若年者乳がんの会“ひろば”(若年者乳がん/全国)
「何もしない会」が特徴だが、癒やしにつながる活動は積極的に行う
若年者が病気のことを包み隠さず話せる「場」に――

若年者乳がんの会“ひろば”設立者:齊藤光江 順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科科長
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  
齊藤光江さん
若年者乳がんの会
“ひろば”設立者の
齊藤光江さん

若年性乳がん患者さんの多くは、仕事場でも上司以外に話せない、親にも言えないなど、病気のことを話せる場がほとんどありません。
そんな若年患者さんが病気のことを話せる場をつくろうと、乳腺科の医師が立ち上げたのが若年者乳がんの会「ひろば」です。

病気のことを包み隠さず話せる“場”

若年者に限らず、乳がんを患うと、誰に打ち明けるかを考えるものです。しかし、若い女性ほど本能的に、今後女性としての生き方に不利なことがどれほどあるのか計り知れないという不安から、まずは殻を閉じた貝のようになるものです。

つらい体験の乗り越え方には個人差があるでしょうが、一般的にはそれを話せる相手がいることが大きな救いとなります。

また、聞き手が良い聞き手であることが話し手の癒やしにつながります。

年長の女性たちは、病院の待合室でなんと上手に仲間を作ることでしょう。若い女性も、おしゃべりは得意なはずです。しかし、こと病気の話になると、結婚はできるのだろうか? 子どもは産めるのだろうか? 育てられるのだろうか? 育て上げられるのだろうか? 仕事はどうなるのだろうか? 昇進は? お金は? それより何よりどれくらい生きられるのだろうか? なぜこうなったのだろうか?

医者に聞いて絶望的な答えをもらったら立ち直れないだろうが、周りの者に聞いても、自分ががんであることを人に知られ、人からの評価が変化することで、自分や自分の子どもが余計なハンディを負うばかりなのではないか? と疑心暗鬼になりがちなのが、若い女性の特徴であるように思います。

若年者乳がんの会“ひろば”は03年9月9日に創始しました。

病気であることを包み隠さず話せる“場”の提供でした。

“ひろば”は、言葉という手段を使って、思い(心)のキャッチボールをする“場”です。若年者なので、サポーター(医師、看護師、薬剤師、家族)が、怪我をしないように見守ります。

“何もしない”活動

写真:海の見えるレストランで夕食会
写真:海の見えるレストランで夕食会

年4回の夕食会。素敵なお店選びも楽しみの1つ。海の見えるレストランでおしゃべり

写真:順天堂大学主催のワークショップ「患者と医療の架け橋」会場

平成22年3月7日、順天堂大学主催のワークショップ「患者と医療の架け橋」会場で活動内容を展示したブースを出展

第1回の集まりでは、10数名の患者さんが自己紹介をしただけで2時間以上を費やしました。簡単に……で始まった挨拶はこれまでどんなにつらい思いをしてきたか、どんな言葉に傷つき、どんな出会いで救われたか……などで、話し出したら止まらぬ人、途中で感極まり、涙で言葉が続かなくなる人、それを聞いて共感の涙を誘われる人……。

用意した食べ物は、ほとんど手がつけられないままに終わりました。お腹を空かせて、2次会のコーヒーショップに流れ込み、今後の会をどのようにしたいかを話し合いました。ある人は、こんなこともあんなこともしたいと提案されました。

しかし、また別の人は何かをしなくてはならない会であるならば、忙しい自分は段々に足が遠のくだろう、何もしなくてもふと立ち寄れて、おしゃべりをしたら癒やされてまた元の自分の持ち場に戻れるような、そんな会にしたいと言われました。

これが多くの方々の共感を呼び、以来「何もしない会」になりました。もちろん、“何もしない”の“何”は、義務感が生じる活動のことであり、癒やしにつながる活動には積極的な会となっています。

“ひろば”が大事にしている活動内容を、左記に列挙します。

(1)年4回の夕食会

(2)毎回全員の自己紹介:一時、新人のみの自己紹介にしたところ、旧会員を知ることができずに新人がなじめなかった経緯から、思う存分の自己紹介・近況報告を大事にしています

(3)新幹事の決定:夕食会ごとに、新幹事を主に自薦で決めます。この一時的な幹事が、会の代表になります。次の夕食会の趣向や議題の提案、新会員のエスコートを担います。このエスコートとは、新人がいきなり大きな会に出るのは不安であろうとの配慮から、“プチひろば”なる小さなおしゃべり会を企画して、定例“ひろば”への安心できる公園デビューを促すものです。幹事さんたちは、プチ会や次の企画の準備を通して仲間と深く知りあうようになります

(4)小冊子制作:会員の治療体験を基に、治療を乗り切るノウハウを出し合って後輩患者さんに贈る小冊子を制作しています。“ひろば”の拠点である順天堂医院乳腺センターの各種教室(手術教室、化学療法教室など)で配布します。会に出られない人や、今まさに不安におびえる後輩にとって温かいメッセージのつまった小冊子を読むことは、それだけで心を癒やす大事なボールをキャッチしたことになります

(5)順天堂医院乳腺センター市民公開講座への協力

(6)ブログ開設

どの病院でもサポートを望めば受けられる環境を

小児プログラムと似て、若年者の会は通過点であると思っています。年長になれば若年者らしい悩みが解消され、卒業し、自ら何かを発信できる頼もしい存在になっていきます。勉強会の企画や、行政への働きかけのような積極的な取り組みは他に任せ、傷ついた野鳥が飛び立てるまで安心して過ごせるシェルターとしての存在であればと考えています。

多くの医療者に若年者のケアの特殊性と必要性を理解していただき、どの病院で治療を受けても同様のサポートを望めば受けられる環境が整うことを切に願っています。“ひろば”を、その1つの参考にしていただければ嬉しく思います。


若年者乳がんの会“ひろば”

本部:順天堂大学医学部乳腺・内分泌外科秘書室
東京都文京区本郷3-1-3
TEL:03-3813-3111(5855 佐伯宛)
FAX:03-3813-3307


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