小児がん患児・家族サポートチーム NPO法人「エスビューロー」(小児がん)
「子どもとともに歩んでいきたい」
医師と患者の橋渡しとして
「どうもおかしい……」と思い、受診した病院で大きな病院を紹介された。そして突然言い渡された子どものがん。動転し、先生の説明をじっと聞いているのが精一杯だった。即入院と言われても、どうしてよいのかさっぱりわからず、頭も体も動かない……。
案内された病室で先にあいさつをしてくれたのは、既に何カ月か前から入院していた、(後にエスビューローの代表となる)安道颯君のお母さんだった。憔悴しきり誰とも話をする気にもなれなかった私に、「いくつ?」「何人目のお子さん?」「がんばろうね!」と声をかけてくれた。どうしてこの人はこんなときに明るいのかとても不思議だった。
でも実は違った! 小児科病棟では、親子がそれぞれに大変な事情をかかえ、生活している。どの親も1人になると泣いているが、子どもの前では明るく振る舞うのだという。ほかのみんなも頑張っているのだから自分もがんばらねば! と踏ん張っていた。このような、母親たちの共感と連帯感、そしてそこから与えられる力や希望、これらが親の会の役目ではないかと今は思うところだが、当時の小児科病棟ではそれが自然な形でなされていた。
ただ、親同士の話の中では、素人の間違った情報が錯綜し、医師への間違った見方をしていることもあった。それは、子どもを亡くした後、当時看てもらっていた医師と出会い、じっくり話し込んだときにわかった。
1999年9月に私は子どもを亡くし、翌年1月、続いて安道颯君も亡くなった。悲しいけれど、もうここにわが子がいない今、先生にすべてをさらけ出して話ができた。一方先生のほうも、子どものいない私たちには話しやすかったのだろう。お互い、そんなふうに考えていたのかという誤解が多く見つかった。子どもの闘病・入院生活を終えてみて、医師と患者が信頼関係を築くことが最も重要だということに気付いた。
2000年5月、エスビューローが創設された。
ミッションは医師と患者の橋渡し。そのためには、かつて患児家族であった我々2人だけではなく、当時看てもらっていた小児科と小児外科の医師にも加わってもらう必要があった。最初は、医療者側からは医療情報、患者側からは親や患児の想いなどを載せた機関紙を作成することから始めた。
そして、医師や看護師は普段忙しくて患者は言いたいことや聞きたいことも十分聞けないため、また間違った情報に翻弄されることがないようにと、病棟内で、院内の医師を講師に迎えた「入院患児家族のための勉強会」を催した。広く一般に向けても、講演会や学習会などを催し、正しい情報を患者家族に提供できるよう努めた。2004年2月に行った「小児脳腫瘍フォーラム」では、全国から157名が集まり、用意していた会場は満席で立ち見も出るほどだった。いかに患児家族が情報を欲しているかがうかがえた。
2005年からは何回かの連続講座で体系的に学べるよう「医療学習」を始めた。医療学習の後には、テーマをしぼったワークショップも開き、患者家族の悩みや問題解決に取り組んできた。そして治療を終えたあと学校に戻る「復学」の問題に、多くの子どもがぶちあたっていることに気付く。医療学習の対象は学校教師にも広げていった。
そして2008年、2日間にわたる「第1回小児がん・小児脳腫瘍全国大会」を京都において開催した。「全国大会」という言葉を使うことに一抹の不安と緊張を持ちつつ行った初めてのイベントだった。家族で参加でき、親は講義を聴き、患児やその兄弟はボランティアのサポートを受けながら、同じように病気と闘っている仲間と交流をする。
参加者からは「有意義な2日間だった」という感想が多く寄せられた。講師の先生やエスビューローのスタッフ以外にも、学生や多くのボランティアの協力があった。とくに、子どもを亡くして日の浅い親御さんもスタッフとして参加してくれたことを、我々としては大変嬉しくもあり感謝している。
このように、初の全国大会は、多くの人の想いがさまざまな形で結実し、おかげさまで成功へ導けたと認識している。この先、来年も再来年も毎年この大会で出会い、共に成長していってほしいと願う。2009年は8月に神戸で、第2回全国大会を開催した。
現在会員数476名、そこには、患児家族だけでなく、医師や看護師、学校の先生など多くの人が含まれている。
私たちは今、患者でも医療者でもない。でも双方の立場や想いを理解し、医師からは信頼される団体、患児家族にはよき先輩アドバイザー、そしていつの日も、小児がんと闘っている勇敢な子どもたちの強い味方でありたいと願っている。
エスビューロー事務局
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