がん患者のための「セルフケア&癒しのワーク」セミナーを実施して
オープンマインドで、自分の「心への気づき」を促進する

文:寺田佐代子 乳がん患者会「わかば会」代表
発行:2007年5月
更新:2013年7月

  

日本ではじめてのセミナーを実践

寺田佐代子さん


寺田佐代子さん

イアン・ガウラー。がん患者の“セルフヘルプグループ”の先駆者である。骨肉腫で右足を切断したが、半年で転移・再発。医師に「2~3週間の命」と言われたが、自ら考え出したメディテーション(瞑想)で、がんは消えた。

なぜ、メディテーションが癒しにいいのか。ガウラーによると、(1) 心の平和と透明さをもたらす、(2) 免疫システムを丈夫にする、(3) 自己への気づき、自己認識、自己尊重を促す、(4) 体と心を癒す、の4つの効果があるという。

ガウラーは、自ら体験したことをベースに緻密に考えられた内容で、セルフサポートグループのプログラムを実践し推進していた。30年という年月をかけて、彼はそれを創造してきたのであろう。

私も実際、メディテーションを体験してみたが、時の経過とともに心がゆったりとした気分になり“癒し”を実感することができた。そして、瞑想の時間は自分で簡単につくり出すことができるということを知った。

1日のなかで、自分の都合のよいときにいつでも行えるというのが瞑想のメリットで、瞑想に要する時間は、30~45分程度である。

私は、ガウラーのプログラムの内容を、日本のがん患者のセルフケアに役立てたいと決意し、日本に帰り早速、1泊2日で実践した。湯の山温泉・ゆらぎの国で、「がん患者のためのセルフケア&癒しのワーク」というセミナーを実践したのがそれだ。

プログラムの内容は、およそ以下のようなものであった。

●自炊、おしゃべり会、太極拳、自然散策

●セッション・「セルフケアへのアプローチ」

●自分の心の奥にあるものに気づく、心のシェア、who am I? good thinkingのすすめ、自己開示、私の求めるものを明白にしていくアプローチなど

以上であるが、本当はこういうグループワークは合宿型で、日数もガウラーが実践したように1週間から10日かけて行うのが望ましい。しかし今回は、参加者が患者ということもあって、まずは1泊2日。参加しやすく、体力的に誰もが参加可能な程度のものから始めてみたのである。

今回の参加者は12名であった。小人数であったためコミュニケーションがとりやすく、参加者の心の中にあるものをじっくりと引き出すことができたように思う。

セルフケアワークでいちばん大切なことは、いかに“そこにいる人”を思いやるかということである。ガウラーも、「共にいること」「思いやること」の大切さを説いていた。

ガウラーのセミナーを土台に

オープンマインド

ワークを始める前の説明

ワークを始める前の説明。みんなリラックスしている

まず2人1組になって「オープンマインド」という質問項目(23項目から成り、最後は自由対話)にそって、対話を進めていく。互いに知らない者同士でも、自己紹介から始まり、質問に答えていくことにより、オープンマインドになる。自分の“心への気づき”を促進する実習である。

互いに深く関わるには対話が大切であり、話し手は自己開示、聞き手は傾聴のスキルを養う実習である。双方の共感的理解が得られると信頼関係ができ、心の安心が生まれる。これは自己肯定につながり、自己肯定は自己受容へとつながっていく。

質問は「私の名前は……私の生まれたのは……」、「私のできることで、いちばん得意なことは……」「私がいちばん不得手なことは……」、「私が、今日うれしかったことは……」「いやだったことは……」、「私の、最近の気持ちは……」、「あなたについての、私の第1印象は……」、「私が、今、いちばん不安に思っていることは……」などといった内容になっているが、対話の進め方は参加者に任せるのである。

オープンマインドを通じて学習できること

オープンマインドにより学習できることは、自分の気持ちに気づくこと、である。そしてそれを自己開示し、相手に受け入れてもらう“心のシェア”によって、他者との関係性のなかで自分の居場所を見つけることを知るのである。

人間は、他者との関係性のなかで生きている。しかし、がん患者は不安が多すぎて、自分の心も不安の塊になってしまう傾向があり、対人関係のなかで孤独を感じやすくなっている。自己開示をして、「今」「ここで」生きることを体感することによって、喜びを感じる。喜びは不安を軽くする。

オープンマインドになることは、他者との対話において自己開示のスキルを養ううえでの学びともなる。自己開示のスキルは、がん患者のみならず誰にでも役立つ、より良い人間関係づくりのスキルである。

自己開示するには、自分の気持ちに明白でなければならないので、質問項目によって「そのときの自分の気持ち」、とくに「自分は何が不安であるのか」も気づくことができる。

ここで大事なことは、聞き手が相手の話しやすいムードで「たずね方」や「聴き方」をすることである。こうすることで聞き手は、傾聴のスキルを体験的に学ぶことになる。対話における、双方の心の持ち方によって、人間関係におけるより良いコミュニケーションのあり方を学ぶことができるのである。

また話し手は、自分の心を開く自己開示、聞き手は相手を思いやる傾聴、共感的理解が大切となる。悩む者は、相手に傾聴されることで、心が安らぐことができる。他者に受け入れられると、人間は心が落ち着く。そしてそれが可能となる環境づくりは、セルフヘルプグループの役割であることにも気づくのである。

学習のねらい

対話を通して、お互いにより深く関わり合い、自己開示と傾聴の大事さを体験する。また、ピアサポートに役立つ対話の展開を知ることで、対話と傾聴のスキルを養う。

と同時に、自己開示することは、自分の心の状態をよく知ることになり、それによって自己解決が可能な問題であれば、その解決の糸口を見つけられるという「セルフケア」にもなるのである。

参加者のアンケートから

セミナー参加者全員で

セミナー参加者全員で

1泊2日のセルフケアワークが終わったのち私は、参加された9人の皆さんにアンケートをとった。およそ以下のような感想が寄せられた。

・ワーク担当者と、食事やお茶担当を支えるスタッフを分けるとよい

・一緒に食事を作るのも楽しい

・自由で縛られない雰囲気がとてもいい

・純粋に楽しめた

・盛りだくさんすぎて、各々が短いのが残念

・焦点をしぼってやって欲しい

・ゆとりを持って自分を見つめることができた

・初発、再発にかかわらず、精神的に追い詰められた人にどう対応するのかな? と思った

・食事は仕出しをとったらどうか?

・フィードバックの方法を改善したらいい

・場所、季節を変えて実施して欲しい

・1人ひとりの目を見て体感できる、このくらいの人数(12人)がとても気持ちよかった

 

堤先生のオーボエライブ

夕食後の憩いの時間。堤先生のオーボエライブ

セルフケアワークは「楽しい」「とても必要だ」という回答を読み嬉しく思った。内容や進行については改善の余地があり、アンケートに寄せられたことを参考に今後に生かしていきたい。

体験学習の内容については、学びたいこと、テーマによってアレンジすることが可能であり、私の過去の体験、実践から応用できるものが多々あるため、今後それらを応用実践していくことを考えている。

また、進行に協力してくれるスタッフの役割が必要であることも痛感した。これからは積極的にお手伝いのボランティアの参加を募ろうと思う。初回はそこまで配慮がまわらなかった。実際問題、やはりわたし1人では大変だった。

また音楽は藤田保健衛生大学教授の堤豊さんにお願いして、オーボエの演奏をしていただき、大変好評だった。憩いの時間に“癒し”の音楽は、本当にすばらしいものだったので、今後も音楽はぜひ取り入れていきたい。

また、今回、患者と医療者の参加がちょうどペアになれる人数で、お互いに新しい体験となり、効果的であったと思う。患者向けのセミナーではあるが、医療者の参加も募っていきたい。それには、この経験をもとに今後さらに内容を深めて、回を重ねていけたらと思っている。


キャンサーペイシェントサポート
well being & 乳がん患者会「わかば会」

〒448-0804 刈谷市半城土町荒井畑95-706
TEL&FAX 0566-25-6403  
メール

※セルフケアワークに関心のある方は、寺田までお問い合わせください。今後、開催するワークの際、進行に協力してくださるボランティアスタッフも募集します。

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