「問題なし」との意見だった。そこで、人事部と相談して復帰を2011年2月1日に決めた。ただし、最初の1カ月間は1日6時間の短時間勤務で残業なし、とした。会社側は慎重に進めてくれた。

復帰初日は、e-ラーニングなどでトレーニングを受けた。それでも、緊張感のある職場環境にいるだけで疲れた。慣れるのに2週間ほどかかった。3月からは1日7.5時間の通常の労働時間に切り替えた。通院日は、フレックス制度を活用した。15時に会社を出て病院に行く。検査と診察に約2時間はかかった。

職場では、徐々に仕事に負荷をかけていった。必要なときは残業もした。復帰して6カ月後の2011年夏頃には罹患前と同様、残業で21~22時まで働く日もあった。完全復活を実感した。

「職場復帰を短時間勤務から始めてよかったです。やはり、『慣らし』は必要ですね」

2013年3月、西野さんはデータマネジメント部門から営業部へ異動となった。顧客である製薬会社のニーズを把握し、サービス内容を考える重要なポジションである。いま、西野さんは新しい役割に燃えている。そして、新しい生き方を探している。

「私は、結婚をしていません。子宮頸がんの治療で、通常より早く閉経しました。子どもは産めません。でも、罹患をネガティブには考えていません。がん患者になって、患者さんの気持ちがわかります。もっと、患者さんに役立つ仕事をしたい。仕事へのモチベーションが高くなりました。また、子どもは産めなくても、子どもを育てることはできます。仕事も私生活も、ベターなこと、楽しいことを求め続けたい」と笑顔で話してくれた。

キーワード 勤務時間の短縮

NHKのクローズアップ現代「がんとともに(2)"働き盛り"失業の不安」(2009年7月28日放送)で、がん患者さん1200名へのアンケート調査が紹介されました。「安心して働くには?」という設問への回答(複数回答)で、最も多かったのは「勤務時間の短縮」で59.8%でした。がん患者さんの多くは、勤務時間を短縮して働いて、体調が戻ったら元のように働きたいと願っています。スムーズな職場復帰に、「勤務時間の短縮」は大切なツールといえます。

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