抗がん剤治療中の吐き気対策と食生活の工夫
わたなべ まり
神奈川県立がんセンター看護部副看護部長。病棟師長、外来師長を経て現職。
北里大学看護学研究科修士課程卒。がん看護専門看護師の一人として、患者さんをサポートしている
神奈川県立がんセンター
看護部副看護部長の
渡邉眞理さん
さくま ゆみ
神奈川県立がんセンター看護部主任看護師。がん化学療法看護認定看護師。
化学療法看護に詳しいスペシャリストとして、患者さんをサポートしている
神奈川県立がんセンター
看護部主任看護師の
佐久間ゆみさん
外来で行う化学療法は自宅でのセルフケアが大切
がんの治療法の選択肢が広がり、抗がん剤による化学療法も進歩してきました。
抗がん剤には、DNAやRNAの合成を阻害するアルキル化薬、代謝拮抗剤、抗がん性の抗生物質、植物由来の成分などいろいろな種類があります。単剤で使われるだけでなく、より効果を上げるために多剤の組み合わせ(レジメン)が開発されています。投与の仕方は静脈への点滴のほか、静脈注射、内服薬などいろいろ。
最近の傾向について、渡邉さんは次のように話します。
「ここ1年の間に、抗がん剤の組み合わせ方、投与方法、投与時期など、使い方の幅が急速に広がり、化学療法が大きく変わってきました。
たとえば乳がんを例にとると、補助療法を術後に行うだけでなく、術前に化学療法でしこりを縮小させ、手術を行うケースも少しずつ増えています。
また、従来は4週間に1度ずつ投与していた抗がん剤を4回に分け、週1回ずつ行って副作用を減らすウィークリー投与法も使われるようになりました。化学療法は外来で行うことが多くなっています」
外来化学療法は、患者さんが自分らしく生活でき、病院にとっても、診療報酬加算の対象になる(設備やスタッフなど病院機能評価機構の基準を満たしている病院のみ)ので、今後もますます増えていくでしょう。
ただ、副作用が起こってもすぐに対処してもらえる入院の場合と異なり、帰宅してからは自分で対処しなければならず、副作用に悩む人も多いものです。
神奈川県立がんセンターでは、外来患者さん対象の相談室を設けていますが、「抗がん剤を専門に勉強した看護師が相談を承ります」と張り紙をしたところ、その日は患者さんが殺到したといいます。
「副作用のつらさを切々と話す方が多く、改めてセルフケアやサポートの必要性を感じています」(渡邉さん)
多くの抗がん剤に共通する副作用は嘔吐、吐き気、倦怠感
抗がん剤は、がん細胞を攻撃すると同時に正常細胞にもダメージを与えます。
「抗がん剤の副作用は、抗がん剤の種類や組み合わせ方によって異なりますが、食生活に関するものとしては、吐き気、嘔吐、口内炎、下痢・便秘、食欲不振、味覚異常、倦怠感などを伴うことが多いですね」と佐久間さん。
なかでも吐き気や嘔吐に悩んでいる患者さんは少なくありません。
肺がんや卵巣がんに使われるブリプラチン(一般名シスプラチン)は、吐き気が強く出る傾向があります。
乳がんに使われる*CMFは副作用が比較的穏やかなのに対して、アドリアシンを使う*CAFや*CAという組み合わせは、吐き気や脱毛などが強く現れることが多いもの。CMFのメソトレキセートは黄色、アドリアシンは赤い色ですが、患者さんから「私は黄色だから軽いわ」という声も聞かれるとか。
「すべての抗がん剤が吐き気や嘔吐を起こすわけではなく、種類や投与量によっても違いますし、個人差も大きいもの。今では、薬剤でかなり予防できるので、恐怖心を持ちすぎないことも大切です」(同)
*CMF=エンドキサン、メソトレキセート、5-FU
*CAF=エンドキサン、アドリアシン、5-FU
*CA=エンドキサン、アドリアシン
商品名 | 一般名 | 吐き気 | 骨髄抑制 | 下 痢 | 脱 毛 | だるさ | 筋肉関節痛 | 神経障害 | その他の 副作用 | 対 象 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アクプラ | ネダプラチン | ○ | ○ | 腎機能障害 | 頭頸部がん | |||||
アドリアシン | 塩酸ドキソルビシン | △ | △ | ○ | 口内炎、心毒性 | 乳がん、悪性リンパ腫 | ||||
イフォマイド | イフォスファミド | ○ | △ | 膀胱炎 | 小細胞肺がん、前立腺がん、骨肉腫 | |||||
エンドキサン | シクロフォスファミド | △ | △ | △ | 乳がん、悪性リンパ腫 | |||||
オンコビン | 硫酸ビンクリスチン | △ | △ | 便秘 | 悪性リンパ腫 | |||||
キロサイド | シタラビン | △ | △ | △ | 急性白血病、肺がん | |||||
ブリプラチン | シスプラチン | ○ | △ | △ | △ | 腎機能障害 | 胃がん、大腸がん | |||
ジェムザール | 塩酸ゲムシタビン | △ | ○ | 肝機能障害、発熱 | 肺がん | |||||
タキソール | パクリタキセル | △ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | 肝機能障害 | 乳がん、卵巣がん、胃がん、肺がん | |
タキソテール | ドセタキセル | ○ | ○ | △ | △ | △ | 発熱 | 乳がん、卵巣がん | ||
ダカルバジン | ダカルバジン | △ | 悪性リンパ腫 | |||||||
トポテシン、カンプト | 塩酸イリノテカン | ○ | ○ | △ | △ | 大腸がん、胃がん | ||||
ナベルビン | ビノレルビン | ○ | ○ | △ | △ | 発熱、血管痛 | 肺がん | |||
パラプラチン | カルボプラチン | ○ | △ | △ | △ | 卵巣がん | ||||
5-FU | フルオロウラシル | △ | △ | 大腸がん、乳がん | ||||||
ファルモルビシン | 塩酸エピルビシン | △ | △ | △ | 乳がん | |||||
メソトレキセート | メトトレキサート | 肝機能障害 | 乳がん | |||||||
ノバントロン | 塩酸ミトキサントロン | △ | ○ | 急性白血病、悪性リンパ腫 |
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