リンパ浮腫と感染症
婦人科系がん手術後に起きるリンパ浮腫

取材・文:月崎時央 ジャーナリスト
発行:2004年1月
更新:2013年7月

  

佐々木寛さん
東京慈恵医大産婦人科医師の
佐々木寛さん

確率は手術を受けた人の4割程度

――子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がんの手術で、リンパ節を切除した場合に足がむくむことがあるということですが、今日は婦人科のがん手術と感染症について教えてください。

佐々木 そうですね。がん細胞の転移している可能性のあるリンパ節を切除することを、リンパ節郭清というのですが、手術の合併症として、単にむくむということではなく、下肢にリンパ浮腫という特殊なむくみが起こることがあるのです。

――下肢とは脚のことですね。

佐々木 はい。「うっかりすると象さんみたいな脚になりますよ」ということは、手術前に必ず説明しています。

――どういうことでしょうか?


重症のリンパ浮腫で腫れてしまった脚

佐々木 写真を見ていただくのが、分かりやすいかな。

――えっ。これですか? これはすごい。たしかにむくみという範疇ではないですね。こんなに激しく腫れると知ったら、驚きますね。リンパ浮腫が起こるとか、足が腫れますと言われても、ここまでのことは想像できないし、手術前は手術のことで頭が一杯ですしね。

佐々木 手術を受けた方の40パーセントぐらいの割合で、リンパ浮腫が起こります、と言うと、みなさん他人事と思って私は大丈夫と思うようですが。ところが実際こうなると、やはり困るわけですね。

――それはそうですね。これじゃあ靴もズボンも履けないじゃないですか。なぜこんなことになるのですか。

佐々木 リンパ浮腫は、リンパ節をとることや、放射線治療によって体液のバランスをつかさどるリンパ管という組織にダメージを与えることによって、体液が吸収されず、手足などに溜まってしまうために起こります。
まず手術でリンパ節をとったときに、リンパ液のよどみができて、骨盤の中などにそれがたまります。このよどみが原因で、骨盤の中でリンパ嚢胞というものができることがあります。

――リンパ液の行き場がなくなって、たまるんですね。

佐々木 ええ。そこで、ドレーンといってリンパ液を出すように管をいれておくわけですが、どうしてもこのドレーンに細菌がつきやすい。また抜いた後にも細菌がついて炎症を起こしやすいのです。リンパ浮腫が起こる人は、よくこのリンパ嚢胞ができるといえます。

――リンパ浮腫は、手術後、どのくらいの時間で起こってくるものなのでしょうか。

佐々木 約700例診ていますが、私が調べた範囲では、術後に一過性に浮腫が起こるのが、早いと2カ月、平均5カ月で現れます。だいたい、一時的には引っ込むんです。ところがそれを繰り返しているうちに、永久的に腫れてしまうのが、9カ月ぐらいからです。

[図1]
通常の脚または腕の血液の流れ
[図2]
通常の脚または腕の血液の流れ
[図3]
通経過観察のための指標


図1=通常の脚または腕の血液の流れ。動脈から出た血液が毛細血管に伝わり、水分とタンパク成分は毛細血管の外に出て、組織中の細胞に取り込まれる。水分はそのまま静脈に戻るが、タンパク成分は静脈に戻ることができず、リンパ管に入っていく。

図2=リンパ管が切除されてもリンパ液は細々とでも流れ続け、脇道がどんどん発達する。人間の体は、何とかしてリンパ液を流そうとがんばっているのだ。

図3=経過観察のための指標。リハビリの効果を見るために、図のように脚または腕の周径を測定する。測る位置はわずかにずれても1~2センチは簡単に違ってしまうので、同じ部位を測る。〈図1~図3はいずれも(株)アズウェル発行の「リンパ浮腫の治療」(広田内科クリニック院長 廣田彰男さん作成)より抜粋掲載〉

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