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〝患者の声〟を政策に (NPO法人ブーゲンビリア〈乳がん〉)

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2012年8月
更新:2013年7月

  

がん患者さんやそのご家族にとって、患者会や患者支援団体は大切な存在です。また、医療の充実にとっても重要な存在となっています。しかし、患者会や患者支援団体には、運営方法や地理的制約、部位格差のほか、ドラッグ・ラグやがん患者の就労といった難しい課題もあるようです。このコーナーでは、がんと共に暮らすすべての人々のために、活動や企画、人材など、患者会・患者支援団体のこれからを伺っていきたいと思います。


2012_05_01内田絵子理事長

NPO法人ブーゲンビリア
理事長:内田絵子
〒190-0022 東京都立川市錦町2-12-31
TEL:090-6495-5856
URL:http://www.buugenvilia.com/

2012年で設立15周年という記念の年を迎える乳がん患者会「ブーゲンビリア」。

勉強会や会報誌発行に止まらず、政策提言なども積極的に行う同会の内田絵子理事長にお話を伺いました。

幸せな医療

1994年、内田絵子さんはご主人の赴任先であったシンガポールでがん告知を受けたそうです。それでも、それから続く異国での闘病生活は、乳房全摘出というショックがあったにせよ、十分な心のサポートが受けられ、自分が自分らしくいられた「幸せな医療」だったといいます。

それは情報開示制度と自己決定制度が十分にとられ、「私」を中心としたチーム医療が組まれていると感じさせる、人間の尊厳を大事にした素敵な一大イベントだったそうです。内田さんはその感謝と恩返しをしたいという気持ちから、帰国後の1998年にブーゲンビリアを立ち上げました。

4本柱

内田さんの想いは、その活動内容に表れています。同会では、「学び」「いやし」「国際協力」「提言活動」の4つを柱に様々な活動を行っています。「学び」では、年6~7回の学習会やシンポジウムを開き、乳がん治療の勉強はもちろんのこと、「よく死ぬことはよく生きること」をテーマに、10年以上にわたり会員たちと〝いのち〟について考え続けているそうです。

「いやし」では、「しゃべることは治ること、聞くことは治ること」を合言葉に、がん患者さん同士でのピアサポートおしゃべり会やお花見、温泉旅行などのレクリエーション活動も催しています。おしゃべり会では、「初回乳がん」「再発乳がん」「若年性乳がん」とに分け、よりわかりやすく、より本音で話しやすい環境を作ることで、参加者からは「自分らしさを取り戻せた」と好評だそうです。

「国際協力」では、アジア諸国の女性や子どもへの医療支援を行うための募金活動やボランティア、「乳がんの克服をサポートする国際会議」や「アジア乳がん患者大会の主催」など積極的に参画することで、海外の乳がん患者さんとの連携も図っています。「提言活動」では、患者の視点を医療サイドに提言をしたり、行政との橋渡しを他の患者会と共に行っているそうです。

ブーゲンビリアの会員

同会の会員数は200名を超えます。最近の傾向では、検診を受ける時や告知を受けた時点で入会を希望する方が多いそうです。

また、「ホルモン療法の副作用を知りたい」、「リンパ浮腫対策を学びたい」といった具体的なテーマを持って入会する方も多いといいます。インターネットからの入会者も増えていますが、知人からの紹介や病院の会報を見てという方も依然として多いようです。

「ずっと以前から貴会のことは知っていたが、がんの事実を忘れたくて。でも不安で……」といった入会者もいるそうです。入会者の増加にともない、新しいがん仲間を支えるため、先輩会員らは分かち合い・支えあいのピアサポーターとして力を注いでいます。

ちなみに、同会では性別や罹患の有無を問わず、家族やパートナーの入会も可能です。会員の世代も20代から80代までと多岐にわたっています。術後10年以上たつとがんを卒業、治療の終了や結婚、引っ越し、介護といった生活形態の変化から退会される方もいるそうです。

連携と協働

「ブーゲンビリア」が抱える目下の課題は、後進の育成です。一部役員の負担増や高齢化、会の規模・活動が大きくなるなどの理由から、運営もシステム化や分業化が求められます。そのため、分担制など様々な工夫や知恵を出しては模索をしているといいます。同時に、人材の育成も積極的に進めていきたいそうです。

また、他の患者会との交流や連携・協働も行いたいといいます。というのも、がん種や疾病を問わず、すべての患者さんに共通した医療問題の解決には、他団体との連携が不可欠だと考えているからです。

例えば、「医療基本法」の制定や「診療報酬」の問題など、患者会同士が政策形成をまとめることで、より良い医療へとつなげることが出来ます。「患者会は、がん種や規模、目的などによって棲み分けが出来ているように思います。

ですから、すべての患者会が無理に1つの連合体になるのではなく、必要に応じて連携・協働していきたいです。ドラッグ・ラグ、がん登録、緩和ケア、在宅ケア、リハビリティーション、相談窓口問題などといった共通の課題にはみんなで取り組み、疾患別の問題などには個別に対応していくことが今まで以上に求められてくるでしょう。今後、益々連携・協働が重要になるのでは……」と内田さんはいいます。

一方で、その連携をとるため、従来のフェイス・トゥ・フェイスに加え、フェイスブックやウェブなどのコミュニケーションツールの活用も大事だと考えているそうです。

患者会のチカラ

内田さんは、「将来、仮に自分が再発したとしても恐怖感に押しつぶされることなく、がんと冷静に向き合える自信を持っています」といいます。それは、「過去に幸せな医療を受けたこと、そしてブーゲンビリアでの死生観を含めた勉強と仲間がいるから」だそうです。

また2012年3月、ご主人が大腸がんになり傍で看病をしたことで、改めて「患者の今の不安な気持ちに寄り添う」という大事な原点に立ち返ったそうです。「確かにがん医療は日進月歩で、必ずしも『がん=死』ではなくなってきています。しかし、患者さんは『患部だけ』を診るのではなく、『その人間全体を見てほしい、人間の尊厳を尊重してほしい』と願っているのです。患者さんやご家族は、いくら十分なエビデンスのある医療を受けても、どれだけ情報があっても、孤独や不安で仕方がないのですから……」といいます。

さらに、「すでに、日本の医療政策は限界にきています。医療者にとっても患者にとっても幸せな医療を作っていくには、行政や医療従事者のみならず、〝患者の声〟を政策に反映させる必要があるでしょう」と話してくれました。

患者会や患者支援団体には、行政や医療従事者との媒介となるチカラがあります。2人に1人ががんに罹患する時代に、がんは誰もが関係することです。エネルギッシュな内田さん、ブーゲンビリアの活動に、これからも期待したいと思います。

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