ろばの耳
甲状腺がんの仲間が集まり「おしゃべり会」やメーリングリストで親交を深めていく

文:沖原幸江
発行:2005年3月
更新:2013年7月

  
沖原幸江
主宰の沖原幸江さん

メールのやりとりで仲間がいることを実感できる

本誌2003年12月号の患者会活動レポートで少しお伝えしましたが、昨年から、ろばの耳(通称ろば)というがん患者のセルフヘルプ(自助)グループが活動を始めました。ろばにはいくつかのグループがありますが、今回は甲状腺のグループについてお話したいと思います。

「ろばの耳」ってどういう意味? ……会の名前は、ご想像のとおり『王様の耳はロバの耳』 (ギリシャ神話のミダス王の故事)に由来しています。ロバの耳を持つ王様が、唯一秘密を知っている髪結いに「他言したら厳罰に処する」と言います。黙っていられなくなった髪結いは、掘った穴に向かって王様の秘密を囁き、上から土をかぶせておきました。話してしまった髪結いはすっかり楽になりましたが、穴の上に生えた葦がそよ風に吹かれて王様の耳の秘密を囁いてしまった……というお話です。

がん患者が、周りの人に気を遣わないで気持ちを思い切り吐き出せる場所(穴)を作りたい、と考えていたときに思い出したのが、昔聞いたこのお話でした(もちろん、葦が生えないように、草刈をよくする必要はありますが)。

「ろばの耳 甲状腺の会」は、2003年12月に5名のメンバーでスタートし、2カ月に1度都内でおしゃべり会を実施し、普段接触することのない同じ病の仲間と、近況を報告し合って来ました。

そして1年が経過する頃、メンバーの中にいろいろな思いが湧いてきました。「以前の自分の様に1人ぼっちでいる人たちに、会の存在を知らせたい」「入院中や、遠くに住んでいておしゃべり会に来られない人たちにも、1人じゃないよと伝えたい」「手術で声帯を失い、会話が難しい人たちも参加できるようにならないか?」。仲間と出会えたことで「1人ではない」と実感でき、気持ちが軽くなったメンバーの本音でした。

苦しいとき、悲しいとき、落ち込んだとき、すぐその場で誰かと話せたら、少しは楽になるのに、と思うことはありませんか? わたし自身も、グループ療法や月1開催のおしゃべり会の運営に2001年から関わってきた中で、必要なときにいつでも利用できる「命の電話」のような仕組みを作れないものかと考えてきました。

この会では話し合いの末、メーリングリストで、新しいコミュニケーションを始めることになりました。メーリングリストは電子メールの一種で、登録しているメンバー全員に一斉にメールを配信することで、情報を共有し合うシステムです。文字ですので、発声できるかどうかも問題にはなりません。

ろばの耳 甲状腺の会
東京・高尾山に集まった
ろばの耳 甲状腺の会のメンバー

2004年10月からメーリングリストが稼動しました。初めてパソコンのメールに挑戦するメンバーもいます。最初は、慣れた人たちのペースについていけるか心配していましたが、習うより慣れろ! でした。メールのやりとりが始まってしまえば、自分の気持ちを伝えるためには、自分で打って送るしかないのですから。自分のペースで書いて送ればよいので、会話が苦手な人でも気軽に参加できます。通信費はかかりますが、携帯メールで参加している人もいます。「次はいつ会う? どこに行く?」という話し合いも自然に発生し、11月に高尾山で全員集合しました。写真は、そのときのものです。

同じ病気の人に会ったことがないという人がいます。病院で仲間を探そうにも、どうやって誰に声を掛けたらいいのかわからないという人もいます。また、患者の多くは、病気のことを考えて不安になったり、何故わたしなの? と怒りが湧いたりするのは決まって夜中だと言います。家族や友人を起こしたり、電話することもできず悶々と過ごしていた、と参加している人たちは言います。喜怒哀楽なんでも書いて送れば、抱え込んでいたものを吐き出したことで楽になれます。

メールを書いているうちに考えがまとまることもあります。「同じ思いをした」という返事が来たり、「同病相励まし」たり、タイミングがよければすぐに返事がくることもあります。自分の元気の素はここ(メーリングリスト)だと、多くのメンバーが言っています。治療や物理的な距離やいろいろな事情で、実際に会うことは難しいかもしれませんが、インターネットを通して、たくさんの仲間がいることを実感してみませんか? あなたは1人じゃないから! 最後に、メンバーからのメッセージです。

「甲状腺がんは、他の臓器に比べて長いおつきあいが必要になってきます。再発、転移、合併症のこと、職場でのこと、家庭のことなど1人で不安を抱えていないでおしゃべりをしませんか。もちろん、病気の話題に限らず、趣味などの話題も大歓迎です。現在は女性だけですが、男性の患者さんもお気軽にご参加ください」

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