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前立腺がんの排尿障害に対するケア
原因に応じた適切な対策で、気持ちのよい排尿を!

監修:吉田利夫 日本大学医学部泌尿器科学教室助教授
取材・文:池内加寿子
発行:2006年5月
更新:2013年8月

  
吉田利夫さん
日本大学医学部
泌尿器科学教室助教授の
吉田利夫さん

前立腺がんでは、がんそのものの影響や手術、放射線などの治療の後遺症として、排尿困難、尿失禁などの排尿障害が起こることがあります。

それぞれの原因に合わせた適切な治療法とケアについて、日大板橋病院泌尿器科科長の吉田利夫さんに伺いました。

排尿障害はなぜ起こる?
尿道が圧迫されると排尿困難、尿道括約筋の損傷では尿失禁に

[図1 前立腺の内部構造(垂直断面)]
図1 前立腺の内部構造

前立腺の下端に丈夫な構造の尿道括約筋が、尿道をとりかこんでいる

前立腺は、男性の膀胱の真下にあるクルミ大の器官です。前立腺の真ん中を通っている直径7ミリほどの尿道がペニスの先まで続き、膀胱にたまった尿を排泄しています。また、前立腺のすぐ下には、尿を途中で止めるときに働く尿道括約筋が走っています(図1参照)。このように、前立腺の周辺には、尿をためたり(蓄尿)、出したり(排尿)する器官がいろいろあります。

「前立腺がんに関連して起こる排尿障害には、がんの進行や再燃によるもの、前立腺肥大の合併によるもの、手術や放射線治療後の後遺症によるものなどがあり、原因がさまざまで、それによって治療法も異なります」

前立腺がんの治療と排泄障害に詳しい日大板橋病院泌尿器科科長の吉田利夫さんによると、前立腺がんにともなう排尿障害の原因は4タイプに大別でき、対処法も異なるそうです。

(1) 前立腺にできたがんが進行して大きくなり、尿道を圧迫、浸潤して、尿が出にくい排尿困難や血尿などの症状が起こる。

(2)早期の前立腺がんで、がんそのものは小さいが、前立腺肥大症による尿道圧迫や「過活動膀胱」を合併して、排尿困難、頻尿、尿漏れなどが起こる。

(3)治療したがんがやがて再燃して、尿道を圧迫、浸潤し、排尿困難、血尿などの障害が起こる。

(4)手術や放射線などの治療によって、尿道括約筋が損傷したり膀胱自体が影響を受けたりして、尿失禁などが起こる。

「前立腺をりんごにたとえると、尿道はりんごの芯にあたります。前立腺がんはりんごの皮(外側)に近いところから発生することが多いので、早期のがんが尿道を圧迫して排尿困難を起こすことはあまりありません(図2参照)。がんが小さいのに排尿困難をともなう場合は、りんごの芯に近い前立腺組織が腫れる前立腺肥大症を合併している(2)のケースが多いですね」(吉田さん・以下同)

[図2 前立腺がんの種類]

[早期がん]
図:早期がん

前立腺の外側、括約筋の近くから発生。6、7割は直腸側にできる。尿道を圧迫することはほとんどない
[進行がん]
図:進行がん

がんが進行し、大きくなったがんが尿道を圧迫、浸潤して、排尿障害を起こす。勃起神経に浸潤することもある

がんが進行して初診時に排尿障害をともなっている(1) のケースは、早期発見が増えた現在では、全体の1割程度だといいます(下コラム参照)。

「ホルモン療法などの治療によって寛解(がんが肉眼的に消失した状態)していた前立腺がんが、何年もたってから再燃して排尿困難を起こす(2)のケースは(1) より多いですね」

排尿障害の原因ががんによるものか、良性の前立腺肥大によるものかは、前立腺がんの指標となるPSAという腫瘍マーカーの数値と、前立腺組織に直腸側や会陰から10~20本の針をさして細胞の悪性度や広がり方を調べる生検によってほぼ判断できます。

吉田さんより一言

私たちが入局した20年ほど前には、前立腺がんの有効なマーカーがなかったため、排尿困難や血尿、骨転移の痛みなどの症状が出てから受診する方が多く、初診時に3~4期まで進行しているケースが大半を占めていました。その後、1990年代にPSAというマーカーが導入されて開業医でも簡単に測定できるようになり、前立腺がんが早期発見されることが増えたので、初診時に排尿障害をともなうほどがんが進行している患者さんは少なくなっています。


進行したがんによる排尿障害の対策は?
ホルモン療法で治療しながら、一時的に尿道カテーテルで排尿

初めて見つかった前立腺がんが3~4期まで進行していて尿道が閉塞し、尿が出にくい、血尿がある、膀胱から尿があふれてダラダラ漏れるなどの排尿障害がみられる場合は、どうすればよいのでしょうか。

1 まず、ホルモン療法

「通常はまず、がんそのものの治療としてホルモン療法を行います。前立腺がんでは、男性ホルモン(テストステロン)が腫瘍の成長を促進させますから、男性ホルモンを抑える薬を使った治療を始めます」

進行した前立腺がんでも、この方法で8割程度は寛解の状態になり、排尿障害も改善し、骨まで転移している場合でも痛みが軽減してくるそうです。

2 αブロッカーで排尿改善

「ホルモン療法はすぐに効果が現れるわけではないので、膀胱頸部の筋肉をリラックスさせて排尿しやすくするαブロッカー(商品名ハルナールなど)という薬を併用します。前立腺肥大症に使われる薬ですが、尿が出にくい患者さん一般に効果的です」

3 カテーテルで強制排尿

「薬剤でも症状が改善されず、尿がまったく出ない“尿閉”や強い排尿困難がみられる場合や、残尿がある、あふれて尿漏れするなどの排尿障害をともなうときは、カテーテルと呼ばれる細い管を尿道から膀胱まで挿入して、尿の通り道を作り、自動的に排尿できるようにしておきます。がんが縮小して排尿困難が改善してきたら、普通の排尿に切り替えます」

[自己導尿カテーテル]
写真:自己導尿カテーテル

太さ4mm、長さ約28cmの管です。1日4~6回、自分で(または家族や介護者の手を借りて)ペニスの先端から尿道に挿入します。膀胱に届くと自然に尿が排出できます。消毒液を注入したケースの中に入れて持ち歩き、手を洗ってから操作しましょう

カテーテルには、医師や看護師さんの手で尿道に入れて留置(入れたままキープ)し、2~4週間ごとに外来で入れ替える「バルーンカテーテル(フォーリーカテーテル)」と、自分で1日に4~6回挿入して導尿する「自己導尿カテーテル」があります(写真参照)。

「バルーンカテーテルを入れた当初はやや違和感がありますが、数日間で慣れるのが普通です。1日に何度も導尿する必要がなく、手間がかからないのがメリット。
管の留置に抵抗がある方は、自己導尿カテーテルを試してみましょう。認知症がある場合は、バルーンカテーテルの管を引き抜いたりしたときに、膀胱や尿道が傷つく危険があるので、家族の方や介護者が自己導尿カテーテルで対処することをおすすめします」

ベッドから起き上がれない患者さんの場合は、バルーンカテーテルの先端に尿をためるバッグをつけ、たまった尿を捨てるとよいでしょう。

なお、前立腺肥大を合併して排尿困難がみられる場合も、αブロッカーなどの薬物療法を中心に治療を行います。

[フォーリーカテーテル(留置用バルーンカテ)]

写真:フォーリーカテーテル
写真:フォーリーカテーテルの2重管構造


長さ40cmの管で、片側に風船がついています。反対側は、風船をふくらませるために水を注入するコックつきの管と、尿を出す管がふたまたに分かれています。風船のついているほうをペニスの先端から尿道に入れ、膀胱に届いたところで、コックから注射器で蒸留水を注入すると、膀胱の中で風船がふくらみ、液体は漏れずに管が固定されます。ふたまたの管は途中で合流して1本になりますが、断面は写真右のような2重管になっています

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