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抗がん剤の副作用 「下痢」のセルフケアで快適に!

監修・アドバイス:飯野京子 国立看護大学校成人看護学教授
文:池内加寿子
発行:2005年7月
更新:2019年7月

  

飯野京子さん 国立看護大学校
成人看護学教授の
飯野京子さん

いいの きょうこ
1960年生まれ。
82年新潟大学医療技術短期大学部卒。
1999年聖路加看護大学大学院修士課程成人看護学がん看護CNSコース卒。
82年国立がん研究センター中央病院、看護師。
2001年国立看護大学校成人看護学教授。
専門は、成人看護学、がん看護。

下痢になるのはなぜ?
腸で水分が吸収されないと起こる

一般に、食べ物は口で噛み砕かれて食道を通り、胃ですりつぶされ消化されて、腸に送られます。

どろどろの食べ物が腸に入ると、小腸(十二指腸→空腸→回腸)でおもに栄養が吸収され、まだ水分の多い状態で大腸へ進みます。大腸(盲腸→上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→直腸)では、おもに水分が吸収されて便の形状になり、先に進むほど硬くなって、直腸に到達するころには固形便の状態になるのが普通です。直腸に便がたまると便意が起こり、肛門から排泄されます(図1参照)。

通常はこのように、食物がゆっくり腸を移動する間に栄養や水分が吸収されて、適度な硬さの便になるのですが、腸の粘膜に炎症が起こると水分の吸収が不十分になり、下痢便になります。また、自律神経の影響で腸の運動が昂進しすぎて内容物が急速に進んでしまうときも、水分の吸収ができずに下痢になることがあります。

[図1 排便のしくみ]

図:消化器官
図:大腸拡大図

食べ物は 口→食道→胃→小腸→大腸を通り、便として排出されます。小腸でおもに栄養を、大腸で水分を吸収していますが、抗がん剤の副作用で腸が障害されたり、食物が急激に通過したりすると、水分が吸収されず、下痢が起こります。

抗がん剤によって起こる下痢は?
「早発性の下痢」と「遅発性の下痢」の2種類ある

[図2 小腸粘膜のひだ]
図:小腸粘膜のひだ

平常時は、多くのひだで栄養や水分を吸収していますが、抗がん剤の副作用によって平坦化すると、十分な吸収ができなくなります。

「抗がん剤治療中に見られる下痢には、腸の粘膜障害によって起こる“遅発性の下痢”と、薬物によって副交感神経が昂進し、腸の動きが活発になって起こる“早発性の下痢”の2種類あります」と抗がん剤の副作用とケアに詳しい国立看護大学校教授の飯野京子さんは説明します。

腸の粘膜障害による遅発性の下痢は、軽重の差はあれ、多くの抗がん剤でみられる症状で、投与数日後に発症するのが普通です。

これは、抗がん剤ががん細胞を攻撃するのと同時に、消化管や口内の粘膜など、細胞分裂の早い細胞も障害するために起こるものです。腸の粘膜にはたくさんのひだがあり、表面積を広くして栄養や水分を吸収していますが、粘膜障害が起こると、ひだが平坦化して栄養や水分を吸収できない状態になり、水分を多く含んだ下痢便になるのです(図2参照)。

さらに、この時期は、抗がん剤の影響で白血球が減少し、免疫力が落ちてくるために、腸管感染を起こしたり、腸粘膜や肛門の炎症や痛みがひどくなったりすることもあります。

「もう一方の“早発性の下痢”は、投与当日、24時間以内に起こるもので、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン、略号CPT-11)という薬剤を使うときに頻発します」

いろいろな研究の結果、イリノテカンの作用で神経伝達物質のアセチルコリンが働いて、腸の動きをコントロールしている副交感神経が昂進し、腸の内容物が急激に通過するため、水分が吸収されずに下痢便になる、というメカニズムが解明され、“コリン作動性の下痢”とも呼ばれています。普通なら、消化された食べ物が腸の中を徐々に進む間に栄養や水分が吸収されるのですが、腸の動きが昂進すると水分が吸収される暇のない超スピードで通り抜けていってしまうわけです。

下痢を起こしやすい薬剤は?
イリノテカンでは6割の人に下痢が発生

「イリノテカン使用時は、投与当日の早発性の下痢のほか、イリノテカンの代謝産物が腸管で再吸収されることで腸管の粘膜障害が起こり、遅発性の下痢も加わります。

早発性の下痢は短期間でおさまるものの、遅発性の下痢を併発するために、投与後1~2週間は栄養状態が悪化する危険があります。白血球の減少によって腸管感染を起こした場合はさらに重症化することもあるので、とくに注意が必要です」

イリノテカンを使うとすべての人に下痢が起こる、というわけではありませんが、発生頻度は61.9パーセントと、抗がん剤の中ではもっとも高くなっています。

ちなみに、他の抗がん剤では、5-FU(一般名フルオロウラシル、12.3パーセント)やメソトレキセート(一般名メトトレキサート、5パーセント程度)などが比較的下痢を起こしやすい薬剤だといえるでしょう(表1参照)。

では、高頻度で下痢を起こしやすいイリノテカンはどのようながん治療に使われているのでしょうか。 「肺がんや消化器がん、卵巣がんなどの場合に、他の薬剤と組み合わせた多剤併用療法で用いられることが多いですね。肺がんでは、抗がん剤がよく効く小細胞肺がんをはじめ、最近では扁平上皮がん、腺がん、大細胞肺がんといった非小細胞肺がんにも効果があるとされ、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチンなどの白金製剤と組み合わせて用いられるようになっています」

大腸がんや胃がんなどの消化器がんでも、イリノテカン単独、またはシスプラチンや5-FUと組み合わせたレジメンが用いられています。

「吐き気が強く出るシスプラチンと、下痢が起こりやすいイリノテカンの組み合わせは、患者さんにとってつらいものと思われるかもしれませんが、制吐剤の点滴や、水分や電解質などの補液が行われるので、きちんとした医療管理を受けていれば重症の脱水症状になることはまずありません。婦人科がん、直腸がんなどで、放射線を組み合わせる場合は、局所の粘膜障害が起こるので、強い下痢の症状が現れることが多いといえます」

[表1 下痢を起こしやすい抗がん剤]
抗がん剤の種類 一般名/略号
商品名
適応 副作用の
好発時期
備考
トポイソメラーゼ2阻害薬 イリノテカン/CPT-11
トポテシン、カンプト
小細胞肺がん、非小細胞肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、胃がん(手術不能または再発)、結腸・直腸がん(手術不能または再発)、乳がん(手術不能または再発)、有棘細胞がん、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫) 早発性(与薬直後)はコリン作動性
遅発性(与薬後24時間以降持続)は腸粘膜障害
特に好中球低下により致命的な経過をたどることがある
トポイソメラーゼ2阻害薬 エトポシド/VP-16
ラステット、ベプシド
小細胞肺がん、悪性リンパ腫、急性白血病、睾丸腫瘍、胃がん、子宮がん、絨毛上皮性疾患 好中球低下時
代謝拮抗剤 フルオロウラシル/5-FU
5-FU
胃がん、肝がん、結腸・直腸がん、乳がん、膵がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、食道がん、肺がん、頭頸部腫瘍 与薬後数日から10日程度以降 投与後、投与回数の増大により下痢が増大
代謝拮抗剤 メトトレキサート/MTX
メソトレキセート
急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、乳がん、骨肉腫、精巣腫瘍、軟部肉腫、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)、絨毛性疾患、胃がん 与薬後数日から10日程度以降
代謝拮抗剤 シタラビン/Ara-C
キロサイド、サイトサール
急性白血病、消化器がん(胃がん、胆嚢がん、胆道がん、膵がん、肝がん、結腸がん、直腸がんなど)、肺がん、乳がん、女性生殖器がん、膀胱がん 好中球低下時


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