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早期介入により悪化を防ぐ

がん悪液質に対する運動介入のベスト・プラクティス

監修●立松典篤 国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
取材・文●半沢裕子
(2017年12月)

「早期に診断をつけ、予防的に介入して不応性悪液質へ移行しないようにしなければなりません」と語る立松典篤さん

悪液質とは重い病気が進行した段階で現れる一連の症候群で、心疾患や肺疾患、血液疾患でも発症するが、がんの終末期にも高い確率で発症し、一度発症すると打つ手が少ないことが知られている。ところが、がんにおいては悪液質が起こる前から栄養介入(栄養を指導・管理すること)や、運動介入(指導して運動してもらうこと)を行うことで、悪液質を予防したり、進行を抑制する可能性が指摘されている。なぜ早い段階からの栄養介入や運動介入が悪液質の予防や抑制に役立つのか、どんな栄養介入や運動介入をしてもらえば効果が期待できるのか。国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の立松典篤さんに、主に運動介入について解説していただいた。

早期の栄養と運動の介入が悪液質の進行を予防

近年、がん終末期に起こりやすい悪液質は他の病気による悪液質と区別して、がん悪液質と呼ばれている。

国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の立松典篤さんは「がん悪液質にはいろいろな定義がありますが、現在、よく使われているのは2011年にヨーロッパ緩和ケア研究国際協力プロジェクト(PCRC)が発行した『悪液質に対するガイドライン』(EPCRCガイドライン)の定義です。これによれば、多くの要因により起こる症候群で、骨格筋量がどんどん減ることが一番の特徴です。この骨格筋量の持続的減少は通常の栄養サポートだけでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至ることも少なくありません。進行がんの患者さんによく見られる合併症の1つで、がん患者の50~80パーセントが発症し、がん関連死の約20パーセントを占めると言われています」と語る。

病理生理学的にいうと栄養が吸収されにくいうえ、がん細胞が産生するサイトカイン(微量な生理活性タンパク質の総称)や炎症促進物質に体が反応して代謝の異常が起こり、タンパク質や脂肪の分解が促進され、安静にしていてもエネルギーが失われる状態になるという(図1)。

図1 がんと炎症反応の関係

具体的な症状としては体重や骨格筋の減少に加え、食欲不振、低栄養、うつや不安、疲労や倦怠感など。がんが進行性の病気であるうえ、治療薬や副作用の影響もあり、がん悪液質の病態も複雑で変化に富んでいるという。

前悪液質と悪液質の段階から進行させないことが重要

そうした病態のため診断基準も定まらなかったが、近年は前述のEPCRCガイドラインの診断基準や病期が用いられるようになっているという(図2)。それによると病期は次の3つ。

図2 EPCRCによるがん悪液質の診断基準

【前悪液質】

6カ月以内の体重減少が5パーセント以内で、食欲不振と代謝変化の発生を伴う。

【悪液質】

①6カ月以内の体重減少が5パーセント以上、

②BMI(体格指数)が20未満で、体重減少が2パーセント以上、

③サルコペニア(筋肉量の減少に伴って起きる全身の筋力および身体機能の低下)で、体重減少が2パーセント以上、①②③のいずれかで、経口摂取不良、全身炎症を伴う。

【不応性(難治性)悪液質】

がん悪液質の様々な状態が認められ、異化亢進(タンパク質の分解が促進され、エネルギーが失われること)、治癒抵抗性の状態にあること。パフォーマンス・ステータス(PS全身状態)が不良で、生命予後が3カ月未満。

検査には精度のいい体脂肪計のような機器を使って骨格筋を測定するバイオ・インピーダンス法(BIA法)、最も精度が高いとも言われる二重エネルギーX線吸収法(DEXA法)などが使われることもあるが、最大の診断基準はあくまで体重減少。

コンピュータ断層診断(CT)の画像を撮り、腰椎3番レベルの断層画像から骨格筋の面積を求める方法もあるが、「CT検査は被曝量が多く、悪液質の診断だけには使えませんが、がん患者さんには治療効果を見るため定期的にCT検査を行うので、その画像から骨格筋量を算出します。腰椎3番レベルは全身の骨格筋の変化を一番反映していると言われています」

診断をつけることが大事なのは、「最初の2つの段階(前悪液質、悪液質)ではケアを含めできることがたくさんあるが、不応性(難治性)悪液質に入ってしまうとできることが非常に少なくなるため。悪液質のスイッチが入ると一気に加速し、止めることは非常に難しいのです。ですから、早期に診断をつけ、予防的に介入して、できるだけ前悪液質あるいは悪液質の段階に止め、不応性悪液質へ移行しないようにしなければなりません」

がん治療は大前提。さらに栄養、運動、抗炎症薬

では、予防も含め、悪液質の治療とはどんなものだろう。まず、大前提になるのはがんの治療。がんが進行しなければ代謝異常も起こりにくく、悪液質も発症しにくい。つまり、がん治療そのものが悪液質の予防・治療になる。同様に、抗炎症薬やステロイドなどによる炎症の抑制も重要な治療だが、さらに今日重要視されているのが運動と栄養の非薬物療法だ。

ただでさえ体力が低下しやすい進行がんの患者が悪液質になると、骨格筋量が減り筋力が低下して活動量が落ちる。すると、心身の様々な機能低下を伴い、PS全身状態)が悪くなり、さらに活動量が落ちるという悪循環に陥りやすい。結果としてQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)を著しく低下させてしまう。

逆に言えば、前悪液質の段階から栄養状態を維持し、運動により一定の筋肉量を維持すれば、悪液質→不応性悪液質と移行していくことを抑制することができると推測できる。

「エビデンス(科学的根拠」はまだ十分ではありませんが、その狙いを持って早期から栄養介入、運動介入を行い、必要に応じて炎症を抑制するという方向性が出てきていると思います。実際、予後1年と診断された患者さんが6か月の時点で食べられない動けない状態になる場合と、残り1カ月まで食べて動ける場合とでは、かなり違った人生になると思います」

栄養についてはまず食べられるものを食べること、ただし最低限のバランスを考えつつ、できるだけ普段の食事がとれるようにする。難しい場合は、補助食品をプラスする。

「私は専門家ではありませんが、筋肉の合成を促す栄養に特化した栄養補助食品などを追加するのが、おそらく一般的な栄養療法ではないかと思います」

運動は有酸素運動とレジスタンス・トレーニングを組み合わせて行う。有酸素運動とは身体に一定の負荷をかけてある程度継続して行う運動で、活動量を維持するのに役に立つ。

「一番簡単なのはウォーキングです。水泳や自転車など好きな方法で行えばいいのですが、毎日続けられて簡便なのはウォーキングだろうと思います」

レジスタンス・トレーニングとは抵抗(負荷)をかけるトレーニングで、平たく言うと筋力トレーニングのこと。筋力を維持しADLやPSをキープし、QOLが落ちないようにする。立松さんは次のように述べる。

「一般に、筋肉を維持するには一定以上の強い負荷をかける必要がありますが、最近は『1回の運動強度は低くても回数を増やすことで負荷の高いトレーニングと同じ効果が出せる』と考えられ、研究結果も出てきています。悪液質になる患者さんには脆弱な方が多いですが、こうした運動なら脆弱な患者さんでも自宅で続けられます」

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