患者会ねっと 患者会・患者支援団体コミュニケーションプロジェクト ~ がんと暮らすすべての人へ ~

経験とネットワークをもとに、新たな試みを (リンパの会)

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2012年8月
更新:2013年7月

  

がん患者さんやそのご家族にとって、患者会や患者支援団体は大切な存在です。また、医療の充実にとっても重要な存在となっています。しかし、患者会や患者支援団体には、運営方法や地理的制約、部位格差のほか、ドラッグ・ラグやがん患者の就労といった難しい課題もあるようです。このコーナーでは、がんと共に暮らすすべての人々のために、活動や企画、人材など、患者会・患者支援団体のこれからを伺っていきたいと思います。


金井弘子代表

リンパの会
代表:金井弘子
〒276-8799 日本郵便 八千代支店 私書箱15
TEL:090-5333-1094 (火・金曜日13:00~16:00)
FAX:047-450-6594
URL:http://lymphnokai.com

1989年設立という歴史ある患者会「リンパの会」。がん種別による患者会や患者支援団体が多いなか、「リンパ浮腫」という症状による患者会となる同会。治療の進歩や社会変化によって会も変化しているという、同会の金井弘子代表にお話を伺いました。

歴史ある団体

「リンパの会」が設立された当時は、患者さんにリンパ浮腫に関する情報が少なく、医療現場からも「リンパ浮腫は仕方がない」と考えられていました。

そのような時代に、同会はリンパ浮腫の情報発信を行う数少ない団体でした。唯一の団体といって良いかもしれません。

そのため、新聞やTVなどで紹介されると、情報を探しあぐねていた多くの患者さんからの問い合わせが殺到したといいます。同会が大きく変化する契機は2000年頃、インターネットの普及とともに患者さんの声が大きくなりつつあるときでした。

また、がん対策基本法が成立(2006年)され緩和ケアの推進が求められたことにより、リンパ浮腫も注目されるようになりました。さらに、弾性着衣が保険適用(2008年)となり医療界も力を入れるようになり、リンパ浮腫は知られるようになりました。「現在ではリンパ浮腫外来もあり、患者さんや会の環境は変わりました」と金井さんはいいます。

長い歴史を持つ同会には、様々な経験があります。同会では、設立当初から弾性着衣の保険適用を求め陳情活動を行っていました。しかし、それは簡単なことではなかったといいます。というのも、当時は「弾性着衣でリンパ浮腫がケアできるのか?」という課題がありました。

弾性着衣が保険適用になるだけの治療効果があるのかを、専門家である医師が実態調査をして、有効であるとの証明が必要でした。『弾性着衣を身に着けることがリンパ浮腫患者にとって必要不可欠である』と多くの患者さんが唱えても、この時の試みは実りませんでした。

金井さんは、「この時に集めた会員からの署名や議員への訴えは、その後の弾性着衣保険適用に影響を与えたと思いますが、問題を積極的に取り組む外部協力者との関係作りの重要性も感じました」と回顧します。

会員さんとスタッフさん

約470名の会員さんからなる同会は、がん種ではなくリンパ浮腫という〝症状〟でのつながりとなります。そのため、同会には様々ながん種の会員さんがいるそうです。現在は、子宮がんの会員さんが50%強、乳がん30%、卵巣がん15%弱、前立腺がんの患者さんが残りを占めるといいます。会員さんのなかには乳がんの患者会とかけ持ちをして、リンパ浮腫の専門的な情報はこちらで得るという方もいるそうです。

同会では他の患者会との交流もあり、会員さんのためになるならば、他の患者会の会員さんも積極的に紹介しているといいます。会員さんの入会動機には、最新・専門の情報入手や日常でのケア方法を知りたいといった方や、同会の医療従事者との豊富なネットワークを求めて入会する方もいらっしゃるようです。セラピストなどの専門家も賛助会員として入会しているといいます。

もちろん、患者さんの近親者などリンパ浮腫に罹患していない方の入会も可能だそうです。同会の運営費はこのような会員さんからの会費のほか、一般企業からの「総会」出店費、会報への広告費、弾性ストッキングの販売益などからまかなわれているそうです。

2011年11月、同会は沖縄・鹿児島でリンパマッサージの「集会」を行いました。それまで、沖縄ではリンパ浮腫に関する患者さん向けの集会がなかったため、大変喜ばれたそうです。その後、他地域の会員さんからも、「私の町でもやってほしい」という要望が多くあったといいます。そのため、地域による患者さんの情報格差解消のためにも、今後はより多くの地域で集会をやっていきたいそうです。

ただ、会員さんは全国にいるため、なかなか行えないのが悩みの種だといいます。そのため、2012年7月に事務局を東京から千葉へ移しました。移転による経費削減とともに、若手スタッフを育て機動性を高めることで、会員さんに還元していきたいといいます。

次代を担うリーダー・スタッフを育てることは、会存続に関わる重要なことだと考えているそうです。そのため若手スタッフには、企画や活動の工程を傍で体現させ観察させること、人的ネットワークを作ることに努めてもらっているといいます。また、「リーダーは、知識はもとよりスタッフに好かれることも重要」と金井さんはいいます。

活動内容の変化

現在の同会では、それまでのように「リンパ浮腫治療を行う医療機関を患者さんに広く知らせる」というようなことは、それほど必要がなくなったといいます。むしろ、患者さんのほうが様々な情報を持っている場合もあるからだそうです。

しかし、そこには危険な場合が多いといいます。というのも、浮腫発現の有無や時期などは人によって異なり、弾性着衣やリンパマッサージの効用も様々です。そのため、本当にやっていいこととやってはいけないことがあります。

また、患者さんのなかには、神経質になりすぎる人もいれば、まったく気にしない人もいるそうです。一方で、がんの再発にも注意を払わなければなりません。そのため、現在ではその専門性を活かし、正確で最新の情報を届けることに主眼を置いているといいます。

とりわけそれは、同会の主な活動である「総会」で発揮されています。歴史ある会のため、症状がどんなに特異であったとしても、同会のなかに同じような症状を経験した会員さんが必ず存在するといいます。

そのため、弾性ストッキングをはくだけで滅入るという患者さんが、前向きな会員さんと話すことで、「救われた、心が軽くなった」と大変好評だそうです。「経験者同士の交流は大切です。この会員さん同士のマッチングは誇れます」と金井さんはいいます。もちろん、これら総会や集会の活動は、機関誌「ながれ」や「リンパの会通信」で会員さんに報告されているそうです。

新たな試み

しかし、課題もあるといいます。「リンパ浮腫経験者以外の方が、経験者に『あなたのことはよく分かります』といっても、経験者からすると『分かっていない』とどうしても思ってしまいます」といいます。というのも、「医療従事者の使命感と自負は、患者さんにとって大変嬉しいことです。

ただ、知っていることと体験していることは異なると思います。だから、なかなか話が通じ合えないのです。お互いが50:50で語り合うことで、なんとかして患者さん個々の症状に適した情報を提供できる方法はないだろうか?」と考えていたそうです。そこで同会では、セラピストとともに「無料相談会」を開くといいます。相談会には、医師や看護師など医療従事者の参加も募ります。

医療従事者をも巻き込んだこの会は、会員さんの悩みをより多く拾い上げるだけでなく、忙しい医療従事者へリンパ浮腫の多様な症例を、集約した形で提供できる効果的な方法であり、医療従事者と患者さんの溝を埋め病院と連携することで、患者さんそれぞれに合った最新の情報が提供できると考えているそうです。こういった方法は、他の患者会にも応用できるのではともいいます。

「患者さんも医療従事者も、リンパ浮腫の情報を最低でも1年に1回は更新してほしい」と金井さんはいいます。さらに、「患者さんは勉強をしていますし、患者会も失敗例や成功例の蓄積があります。確かに医療の心得はありませんが、患者さんのためになる情報を挙げられるかも知れません。

ですから、医療従事者の皆さんと密に連携をとりたいのです」といいます。医・患両方に目を配る金井さん。歴史からなる豊富な経験とネットワークをもとに、新たな試みにも挑戦する「リンパの会」の活動に、注目したいと思います。

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